悪いことが起きてすっかり落ち込んでいる時に限って、さらに別の厄介ごとが舞い込んでくる。
不運が連鎖し、ただでさえ辛い状況に追い打ちをかけられることを、
「泣きっ面に蜂」(なきっつらにはち)と言います。
意味
「泣きっ面に蜂」とは、悪いことが起きている最中に、さらに別の悪いことが重なって起こることのたとえです。
不運や災難が連続して自分の身に降りかかり、ただでさえ辛い状態に追い打ちをかけられる様子を表しています。
- 泣きっ面(なきっつら):悲しいことや痛いことがあって泣いている顔のこと。すでに弱っている状態。
- 蜂(はち):その顔をさらに蜂が刺すこと。追加で起こる災難。
語源・由来
明確な由来となる歴史的事件や特定の物語は存在しません。
泣いている顔を蜂が刺すという、誰もが想像できる最悪な状況を視覚的に切り取った表現だと考えられています。
江戸時代に庶民の間で広まった『江戸いろはかるた』の読み札として採用されたことで、不運が重なることの代名詞として一般に定着しました。
表記の違い:「泣きっ面」か「泣き面」か
ちなみに、「泣きっ面に蜂」と「泣き面に蜂」という2つの表記を見かけることがありますが、意味に違いはありません。
本来の言葉の成り立ちからすれば「泣き面(なきつら)」が原型ですが、口に出して言う時のリズムの良さ(促音便)から、現在では「泣きっ面(なきっつら)」と発音・表記するのが一般的です。
辞書でも両方の見出しが存在することが多く、どちらを使っても間違いではありません。
使い方・例文
「泣きっ面に蜂」は、自分自身の不運を嘆くときや、災難続きの人への同情を表す場面で使われます。
- 風邪で寝込んでいるところへ、さらにぎっくり腰。まさに泣きっ面に蜂。
- 遅刻した日に限って忘れ物まで発覚し、泣きっ面に蜂の一日だった。
- 財布を落とした上に自転車まで盗まれるとは、泣きっ面に蜂だ。
誤用・注意点
この言葉は、あくまでタイミング悪く不運が重なった状況を指します。
最初の不幸が自分のミスであったとしても使うことはできますが、単に「悪いことをしたから罰が当たった」という因果応報の意味で使うのは誤りです。
また、目上の人がトラブルに見舞われている際に使うと、突き放したような冷たい印象を与えることがあるため注意が必要です。
類義語・関連語
「泣きっ面に蜂」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ):
弱っている時に、さらに祟り(災い)に遭うこと。 - 一難去ってまた一難(いちなんさってまたいちなん):
一つの災難が終わったと思ったら、すぐに次の災難が来ること。 - 踏んだり蹴ったり(ふんだりけったり):
ひどい目に遭うこと。被害の甚大さを強調する場合に使います。 - 傷口に塩を塗る(きずぐちにしおをぬる):
悪い状況にある人に、さらに追い打ちをかけるような仕打ちをすること。
「傷口に塩を塗る」は人為的な意地悪や批判に対して使われることが多いのに対し、「泣きっ面に蜂」は自然発生的な不運に対して使われるという違いがあります。
対義語
「泣きっ面に蜂」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 鴨が葱を背負って来る(かもがねぎをしょってくる):
好都合なことが重なること。 - 盆と正月が一緒に来たよう(ぼんとしょうがつがいっしょにきたよう):
非常に忙しいが、それ以上にとても賑やかで嬉しいこと。
英語表現
「泣きっ面に蜂」を英語で表現する場合、以下の表現がよく使われます。
Misfortunes never come singly.
意味:不幸は単独では来ない
日本のことわざの訳として最も一般的に使われる格言です。
- 例文:
I lost my key and then missed the train. Misfortunes never come singly.
鍵をなくした上に電車にも乗り遅れた。泣きっ面に蜂だ。
When it rains, it pours.
直訳:雨が降れば、必ず土砂降りになる。
意味:降ればどしゃ降り
悪いことが起こるときは、一度にまとめてやってくるという意味で使われます。
- 例文:
First the car broke down, then the roof started leaking. When it rains, it pours.
車が壊れたと思ったら、今度は屋根が雨漏りしだした。泣きっ面に蜂だね。
Add insult to injury.
直訳:怪我に侮辱を加える。
意味:踏んだり蹴ったり、傷口に塩を塗る
物理的な被害に、精神的なダメージが加わることを表します。
- 例文:
To add insult to injury, I was fined for being late.
泣きっ面に蜂とはこのことで、遅刻の罰金まで取られた。
なぜ「蜂」なのか
この言葉に虎や熊ではなく、あえて小さな「蜂」が選ばれているのには理由があります。
猛獣に襲われるのは命に関わる絶望的な出来事ですが、蜂に刺されるのは「死ぬほどではないが、飛び上がるほど痛くて情けない」という絶妙なラインの災難です。
すでに泣いている状況にそのリアルな痛さと滑稽さが重なることで、日常に潜むついてない場面をこれ以上なく的確に言い表しています。
まとめ
心が乱れているときほど注意力が散漫になり、さらなるミスを引き寄せてしまうものです。
悪いことが重なると、つい自分を責めたり必要以上に落ち込んでしまいがちです。
しかし「泣きっ面に蜂」という言葉を知っておくことで、そんな状況を「今はそういう時期なのだ」と少し客観的に眺められるようになるかもしれません。
言葉にすることで、気持ちはほんの少し軽くなるものです。








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