旅先で見かけた地元の名産品や、趣味の道具の最新モデル。
それまで特に意識していなかったものでも、目の当たりにした瞬間に「試してみたい」「手に入れたい」という衝動が湧き上がることがあります。
物事に対して強い興味をそそられ、手を出したくなる心の動きを、
「食指が動く」(しょくしがうごく)と言います。
もともとは文字通り美味しいものへの欲求を指していましたが、現在では新しい仕事のプロジェクトや習い事など、幅広い対象への意欲を表す言葉として定着しています。
意味・教訓
「食指が動く」とは、ある物事に対して関心や興味をそそられ、やってみたい、手に入れたいという欲求が生じることを意味します。
「食指」とは人差し指のことです。
美味しいものを食べようとする際に、無意識にこの指が動くという古代中国の言い伝えに基づいています。
単に「面白そうだ」と眺めるだけでなく、実際に自分から働きかけたくなるような「積極的な意欲」が含まれるのがこの言葉の特徴です。
語源・由来
「食指が動く」という言葉は、中国の歴史書『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』に記された春秋時代の逸話に由来します。
鄭(てい)という国の貴族であった子公(しこう)は、美味しいご馳走にありつける前には、不思議と自分の人差し指がピクピクと動くという癖を持っていました。
ある日、彼が宮殿へ向かう途中で指が動いたため、同行していた者に「今日はきっと珍しいご馳走に出会えるぞ」と告げました。
宮殿へ入ると、果たして献上された巨大なスッポンが調理されている最中でした。
このエピソードから、欲望や興味が心の内に湧き起こることを「食指が動く」と言うようになりました。
使い方・例文
「食指が動く」は、魅力的な提案を受けたときや、好奇心を刺激されるものに出会った場面で使われます。
日常会話から少し改まった文章まで幅広く活用できる表現です。
例文
- 普段は甘いものを控えているが、名店の期間限定パフェにはさすがに「食指が動く」。
- 「これほど好条件のキャンプ場なら、アウトドア好きなら誰もが食指を動かすだろう」と友人が言った。
- 商店街の福引きで豪華賞品が並んでいるのを見て、思わず「食指が動いた」。
- 自分の専門分野とは少し違うが、地域活性化の新しいプロジェクトには非常に「食指が動かされる」思いだ。
誤用・注意点
「食指が動く」には、間違いやすい表現や使用上の注意があります。
- 「触手が動く」との混同:
「触手(しょくしゅ)」はイソギンチャクなどの動物の器官です。
「野心を抱いて手を伸ばす」という意味の「触手が伸びる」という言葉はありますが、興味をそそられるという意味で「触手が動く」とするのは誤りです。 - 目上の人への配慮:
この言葉は「欲求」や「欲望」のニュアンスを含みます。
そのため、目上の人が何かに興味を持っている状況に対して使うと、相手の欲を指摘するようで失礼に当たる場合があります。
自分自身の心境や、同等・目下の人、あるいは一般的な傾向を述べる際に使うのが無難です。
類義語・関連語
「食指が動く」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 興味をそそられる(きょうみをそそられる):
ある物事に対して、強く関心を引き起こされること。 - 心が惹かれる(こころがひかれる):
対象に魅力を感じて、注意がそちらに向くこと。 - 食欲をそそる(しょくよくをそそる):
美味しそうな匂いや見た目に、食べたい気持ちが強まること。 - 触手が伸びる(しょくしゅがのびる):
野心を持って、ある物事を自分のものにしようと働きかけること。
「食指が動く」は、興味から一歩進んで「具体的に行動したくなる」というニュアンスを含んでいる点で、単なる関心よりも意欲の度合いが強いと言えます。
対義語
「食指が動く」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 興味が失せる(きょうみがうせる):
それまで持っていた関心が消えてなくなること。 - 食欲が減退する(しょくよくがげんたいする):
食べたいという意欲が著しく下がる、またはなくなること。
英語表現
「食指が動く」を英語で表現する場合、誘惑や興味の対象に焦点を当てた言い回しが使われます。
Be tempted
- 意味:「誘惑される」「~したくなる」
- 解説:何か魅力的なものに心を動かされ、つい手を出したくなるような、日本語の「食指が動く」に非常に近いニュアンスです。
- 例文:I was tempted to sign up for the new art class.
(新しいアート教室に、すっかり食指が動いた。)
Whet one’s appetite
- 意味:「欲望をかき立てる」「さらなる興味をそそる」
- 解説:直訳すると「食欲を研ぐ」となり、期待感を高めるという意味で使われます。
- 例文:The trailer of the movie really whetted my appetite.
(映画の予告編を見て、すっかり食指が動かされた。)
人差し指が「食指」と呼ばれる理由
なぜ人差し指が食事に関係する指(食指)と呼ばれたのでしょうか。
それは、箸などが普及する以前、人々が指を使って味見をしたり食べたりしていた時代に、最も使い勝手が良かったのが人差し指だったからだとされています。
味を確認するために指を舐めたり、食べ物に触れたりする際、人差し指が真っ先に動く様子は、まさに「欲求の始まり」を象徴するものでした。
数千年前の宮廷で人差し指をピクピクさせていた貴族の姿が、今も私たちの日常の言葉の中に生き続けているのは、言葉の持つ面白さの一つと言えるでしょう。
まとめ
「食指が動く」は、私たちの心の中に潜む好奇心が、具体的な意欲へと変わる瞬間を捉えた生き生きとした言葉です。
変化の激しい現代において、自分の「食指が動く」対象に気づくことは、新しい才能を開花させたり、日々の生活に潤いを与えたりする重要な手がかりになることでしょう。
何かに強く惹かれる感覚を大切にすることは、充実した学びや暮らしを形作る第一歩と言えるかもしれません。








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