かつては飛ぶ鳥を落とす勢いだった大企業が、時代の変化についていけずに姿を消してしまう。
あれほど賑わっていた商店街が、いつの間にかシャッター通りになってしまう。
永遠に続く繁栄はこの世に存在しない。そんな歴史の必然や、世の中の儚(はかな)さを目の当たりにしたとき、私たちの口をついて出るのが「栄枯盛衰」(えいこせいすい)という言葉です。
『平家物語』が描く無常観にも通じる、日本人にとって非常に馴染み深いこの言葉の意味と、そこに込められた人生訓について解説します。
意味
「栄枯盛衰」とは、「人や家、国などの運勢が、盛んになったり衰えたりすること」を意味します。
文字通り、以下の2つの対義語が組み合わさってできています。
- 栄枯(えいこ):草木が青々と茂ることと、枯れること。
- 盛衰(せいすい):勢いが盛んなことと、衰えること。
草木が春に芽吹き、夏に茂り、秋に枯れていくように、人の世の繁栄もまた永遠ではなく、必ず波があるという「世の習い」を表しています。
単に「落ちぶれる」というネガティブな意味だけでなく、「今は悪い状態でも、また栄える時が来るかもしれない」という、変化の激しさを客観的に捉えるニュアンスも含んでいます。
語源・由来
「栄枯盛衰」には、特定の歴史的事件や人物の逸話といった由来はありません。
「自然界の植物の姿」を、そのまま人間社会に重ね合わせた言葉です。
古くから中国や日本の詩文(漢詩など)では、人生の浮き沈みを「栄枯(草木の茂りと枯れ)」になぞらえて表現してきました。
例えば、平安時代の『古今和歌集』の序文(真名序)にも「花を見て栄枯を悟り」といった記述が見られます。
そこに、勢いの強弱を表す「盛衰」が組み合わさり、四字熟語として定着しました。
「権力を握った人間も、いずれは衰えて消えていく」。
その様子を、季節とともに移ろう草木になぞらえた、非常に情緒的かつ視覚的な表現だと言えます。
使い方・例文
ビジネスにおける企業の浮き沈みや、歴史上の王朝の交代、業界のトレンド変化など、ある程度長い期間(スパン)で物事の変化を語る際によく使われます。
例文
- あれほど流行したSNSがサービス終了とは、IT業界の「栄枯盛衰」を感じずにはいられない。
- かつて世界を制覇した帝国も、「栄枯盛衰」の理(ことわり)には逆らえず、歴史の表舞台から姿を消した。
- 芸能界は「栄枯盛衰」が激しい世界だが、彼は数十年にわたり第一線で活躍している。
- 祖父はよく「「栄枯盛衰」は世の習いだから、調子が良いときこそ謙虚でいなさい」と口にしていた。
類義語・関連語
「栄枯盛衰」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
『平家物語』で有名な言葉。勢いの盛んな者も、必ず衰える時が来るということ。仏教的な「無常」の響きが強く、「栄枯盛衰」とほぼ同じ文脈で使われます。 - 邯鄲の夢(かんたんのゆめ):
人の世の栄華は、夢のようにはかなく虚しいものであるというたとえ。 - 有為転変(ういてんぺん):
世の中の物事が、とどまることなく移り変わっていくこと。 - 栄枯浮沈(えいこふちん):
栄えることと衰えること、浮くことと沈むこと。「栄枯盛衰」とほぼ同義です。
「栄枯盛衰」と「盛者必衰」の違い
- 「栄枯盛衰」:現象そのもの(栄えたり衰えたりするサイクル)に焦点がある。
- 「盛者必衰」:「必ず衰える」という逃れられない法則(理)に焦点がある。
対義語
「栄枯盛衰」とは対照的な意味を持つ言葉は、いつまでも変わらず続くことを表します。
- 千古不磨(せんこふま):
長い年月を経ても、すり減ったりせず価値が変わらないこと。「千古不磨の大典」など。 - 万世不朽(ばんせいふきゅう):
永久に朽ちることなく、価値や名声が残り続けること。 - 万古不易(ばんこふえき):
いつまでも変わらないこと。
英語表現
「栄枯盛衰」を英語で表現する場合、波が上下する様子や、月が満ち欠けする様子、あるいは国家の興亡に例えられます。
rise and fall
- 意味:「興亡」「盛衰」
- 解説:国や文明、権力者などが台頭し、そして没落していく様子を表す、歴史的な文脈で最も定型的な表現です。
- 例文:
The book describes the rise and fall of the Roman Empire.
(その本はローマ帝国の栄枯盛衰を描いている。)
ups and downs
- 意味:「浮き沈み」「七転び八起き」
- 解説:最も一般的で日常的な表現です。人生や運勢の良い時・悪い時の波を表します。
- 例文:
Life has its ups and downs.
(人生には栄枯盛衰(浮き沈み)があるものだ。)
豆知識:日本人の無常観
『平家物語』が教える儚さ
「栄枯盛衰」という言葉を聞くと、多くの日本人が『平家物語』の冒頭を連想します。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
ここには直接「栄枯盛衰」という四字熟語は出てきませんが、「沙羅双樹の花」という植物(栄枯)を用いて、「盛者必衰(盛衰)」を説く構造は、まさに「栄枯盛衰」の世界観そのものです。
桜がパッと咲いてパッと散るのを好むように、日本人は古来より、永遠に続くものよりも「移ろいゆくもの」「消えゆくもの」に美しさや教訓を見出してきました。
この言葉が長く愛用されている背景には、こうした日本独自の「無常観(むじょうかん)」という文化が根付いていると言えるでしょう。
まとめ
栄えることと、衰えること。その繰り返しを表す「栄枯盛衰」。
今の成功が永遠ではないと知ることは、一見寂しいことのように思えます。
しかし、裏を返せば「悪い状態もまた、永遠には続かない」という希望の言葉でもあります。
草木が冬を越えてまた芽吹くように、変化を恐れず、今の状況に執着しすぎないしなやかさを持つこと。それが、移ろいやすい世の中を生き抜く知恵なのかもしれません。







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