進むべき道が突然見えなくなり、どちらを向いても真っ白な世界に閉じ込められたような感覚。
何を基準に判断すればよいのか、出口がどこにあるのかさえ分からない混乱。
人生の岐路や予想外のトラブルに直面したとき、人は誰しも深い霧の中に立ち尽くすことがあります。
まさに「五里霧中」(ごりむちゅう)と言える状況です。
意味
「五里霧中」とは、物事の様子がさっぱり分からず、どうすればよいか判断に迷うことを指します。
- 五里(ごり):
距離の単位。一里は約3.9キロメートルであり、五里は約20キロメートルに相当する。 - 霧中(むちゅう):
深い霧の中にいること。
五里四方にわたって立ち込める深い霧の中にいるときのように、周囲の状況が全く把握できず、方針が立たない心の状態や情景を表現しています。
語源・由来
「五里霧中」の由来は、中国の歴史書『後漢書』の「張楷伝」に記された逸話に基づいています。
後漢時代、張楷という学者が道術(不思議な術)を使い、自分の周り五里四方に深い霧を発生させたと言われています。
彼が役人の誘いや世俗の喧騒を避けるためにこの術を使ったため、周囲の人間は彼を見失い、翻弄されました。
この「術による深い霧の中にいる」という話から、物事の真相が見えず、迷走する様子を指す言葉として定着しました。
使い方・例文
現状を把握できず、具体的な解決策や見通しが立たない文脈で使用されます。
「五里霧中の状態」「五里霧中に陥る」といった形で使われるのが一般的です。
例文
- 突然のルール変更により、大会に向けた練習方針は「五里霧中」となってしまった。
- 「新商品のコンセプトが決まらず、企画会議は五里霧中のまま終わった」と兄が嘆いていた。
- 進路について家族の意見が分かれ、自分がいま何をしたいのか、心の中は「五里霧中」だ。
- 信頼していた地図を失い、深い山の中で私たちのパーティーは五里霧中の危機に瀕した。
文学作品での使用例
『門』(夏目漱石)
自身の将来や複雑な人間関係において、解決の糸口が見つからない重苦しい心境を表現する場面で使われています。
然るに一方から見ると、彼は忽ち五里霧中に陥つて、自分ながら自分の行衛を失つた様な心持にもなるのであつた。
誤用・注意点
最も多い間違いは、「五里夢中」と書いてしまう表記ミスです。
「夢の中」ではなく「霧の中」にいるからこそ先が見えない、という意味であることを忘れないようにしましょう。
また、似た響きの「無我夢中」は「我を忘れて没頭する」という勢いのある状態を指します。
「五里霧中」は「迷って困り果てている」という停滞したニュアンスを持つため、混同に注意が必要です。
類義語・関連語
「五里霧中」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 暗中模索(あんちゅうもさく):
手がかりのない中で、あれこれと試みること。
「五里霧中」は迷っている状態を、「暗中模索」は迷いながらも探そうとする行動に重点を置いています。 - 暗雲低迷(あんうんていめい):
悪い状況が続き、好転の兆しが見えないこと。 - 手探り:
確かな見当がつかないまま、慎重に物事を進めること。
対義語
「五里霧中」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 一目瞭然(いちもくりょうぜん):
ひと目見ただけで、はっきりと分かること。 - 雲散霧消(うんさんむしょう):
雲や霧が消えるように、悩みや問題が一気に消えてなくなること。 - 氷解(ひょうかい):
疑念や問題が、氷が溶けるように解けてなくなること。
英語表現
「五里霧中」を英語で表現する場合、混乱や迷いを表す定型句が使われます。
be at a loss
- 意味:「途方に暮れる」「全く分からない」
- 解説:どうしていいか分からず、思考が止まってしまった状態を指す最も一般的な表現です。
- 例文:
I was at a loss as to what to do next.
(次に何をすべきか、全くの五里霧中だった。)
in a fog
- 意味:「霧の中にいる」「ぼんやりして要領を得ない」
- 解説:日本語の「霧中」と発想が近く、状況が把握できず頭が整理されていない状態を指します。
- 例文:
The direction of the project is still in a fog.
(プロジェクトの方向性は、依然として五里霧中の状態だ。)
豆知識:五里の距離感
「五里」という言葉を現代の距離に換算すると、約20キロメートルという広大な範囲を指します。
これは、東京駅から横浜駅付近までが、すっぽりと深い霧に覆われているようなイメージです。
一歩先さえ見えない濃霧が20キロメートルも先まで続いていると想像すれば、そこから自力で抜け出すことがいかに困難であるか、「五里霧中」という言葉に込められた混乱の深さがより鮮明に感じられます。
まとめ
目の前が真っ白になり、立ち止まってしまう。
そんな「五里霧中」の時間は決して心地よいものではありませんが、深い霧はやがて晴れる時が来ます。
闇雲に動き回って体力を消耗するよりも、霧が晴れるのを待ち、今の自分にできることを静かに見つめ直す。
この言葉は、私たちに「焦り」ではなく「状況を正しく認識すること」の大切さを教えてくれていると言えるのかもしれません。




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