ふと目を奪われるような、しなやかで品格のある振る舞い。
そこにいるだけで周囲の空気が澄み渡るような、端正な佇まいを形容する言葉があります。
まさに、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」(たてばしゃくやくすわればぼたんあるくすがたはゆりのはな)という表現です。
それは単なる外見の造作を超えて、内面から滲み出る落ち着きや、動作の一つひとつに宿る美しさを三つの花に重ね合わせています。
意味・教訓
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とは、女性の容姿や立ち居振る舞いが、非常に優雅で美しいことを例えた言葉です。
それぞれの花が最も美しく見える状態を、人の姿勢や動きに例えています。
- 芍薬(しゃくやく):すらりと伸びた茎の先に花を咲かせるため、立っている姿。
- 牡丹(ぼたん):横に枝を広げて重厚な花を咲かせるため、座っている姿。
- 百合(ゆり):風を受けてしなやかに揺れるため、歩く姿。
単に美しいだけでなく、「その場に応じた理想的な美しさ」を兼ね備えているという教訓的なニュアンスも含まれています。
語源・由来

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」の由来には、植物の生態に由来する説と、漢方の処方に由来する説の二つが有力です。
植物学的な視点では、芍薬は枝分かれせずに真っ直ぐ伸びるため「立姿」、牡丹は枝分かれして低い位置で横に広がるため「座姿」、百合は細い茎の先で花が風に揺れるため「歩姿」に例えられました。
もう一つの興味深い説が、江戸時代の漢方医の間で語り継がれた「生薬の使い分け」の覚え歌に由来するというものです。
- 腹痛などで気が立っている(イライラしている)女性には、筋肉の緊張を解く「芍薬」を。
- 血の巡りが悪く座り込んでしまう女性には、血行を良くする「牡丹皮」を。
- 心身が衰弱し、ふらふらと歩く女性には、精神を安定させる「百合(びゃくごう)」を。
本来は病を癒やすための処方箋が、いつしかその花が持つ美しさそのものを賞賛する言葉へと変化し、定着したと考えられています。
使い方・例文
現代では、和服を召した方の着こなしや、所作が美しい人への最大級の褒め言葉として用いられます。
単に「美人」と言うよりも、その人の持つ雰囲気や気品を丸ごと肯定するニュアンスが含まれます。
例文
- 彼女が舞台の中央に立った瞬間、客席からは「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という溜息が漏れた。
- 祖母はいつも背筋を伸ばしており、まさに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」を体現するような人だった。
- 立ち居振る舞いの美しさは、日々の心の持ちようから現れる。目指すべきは「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」のような女性だ。
類義語・関連語
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 沈魚落雁(ちんぎょらくがん):
あまりの美しさに、魚は泳ぐのを忘れて沈み、雁は空から落ちてしまうほどの絶世の美人。 - 閉月羞花(へいげつしゅうか):
月が恥じて雲に隠れ、花も恥じらってしぼんでしまうほどの美しさ。 - 国色天香(こくしょくてんこう):
国で一番の色(美しさ)と、天下一の香りを持つこと。主に牡丹の花や、絶世の美人の形容。
英語表現
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」を英語で表現する場合、そのまま直訳するのではなく、美しさや気品を強調するフレーズを用います。
A woman of graceful carriage.
- 意味:「気品のある身のこなしの女性」
- 解説:「carriage」は身のこなしや歩き方を指し、立ち姿や歩く姿が美しいというニュアンスを的確に伝えます。
She is as beautiful as a flower in any posture.
- 意味:「彼女はどんな姿勢でも花のように美しい」
- 解説:立っていても座っていても歩いていても、どの瞬間を切り取っても花のように美しいという意訳です。
Graceful in every movement.
- 意味:「あらゆる動作が優雅である」
- 解説:特定の植物を使わず、動作全般の気品を称える表現です。
- 例文:
She is graceful in every movement, just like a blooming flower.
(彼女は、咲き誇る花のように、あらゆる動作が優雅だ。)
豆知識:三つの花の盛り
この言葉に出てくる三つの花には、実は「観賞するのに最適な時間や場所」という裏設定のようなものがあります。
芍薬は朝に、牡丹は昼に、百合は夕方に最も美しく見えると言われており、一日の時間の流れの中で常に美しくあり続ける女性の姿を描写しているという説もあります。
また、この言葉が広く知られるようになったのは、江戸時代の「いろはかるた」の影響が大きいとされています。
ただし、かるたが言葉を作ったのではなく、当時の人々に共通の「美の基準」として定着していた言葉をかるたが採用したというのが正確な歴史的背景です。
まとめ
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」は、単なる外見の美しさを超えた「品格の指標」と言えるかもしれません。
それぞれの花が持つ個性を最大限に活かし、時と場所に応じて自分を律する。
そんなしなやかな強さと優雅さを併せ持つことが、時代を問わず私たちが憧れる美の姿と言えることでしょう。
一つひとつの動作を丁寧に積み重ねることで、いつか自分なりの「一輪の花」を咲かせたいものですね。








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