組織やグループの中で、自分だけが不当に軽い扱いを受けたり、重要な役割を与えられなかったりする状況。
また、兄弟間などで待遇に差をつけられ、惨めな思いをすること。
そんな不遇な境遇に置かれることを、「冷や飯を食う」(ひやめしをくう)と言います。
意味
「冷遇されること」や「他人よりも粗末な扱いを受けること」のたとえ。
本来受けられるはずの利益や権利を与えられず、組織や集団の隅に追いやられる状況を指します。
単に「冷たいご飯を食べる」という物理的な食事のことではなく、立場や待遇の悪さを表す慣用句です。
語源・由来
「冷や飯」という言葉は、かつての日本の厳しい家族制度や奉公人の生活環境の中で生まれました。
電気炊飯器や保温ジャーがなかった時代、ご飯は釜で炊かれていました。
炊きたての温かいご飯を食べることができたのは、家長(父親)や長男といった、家の跡取りとなる立場の人たちだけでした。
食事の順序が後回しにされる次男や三男、あるいは住み込みの奉公人や居候(いそうろう)に順番が回ってくる頃には、ご飯はすっかり冷めてしまっていました。
このことから、立場の低い者が冷えたご飯を食べさせられる状況が転じて、不遇な扱いを受けることそのものを指すようになったと言われています。
使い方・例文
「冷や飯」という言葉は、かつての「家の中での序列」から生まれた言葉ですが、現代では主に「会社や組織での立場」や「人間関係における疎外感」を表す際によく使われます。
自分の能力を発揮する場を与えられなかったり、主流派から外されて閑職(かんしょく)に追いやられたりした際の、悔しさや無念さを伴って使われることが多い言葉です。
例文
- 長年会社に尽くしてきたが、派閥争いに敗れてからは「冷や飯を食う」生活が続いている。
- 弟ばかりが親に可愛がられ、兄の自分はずっと「冷や飯を食う」ような思いをしてきた。
- プロジェクトの失敗責任を一人で押し付けられ、あいつは部署内で「冷や飯を食う」羽目になった。
- どんなに「冷や飯を食う」時期が長くとも、彼は腐ることなく地道な努力を続けた。
類義語・関連語
「冷や飯を食う」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 継子扱い(ままこあつかい):
実子と継子で扱いが違うように、特定の人だけを差別して冷遇すること。 - 日陰の身(ひかげのみ):
世間から認められず、隠れるようにして暮らす境遇。または、不遇な立場。 - 窓際族(まどぎわぞく):
職場において閑職に追いやられ、仕事を与えられない社員のこと。 - 干される(ほされる):
仕事や役割を与えられなくなること。特に芸能界や特定の業界で使われる表現。 - 不遇をかこつ(ふぐうをかこつ):
不遇な身の上であることを嘆くこと。「冷や飯を食う」状況に対して不満を言う動作を指します。
対義語
「冷や飯を食う」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 優遇(ゆうぐう):
手厚くもてなすこと。優先的に良い扱いをすること。 - 厚遇(こうぐう):
手厚くもてなすこと。地位や給与などで十分な待遇を与えること。 - 重用(ちょうよう):
その人を重んじて、重要な役に用いること。
英語表現
「冷や飯を食う」を英語で表現する場合、状況に応じていくつかのフレーズが考えられます。
be left out in the cold
- 直訳:寒い外に放置される
- 意味:「仲間外れにされる」「無視される」「冷遇される」
- 解説:家の中(暖かい場所=主流派)に入れてもらえず、外に締め出されるイメージから、機会や情報を与えられない状況を表します。
- 例文:
He has been left out in the cold since the new manager arrived.
(新しいマネージャーが来てから、彼は冷や飯を食わされている。)
get the cold shoulder
- 直訳:冷たい肩を受ける
- 意味:「冷たくあしらわれる」「よそよそしい態度を取られる」
- 解説:訪問客に対して、温かい料理ではなく冷たい羊の肩肉を出して「早く帰れ」と暗に示したという説などがあります。
- 例文:
I tried to talk to her, but I just got the cold shoulder.
(彼女に話しかけようとしたが、冷たくあしらわれた。)
家族制度と「冷や飯」の背景
この言葉の背景には、明治時代以前から続く「家父長制(かふちょうせい)」の影響が色濃く残っています。
かつての日本では、家の財産や祭祀(さいし)を受け継ぐ「長男」が絶対的な存在として優遇されていました。一方で、「次男・三男」はいずれ家を出ていくか、分家として独立しなければならない「予備」のような扱いを受けることも少なくありませんでした。
「冷や飯」は単なる食事の温度の話ではなく、生まれた順番によって人生のコースや待遇が決まってしまうという、当時の社会構造の厳しさを象徴している言葉とも言えます。
現代では家族間の格差は少なくなりましたが、組織論や社会的な待遇格差を表す言葉として、そのニュアンスが受け継がれています。
まとめ
「冷や飯を食う」とは、組織や集団の中で冷遇されたり、不当に軽い扱いを受けたりすることを意味します。
かつての家族制度における食事の序列が由来となっており、現代でも出世コースから外れたり、疎外感を味わったりする状況を端的に表す言葉として使われています。
この言葉は単なる不満の表現としてだけでなく、苦しい境遇を耐え忍び、そこから這い上がろうとする人の「忍耐の時期」を指して使われることもあります。
不遇な時こそ腐らず、温かいご飯を自らの力で手に入れられるよう準備を整える期間と言えるかもしれません。








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