時間をかけて準備したものが、思わぬ横槍によって台無しになってしまう。そんな、せっかくの苦労が次々と無駄にされてしまう徒労感と悔しさをユーモラスに表現したのが、「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」(ごんべえがたねまきゃからすがほじくる)です。
意味
「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」とは、せっかく苦労してやったことが、後から次々と無駄にされてしまうことのたとえ。
「まきゃ」は「まけば」がなまった表現です。農民が一生懸命に種をまくそばから、カラスがやってきて掘り返して食べてしまうという情景から、努力が水の泡になる状況を指して使われます。
語源・由来
三重県紀北町(旧海山町)周辺に伝わる民話および俗謡に由来します。
モデルとなったのは、江戸時代に実在したとされる上村権兵衛(便ノ山の権兵衛)という人物です。
武士の身分を捨てて農民となった権兵衛は、当初は農業に不慣れだったため、種をまくそばからカラスに食べられてしまいました。
その様子を見た村人たちが「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる(三度に一度は追わずばなるまい)」とはやし立てて歌い、それが俗謡として中部地方を中心に広まったとされています。
使い方・例文
「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」は、仕事や日常の作業において、自分のやったことが他者や環境のせいですぐに振り出しに戻ってしまう場面で使われます。
- 片付けるそばから子供が散らかし、権兵衛が種まきゃカラスがほじくる状態である。
- 草を抜いてもすぐに生えてきて、まさに権兵衛が種まきゃカラスがほじくるだ。
使う際の注意点
他人の努力が水の泡になったことに対して「権兵衛が種まきゃ〜だね」と使うと、相手をからかっているような冷たい印象を与えます。
基本的には、自分自身の徒労感を自嘲気味に表現する際に使うのが無難です。
類義語・関連語
「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 骨折り損のくたびれ儲け(ほねおりぞんのくたびれもうけ):
苦労しただけで何の効果もなく、ただ疲労だけが残ること。 - 元の木阿弥(もとのもくあみ):
一度良くなったものが、再び元の悪い状態に戻ってしまうこと。 - 賽の河原(さいのかわら):
石を積み上げても鬼に崩されてしまう地獄の言い伝えから、何度努力しても無駄になることのたとえ。
英語表現
「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」を英語で表現する場合、ことわざの直訳はありませんが、「努力が無駄になる」「後退する」といったニュアンスを持つ表現が使われます。
one step forward, two steps back
直訳:一歩進んで二歩下がる
意味:少し前進しても、それ以上に後退してしまい、努力が報われない状況。
- 例文:
It’s like one step forward, two steps back.
まるで権兵衛が種まきゃカラスがほじくる(一歩進んで二歩下がる)ようだ。
go down the drain
直訳:排水溝に流れていく
意味:努力や計画などが完全に無駄になること、水の泡になること。
- 例文:
All my efforts went down the drain.
私の努力はすべて権兵衛が種まきゃカラスがほじくる結果(水の泡)になった。
からかわれた権兵衛の「その後」
ことわざとしては「苦労が水の泡になる」というネガティブな意味で使われますが、語源となった権兵衛の物語には続きがあります。
不慣れな農作業をカラスに邪魔され、村人から笑い者にされた権兵衛ですが、彼は決して諦めませんでした。
工夫と努力を重ねて荒れ地を開墾し続け、やがて村で一番の立派な農家に成長したと伝えられています。
現在でも地元・三重県では、彼を称える「種まき権兵衛の里」という日本庭園が整備されるなど、不屈の精神の持ち主として愛され続けています。
言葉の表面(失敗)だけではわからない、粘り強い努力の教訓が隠されたエピソードです。








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