世の中には、理屈ではどうしても説明がつかない出来事や、常識の範疇を超えた不思議な現象が存在するものです。
「狐につままれたようだ」と感じたり、あまりの不可解さに背筋が寒くなったりした経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
そのような、到底理解できない不思議な様子や、極めて怪しい状況を指す言葉として、
「奇々怪々」(ききかいかい)があります。
意味
「奇々怪々」とは、常識では理解できないほど、きわめて不思議で怪しいさまを表す言葉です。
単に「不思議だ」「変だ」というレベルを超えて、不気味さを感じるほど異様であることや、物事の仕組みや背景が複雑すぎて真相がつかめない状況を指します。
- 奇々(きき):
「奇(不思議なこと)」を重ねて、その度合いが強いことを強調した表現。 - 怪々(かいかい):
「怪(あやしいこと)」を重ねて、非常に怪しい様子であることを強調した表現。
語源・由来
「奇々怪々」の由来は、特定の歴史的な物語や中国の古典(故事成語)にあるわけではありません。
この言葉は、日本語の表現技法の一つである「畳語(じょうご)」によって生まれた言葉です。
「奇(き)」と「怪(かい)」という、どちらも「普通ではない」「あやしい」という意味を持つ漢字を、それぞれ「奇々」「怪々」と重ねることで、その不気味さや不可解さを最大限に強調しています。
「正々堂々」や「明明白白」と同じような成り立ちの言葉ですが、その歴史は意外に古く、室町時代の『中華若木詩抄(ちゅうかじゃぼくししょう)』(1520年頃)という書物の中ですでに「奇々怪々」という表現が使われていることが確認されています。
古くから日本人は、得体の知れないものに対する畏怖や驚きを、この四文字で表現してきたのです。
使い方・例文
「奇々怪々」は、日常会話からニュースまで幅広い場面で使われますが、主に「不気味な現象」や「理解不能なトラブル」に遭遇した際に用いられます。
現代では、オカルト的な心霊現象だけでなく、人間関係の複雑なもつれや、背景が不透明な事件・政治疑惑など、「論理的な説明が難しい事態」全般に対して使われる傾向があります。
例文
- 鍵をかけたはずの部屋から物が消えるという、「奇々怪々」な出来事が続いている。
- このプロジェクトの予算の流れは「奇々怪々」で、誰に聞いても実態が分からない。
- 深夜の学校で目撃された光の正体は、今もなお「奇々怪々」な謎として語り継がれている。
- 彼の主張は「奇々怪々」すぎて、どこから突っ込んでいいのかさえ分からない。
誤用・注意点
「奇々怪々」を使う上で、いくつかの注意点があります。
- 表記の揺れ
一般的には「奇々怪々」と書きますが、「奇奇怪怪」と漢字四文字で表記することもあります。
どちらも間違いではありませんが、現代では踊り字(々)を使う方が一般的です。 - 「危機」との混同
発音が似ているため「危機(きき)」という言葉と混同しないよう注意しましょう。
「危険が迫っている」という意味ではなく、あくまで「不思議で怪しい」という意味です。
類義語・関連語
「奇々怪々」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 摩訶不思議(まかふしぎ):
人間の知恵では到底はかり知れないほど不思議なこと。
「摩訶」は「大きい・多い」を意味します。 - 複雑怪奇(ふくざつかいき):
事情がこみ入っていて、非常に怪しくわかりにくいこと。
「奇々怪々」よりも「構造の複雑さ」に焦点が当たります。 - 魑魅魍魎(ちみもうりょう):
山や川の化け物、妖怪変化の総称。
「奇々怪々」が「様子」を指すのに対し、こちらは「化け物そのもの」や、転じて「私利私欲のために暗躍する悪人たち」を指します。 - 百鬼夜行(ひゃっきやこう):
多くの妖怪が列をなして歩くこと。
転じて、多くの人が悪い行いを堂々としている状況のたとえです。
対義語
「奇々怪々」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
英語表現
「奇々怪々」を英語で表現する場合、状況のニュアンスによって単語を使い分けます。
strange / bizarre
- 意味:「奇妙な」「異様な」
- 解説:日常的な「変なこと」から、常軌を逸した「異様さ」まで幅広く使えます。”Bizarre” の方がより奇妙なニュアンスが強くなります。
- 例文:
It was a bizarre incident.
(それは奇々怪々な事件だった。)
mysterious
- 意味:「不可解な」「謎めいた」
- 解説:理由や原因がわからず、神秘的あるいは不気味な様子を表します。
- 例文:
The circumstances behind his disappearance are mysterious.
(彼の失踪の背景は奇々怪々だ。)
奇と怪のニュアンス
ちなみに、この言葉に使われている「奇」と「怪」には、それぞれ少し異なるニュアンスが含まれています。
- 「奇」:
常識外れで珍しい、優れている、思いがけない、という意味。
「奇抜」「奇跡」などに使われます。 - 「怪」:
常識では説明がつかない、あやしい、不気味、という意味。
「怪談」「妖怪」などに使われます。
つまり「奇々怪々」は、「珍しくて思いがけない」要素と、「不気味でわけがわからない」要素が合わさることで、あの独特な「得体の知れない雰囲気」を醸し出しているのです。
まとめ
「奇々怪々」は、常識では計り知れない不思議なことや、非常に怪しい状況を表す言葉です。
この言葉は、単なる「不思議」という一言では片付けられないような、複雑さや不気味さを伴う場面で真価を発揮します。
論理だけでは割り切れない出来事に遭遇したとき、その困惑や驚きを端的に表現するのに役立つことでしょう。






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