海の物とも山の物ともつかぬ

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慣用句
海の物とも山の物ともつかぬ
(うみのものともやまのものともつかぬ)
短縮形:海の物とも山の物とも
異形:海のものとも山のものともつかぬ

17文字の言葉」から始まる言葉

新しいプロジェクトや、まだ世に出ていないアイデアについて語るとき、「将来どうなるか全く読めない」という状況に直面することはよくあります。
あるいは、素性の知れない人物に出会って戸惑うこともあるでしょう。

そんな「正体が不明で、将来性もまだ分からない」という宙ぶらりんな状態を表す、古くからある表現について解説します。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の意味

海の物とも山の物ともつかぬとは、その正体や本質が分からず、将来どうなるかも予測がつかないことのたとえです。

目の前にあるものが何なのか判別できない状態、転じて、まだ結果が出ておらず「使い物になるかどうか分からない」という不安定な段階を指して使われます。

  • 海の物:海で獲れたもの(魚介類など)。
  • 山の物:山で採れたもの(獣肉や山菜など)。
  • つかぬ:判断がつかない。

つまり、「海産物なのか林産物なのかすら区別がつかないほど、得体の知れないもの」という意味合いです。

肯定・否定のニュアンス

基本的には「未知数である」という事実を述べる言葉ですが、文脈によってニュアンスが変わります。

  • ネガティブ:「怪しい」「信用できない」という疑いの意味。
  • フラット(ビジネス):「まだ成功するか分からない(これからの頑張り次第)」という未確定の状態。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の語源・由来

この言葉の由来は、「食料」としての安全性や正体に関連していると言われています。

昔の人にとって、目の前にある食べ物が「海で獲れたもの」なのか「山で獲れたもの」なのかが分かることは、それが何であるか(食べられるのか、毒はないか、どう調理すべきか)を判断する上で最低限の情報でした。

それすら分からない物体は、まさに正体不明で気味が悪いものです。
そこから転じて、素性が知れない人物や、まだ成果が出ておらず評価の定まらない物事を指すようになりました。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の使い方・例文

現代では、特にビジネスシーンにおいて、立ち上がったばかりのプロジェクトや、新入社員、ベンチャー企業など、「将来の可能性は未知数である」という文脈でよく使われます。

また、単に「不気味なもの」「正体不明の怪しいもの」を指して使うこともあります。

例文

  • 立ち上げたばかりのこの事業は、まだ海の物とも山の物ともつかぬ状態だが、大きな可能性を秘めている。
  • どこの馬の骨とも知れない、海の物とも山の物ともつかぬ男を、娘の結婚相手として認めるわけにはいかない。
  • インターネットが登場した当初、多くの人はそれを海の物とも山の物ともつかぬ怪しい技術だと敬遠していた。

文学作品での使用例

日本の近代文学でも、得体の知れない不安や、評価の定まらない新しい存在を描写する際に見られます。

小説家・太宰治の作品『津軽』では、自身の立場や存在のあやふやさを表現する文脈で、この言葉の変形が登場します。

私は、海の物とも山の物とも、里の物とも、又、街の物とも、つかぬことになつてしまつた。
(太宰治『津軽』より引用)

ここでは定型句に「里の物」「街の物」を付け加えることで、自分がどこのカテゴリーにも属せない、居場所のない心情が強調されています。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の誤用・使用上の注意点

人物への使用は要注意

新人や若手に対して「彼はまだ海の物とも山の物ともつかぬ」と評することがあります。
「未知数だから期待している」という激励のつもりでも、受け取り手によっては「役に立たない」「得体が知れない」と言われたと感じ、不快に思う可能性があります。
公の場で特定の人物を指して使う場合は、前後の文脈に十分な配慮が必要です。

「つかぬ」の省略

会話では「まだ海のものとも山のものとも……」と、後半の「つかぬ」を省略して使うことがよくあります。
意味は通じますが、正式な文章では最後まで書くほうが適切です。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の類義語・関連語

  • 得体が知れない(えたいがしれない): そのものの正体や本性がわからず、不安や気味悪さを感じること。
    • 違い:「海の物とも〜」は将来性(成功するかどうか)の文脈でも使えますが、「得体が知れない」は単に不気味な様子を指すことが多いです。
  • 未知数(みちすう): 将来どうなるか予測がつかないこと。
    • 違い:数学用語由来で、感情を含まない客観的な表現として使いやすい言葉です。
  • 五里霧中(ごりむちゅう): 物事の様子がさっぱりわからず、方針や見込みが立たないこと。
    • 違い:対象物の正体ではなく、「状況」や「自分の立ち位置」が分からない場合に使います。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の対義語

「はっきりしている」「誰でも知っている」という意味の言葉が対義語となります。

  • 明々白々(めいめいはくはく):疑う余地がなく、あきらかであること。
  • 一目瞭然(いちもくりょうぜん):ひと目見ただけで、はっきりとわかること。
  • 周知の事実(しゅうちのじじつ):世間の誰もが知っている事柄。

「海の物とも山の物ともつかぬ」の英語表現

英語にも「分類できないもの」「将来が不確かなもの」を表す表現があります。

Neither fish nor fowl

  • 直訳:魚でもなければ、鳥でもない。
  • 意味:「正体不明のもの」「どっちつかずのもの」
  • 解説:古いことわざ “Neither fish nor flesh, nor good red herring”(魚でも肉でも燻製ニシンでもない)が短縮されたもの。カテゴリに当てはまらない、理解しがたいものを指します。
  • 例文:
    The flying car is neither fish nor fowl.
    (空飛ぶ車というのは、海の物とも山の物ともつかぬ代物だ。)

Unknown quantity

  • 直訳:未知の量。
  • 意味:「未知数の人(物)」
  • 解説:数学用語ですが、能力や性格、結果がどうなるか分からない人や物事に対して日常的に使われます。ビジネス文脈の「海の物とも〜」に近いニュアンスです。
  • 例文:
    The new strategy is still an unknown quantity.
    (その新戦略は、まだ海の物とも山の物ともつかぬ状態だ。)

「海の物とも山の物ともつかぬ」に関する豆知識

「海幸山幸」との対比

音川安親編 万物雛形画譜
ホオリ(ヒコホホデミ)。

日本神話には「海幸彦(うみさちひこ)」と「山幸彦(やまさちひこ)」の物語があります。
また、「海の幸、山の幸」という言葉があるように、日本人は古来、自然の恵みを「海」と「山」の2大カテゴリに分類して感謝してきました。

「海の物とも山の物ともつかぬ」という表現は、この伝統的な世界観(すべての恵みは海か山から来る)に基づいています。
どちらにも属さないということは、すなわち「人間が恩恵を受けられる領域の外にあるもの」「理解の範疇を超えたもの」という、根源的な不安を表しているとも言えます。

まとめ – 不確実性を楽しむ視点

海の物とも山の物ともつかぬ」という言葉は、不安や不信感を伴って使われることが多いですが、裏を返せば「何にでもなれる可能性」を秘めている状態とも言えます。

現代の成功した大企業の多くも、創業当初は周囲から「海の物とも山の物ともつかぬ」と冷ややかな目で見られていました。
もしあなたが今、そのような評価を受けていたとしても、それは「新しい何か」を生み出そうとしている証かもしれません。未知であることを恐れず、確かな形にしていく過程こそが重要です。

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