あらゆる物音が遠のき、風に揺れる葉の音さえ聞こえなくなる。
命あるものすべてが息を潜め、世界が深い静寂に包まれる瞬間。
そんな深夜の深まりを、「草木も眠る丑三つ時」(くさきもねむるうしみつどき)と言います。
意味
「草木も眠る丑三つ時」とは、この世のすべてが深い眠りにつき、静まりかえっている様子を指します。
本来は感情や意志を持たないはずの「草木」までもが眠っていると表現することで、物音一つしない極限の静寂や、どこか不気味なほどの夜の深さを強調しています。
単に「遅い時間」という事実だけでなく、まるで世界そのものが動きを止めたかのような、神秘的で濃密な静けさを表す言葉です。
語源・由来
「草木も眠る丑三つ時」の由来は、十二支を用いた古来の時刻法にあります。
かつて一日は12の区画に分けられており、午前2時を中心とする前後2時間は「丑の刻」と呼ばれていました。
この2時間をさらに4等分した3番目の時間帯、つまり午前2時から2時30分頃が「丑三つ」に当たります。
感情を持たない自然物までもが眠るという比喩が加わり、不気味なほどの静寂を表す定型句となりました。
なお、この言葉は「江戸いろはかるた」の京・大坂版などに収録されたことで、広く一般に定着しました。
使い方・例文
「草木も眠る丑三つ時」は、不気味なほど静かな深夜の状況を描写する際に使われます。
怪談の定番の言い回しですが、都会の喧騒が消えた日常の静けさを表す際にも用いられます。
例文
- 怪談は草木も眠る丑三つ時から始まる。
- 草木も眠る丑三つ時にひっそりと家路を急ぐ。
- あたりは草木も眠る丑三つ時の静寂に包まれる。
文学作品・落語での使用例
『怪談』(小泉八雲)
「雪女」などの物語において、超自然的な出来事が起こる象徴的な時間としてこの言葉が効果的に使われています。
生身の人間が踏み入るべきではない、魔が差す時間帯としてのニュアンスを強調しています。
草木も眠る丑三つ時のことであった。
『牡丹灯籠』(三遊亭圓朝)
日本三大怪談の一つに数えられる落語の演目です。
亡霊がカラン、コロンと下駄の音を響かせて現れる場面で、このフレーズが深夜の不気味な静寂を際立たせる役割を果たしています。
草木も眠る丑三つ時、どこからともなくカラン、コロンと下駄の音が聞こえてまいります。
類義語・関連語
「草木も眠る丑三つ時」と似た意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 寂として声なし(せきとしてこえなし):
物音が全くせず、ひっそりと静まりかえっている様子。 - 深更(しんこう):
夜が非常に深まった時。 - 夜深人静(やしんじんせい):
夜が更けて、人足が途絶え静まりかえること。
対義語
「草木も眠る丑三つ時」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 門前成市(もんぜんせいし):
訪れる人が非常に多く、門の前が市場のように賑わっている様子。 - 喧々囂々(けんけんごうごう):
大勢の人が口々に騒ぎ立てていて、やかましい様子。 - 市井の喧騒(しせいのけんそう):
人々が暮らす街の中の、騒がしく活気のある様子。
英語表現
「草木も眠る丑三つ時」を英語で表現する場合、以下のフレーズが適しています。
In the dead of night
「真夜中に」
最も深く静まりかえった深夜の時間を指す、英語の定型表現です。
- 例文:
The phone rang in the dead of night.
真夜中に電話が鳴った。
The small hours
「深夜」
日付が変わってから夜が明けるまでの、人々が寝静まっている深い時間帯を指します。
- 例文:
He worked into the small hours.
彼は深夜まで働き続けた。
まとめ
あらゆる音が消え去った深夜の静寂には、どこか神秘的な響きが漂います。
この言葉を思い浮かべることで、ただの暗闇が少し違った趣を持って感じられるようになることでしょう。
静まりかえった夜の時間に身を置くとき、古くから日本人が感じ取ってきた深い静寂の美学に触れてみるのも良いかもしれません。







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