不運な出来事が重なり、散々な目に遭ったときに使われる言葉です。
日常会話でよく耳にする表現ですが、なぜ「踏まれたり蹴られたり」と受け身で言わないのか、疑問に思ったことはないでしょうか。
この言葉の正確な意味と、意外と深い言葉の成り立ちについて解説します。
「踏んだり蹴ったり」の意味
踏んだり蹴ったり(ふんだりけったり)とは、重ね重ねひどい目に遭うことのたとえです。
一度の不運だけでなく、悪いことが連続して起きたり、徹底的に痛めつけられたりして、どうしようもない状況を指します。
一般的には、自分が被害を受けた際に「今日は踏んだり蹴ったりな一日だった」のように使います。
「踏んだり蹴ったり」の語源・由来
この言葉の由来は、文字通り「踏まれたり蹴られたりするような、乱暴な扱いを受けること」から来ています。
しかし、ここには日本語特有の興味深い変化が隠されています。
なぜ「踏まれたり蹴られたり」ではないのか
本来、自分がひどい目に遭う状況であれば、受け身の形である「踏まれたり蹴られたり」と言うのが文法的には自然です。
これには諸説ありますが、主に以下の理由で現在の形が定着したと考えられています。
- 語呂の良さ:
「ふまれたりけられたり」よりも「ふんだりけったり」の方がリズムが良く、言いやすいため、長い年月の中で変化した(あるいは混同された)。 - 喧嘩の描写:
もともとは「(相手を)踏んだり蹴ったりする」という加害側の激しい動作を表す言葉があり、それが転じて「そのような状況(大喧嘩や修羅場)」全体を指すようになり、最終的に被害を受けた側の嘆きとして使われるようになった。
いずれにせよ、現在では自分が加害者であるという意味で使われることはなく、自分がひどい目に遭ったことを嘆く表現として定着しています。
「踏んだり蹴ったり」の使い方・例文
日常会話からビジネスシーンまで、自分の身に降りかかった災難を強調したい場面で幅広く使われます。
「不運が重なったとき」や「予想以上に悪い結果になったとき」に使うのが一般的です。
例文
- 出勤途中に雨に降られたうえ、電車も遅延して遅刻してしまい、今日は朝から踏んだり蹴ったりだ。
- 張り切って幹事を引き受けたのに、店は予約できておらず参加者からは文句を言われ、まさに踏んだり蹴ったりの目に遭った。
- 風邪を引いている最中にパソコンまで壊れるなんて、踏んだり蹴ったりとしか言いようがない。
文学作品での使用例
- 夏目漱石の『吾輩は猫である』にも、「吾輩は〜」で始まる有名な書き出しの後に、猫が人間から受ける扱いについて語る中で、散々な目に遭う様子としてこの種の表現が登場するシーンがあります
(※直接的な「踏んだり蹴ったり」というフレーズそのものよりも、同様の不遇な状況を描写する文脈で親しまれています)。
「踏んだり蹴ったり」の類義語・言い換え
「悪いことが重なる」という意味の言葉は他にもありますが、それぞれニュアンスが異なります。
- 泣きっ面に蜂(なきっつらにはち):
不運な時に、さらに別の不運が加わること。「踏んだり蹴ったり」と非常に似ていますが、こちらは「弱っている状況」に焦点が当たっています。 - 弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ):
困っている時に、さらに災難が重なること。「泣きっ面に蜂」と同様の意味です。 - 一難去ってまた一難(いちなんさってまたいちなん):
一つの災難を乗り越えたと思ったら、すぐに次の災難が来ること。「連続性」や「息つく暇もない様子」を強調します。
「踏んだり蹴ったり」と「泣きっ面に蜂」の違い
踏んだり蹴ったりは、「ひどい扱いを受けた」「ボロボロになった」という被害の激しさや惨めさに重点があります。
一方、泣きっ面に蜂は、「すでに悪い状態なのに、さらに追い打ちがかかる」というタイミングの悪さに重点があります。
「踏んだり蹴ったり」の対義語
不運な状況とは反対に、物事が順調に進むことを表す言葉です。
- 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):
追い風を受けて帆がいっぱいに膨らむように、物事がすべて順調に進むこと。 - とんとん拍子(とんとんびょうし):
物事が滞りなく、調子よく進んでいくこと。 - 至れり尽くせり(いたれりつくせり):
配慮が行き届いていて、申し分ないこと。「踏んだり蹴ったり(ひどい扱い)」の対極にある「手厚い扱い」という意味での対義語と言えます。
「踏んだり蹴ったり」の英語表現
英語にも、不運が重なることを嘆く似たような表現があります。
add insult to injury
- 直訳:怪我に侮辱を加える
- 意味:「泣きっ面に蜂」「踏んだり蹴ったり」
- 解説:すでにダメージを受けているところに、さらに追い打ちをかけるようなひどい仕打ちがある場合に使われます。
- 例文:
It rained on my vacation, and to add insult to injury, I lost my wallet.
(休暇中に雨が降っただけでなく、踏んだり蹴ったりなことに、財布までなくしてしまった。)
It never rains but it pours.
- 直訳:降れば必ず土砂降りになる
- 意味:「降れば土砂降り」「二度あることは三度ある」
- 解説:悪いことは一つだけでは終わらず、まとめてやってくるという意味のことわざです。
- 例文:
First the car broke down, then I lost my keys. It never rains but it pours.
(最初は車が故障し、次は鍵をなくした。まさに踏んだり蹴ったりだ。)
「踏んだり蹴ったり」に関する豆知識
「~たり~たり」の用法の例外
文法的に「~たり~たり」は、動作の並列や繰り返し(例:「見たり聞いたり」「食べたり飲んだり」)を表します。
しかし、「踏んだり蹴ったり」の場合、実際に「踏む」と「蹴る」を交互に繰り返しているわけではありません。
この場合の「~たり」は、代表的な例を挙げて事態の甚だしさを強調する用法です。
実際に暴力を受けていなくても、精神的に「踏まれたり蹴られたりしたかのような」ダメージを受けたときにも使えるのは、このためです。
まとめ – 踏んだり蹴ったりから学ぶ知恵
「踏んだり蹴ったり」は、不運が重なり、心身ともに疲れ果ててしまったときに思わず口に出る言葉です。
しかし、この言葉があるということは、古くから多くの人が同じような「どうしようもない日」を経験してきた証拠でもあります。
散々な一日だったとしても、「今日はまさに踏んだり蹴ったりだったな」と言葉にして状況を客観視することで、少しだけ気持ちが軽くなるかもしれません。
明日は「順風満帆」な一日になることを願って、気持ちを切り替えていきましょう。





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