冷たい雨が降りしきる中、迷わず泥水に膝をつき、倒れた老人を背負い上げる。
周囲がたじろぐような困難な場面でも、一切の弱音を吐かず、己の信念を静かに貫き通す。
そんな勇気にあふれ、強くたくましい立派な男性を、
「益荒男」(ますらお)と言います。
意味・教訓
「益荒男」とは、勇気があり、心身ともに強く堂々とした立派な男性を指す言葉です。
単に腕力が強いだけでなく、精神的な潔さや、私欲を捨てて公のために尽くすような高潔な風格を備えた人物への賛辞として使われます。
- 益荒(ますら):他よりも抜きん出て優れている、あるいは凝縮されて強いこと。
- 男(お):男性。
語源・由来
「益荒男」の語源は、古代日本語の「ますら」という形容詞にあります。
「ますら」は「勝る(まさる)」や「真(ま)+凝る(こる)」に由来するとされ、不純物がなく結晶化された強さを意味していました。
奈良時代の『万葉集』では、天皇に仕える兵士や、狩猟に励む勇敢な男たちを形容する言葉として数多く登場します。
江戸時代になると、国学者の賀茂真淵が『万葉集』に見られる力強く率直な美意識を「益荒男ぶり」と定義しました。
これは、平安時代の『古今和歌集』に代表される繊細で優美な「手弱女(たおやめ)ぶり」と対比される概念として定着し、日本的な剛健さを表す言葉となりました。
使い方・例文
「益荒男」は、スポーツ選手や伝統を守る職人、あるいは困難に立ち向かう人の生き様を称える文脈で使われます。
例文
- 彼はどんな逆境でも動じない益荒男だ。
- 泥にまみれて戦う姿はまさに益荒男であった。
- 祖父は寡黙だが、家族を支え抜いた一本気な益荒男だ。
文学作品・メディアでの使用例
『万葉集』(編者未詳)
防人(さきもり)として故郷を離れる男の決意を詠んだ歌などで、その力強さを象徴する言葉として刻まれています。
益荒男の 手にまき持てる 弓の弦(つる) 打ち置く音の 遠く聞こゆも
内容に即した見出し:注意点と現代的なニュアンス
「益荒男」という言葉には、古風で武骨な響きがあります。
そのため、単に「運動神経が良い」といった軽い意味ではあまり使われません。
あくまで、その人の背負っている「覚悟」や「精神的な強さ」に対して敬意を表する言葉であることを意識しましょう。
また、現代ではやや文語的な表現となるため、親しい友人同士の会話よりも、紹介文やスピーチ、文章表現の中で用いると、その品格がより際立ちます。
類義語・関連語
「益荒男」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 大丈夫(だいじょうぶ):
立派で志が高い男性。
現在は「平気だ」という意味で使われますが、本来は「ますらお」と同義の最高級の褒め言葉です。 - 健児(こんでい):
心身ともにたくましく、勇気のある若い男性。 - 勇士(ゆうし):
勇気があり、武勇に優れた男性。
対義語
「益荒男」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 手弱女(たおやめ):
しなやかで優美、繊細な女性。 - 怯夫(きょうふ):
臆病で勇気のない男。 - 小人(しょうじん):
器が小さく、つまらない人物。
英語表現
「益荒男」を英語で表現する場合、その勇敢さや品格に焦点を当てます。
A man of valor
直訳は「勇猛な男」。
「valor」は、単なる強さだけでなく、高潔な精神に基づく勇気を指します。
- 例文:
He was respected as a man of valor.
彼は益荒男として尊敬を集めていた。
A manly man
「男の中の男」。
強さと潔さを兼ね備えた人物を指す、現代的で分かりやすい表現です。
- 例文:
The coach described the player as a manly man.
コーチはその選手を、真の益荒男だと評した。
まとめ
強さと潔さを体現する「益荒男」という言葉には、日本人が古来より尊んできた「凛とした生き様」への憧れが込められています。
現代においても、目先の利益に惑わされず、自分の信じる道を黙々と歩み続ける人の姿は、まさにこの言葉がふさわしいと言えるでしょう。
その背中に敬意を払いたいとき、この言葉を贈ってみてはいかがでしょうか。





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