いくら一生懸命に手を伸ばしても、そもそも場所が違っていれば望むものは手に入りません。
真冬の枯れ木に花が咲くのを待ち続けたり、砂漠の真ん中で真水を探し回ったりするように、やり方が根本から間違っている状況があります。
そんな様子を、「木に縁りて魚を求む」(きによりてうおをもとむ)と言います。
意味・教訓
「木に縁りて魚を求む」とは、物事を行う手段や方法が間違っているために、目的を達成できないことのたとえです。
いくら熱心に努力を重ねたとしても、その方向性が的外れであれば、得られる結果は「無」であるという厳しい戒めを含んでいます。
- 木(き):植物の木。
- 縁りて(よりて):よじ登る、あるいは手段として頼るという意味。
- 魚(うお):目的とするもの。
- 求む(もとむ):手に入れようとする。
語源・由来
「木に縁りて魚を求む」の由来は、中国の戦国時代の思想家、孟子の言行を記した『孟子』の一節にあります。
斉の宣王が武力によって天下を統一したいと願った際、孟子は王の強引な政策を「木に登って魚を捕ろうとするようなものだ」と批判しました。
武力で民を従わせようとするのは手段が間違っており、かえって国を滅ぼすと説いたのです。
この逸話から、見当違いな努力や実現不可能な望みを抱くことを指すようになりました。
なお、江戸時代には『江戸いろはかるた』の読み札として採用されたことで、日本でも広く定着しました。
使い方・例文
「木に縁りて魚を求む」は、計画の段階でミスがある場合や、本人の努力が空回りしている場面で使われます。
例文
- 基礎を疎かにしたまま難問ばかり解くのは、木に縁りて魚を求むようなものだ。
- 運動も食事制限もせずに痩せようとするのは、まさに木に縁りて魚を求むだね。
- 宣伝活動を一切せずに商品を売ろうとする計画は、木に縁りて魚を求むに等しい。
- 彼のやり方では、どれだけ時間をかけても木に縁りて魚を求むの結果に終わるだろう。
文学作品・メディアでの使用例
『坊っちゃん』(夏目漱石)
主人公が世の中の不条理や、目的を果たせない状況について語る場面で、この言葉が比喩として登場します。
今の世の中の有様は、大国に事(つか)へて小国を苦しめるという風だから、畢竟(ひっきょう)、木に縁りて魚を求むの類(たぐい)で、何時まで経っても目的は達せられぬ。
誤用・注意点
「木に縁りて魚を求む」を使う際、読み方に注意が必要です。
よくある間違いとして「木に登りて(のぼりて)」と言ってしまうことがありますが、正しい表記と読みは「縁りて(よりて)」です。
また、この言葉は「努力が足りない」ことを責めるのではなく、「努力の方向が間違っている」ことを指摘する言葉です。
一生懸命頑張っている人に対して使うと、「あなたの努力はすべて無駄だ」と全否定するニュアンスになりかねないため、目上の人や落ち込んでいる相手に使うのは避けたほうが賢明です。
類義語・関連語
「木に縁りて魚を求む」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 畑に蛤を求む(はたけにはまぐりをもとむ):
海の幸である蛤を畑で探すことから、場所や方法が間違っていて不可能なことを願うたとえ。 - 山に蛤を求める(やまにはまぐりをもとめる):
上記と同様、山の斜面で貝を探すような、見当違いな行動を指す言葉。 - 百年河清を待つ(ひゃくねんかせいをまつ):
濁った黄河の水が澄むのを百年待つことから、いくら待っても実現しないことのたとえ。 - 糠に釘(ぬかにくぎ):
手応えがなく、何の効果もないことのたとえ。 - 暖簾に腕押し(のれんにうでおし):
力を入れても手応えがない様子。
対義語
「木に縁りて魚を求む」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 正鵠を得る(せいこくをえる):
物事の核心を正しく突くこと。 - 的を射る(まとをいる):
的確に要点を捉えること。 - 理に適う(りにかなう):
道理に合っており、正しい方法であること。
英語表現
「木に縁りて魚を求む」を英語で表現する場合、以下の慣用句が使われます。
Barking up the wrong tree
「見当違いなことをする」「攻める相手を間違えている」
猟犬が獲物のいない木に向かって吠えている様子から、努力の方向が間違っている状況を指します。
- 例文:
If you expect him to apologize, you’re barking up the wrong tree.
(彼が謝ると思っているなら、それはお門違いだ。)
Looking for a needle in a haystack
「干し草の山から針を探す」
不可能に近いことや、極めて効率の悪い方法で何かを達成しようとしている状況で使われます。
まとめ
「木に縁りて魚を求む」は、一生懸命に取り組んでいるはずなのに結果が出ないとき、一度立ち止まって「自分の立っている場所」や「手にしている道具」が正しいかどうかを見直させてくれる言葉です。
がむしゃらな努力も尊いものですが、時にはその努力が「木の上で魚を探すようなもの」になっていないか、冷静に客観視する視点を持つことが、目標達成への近道になることでしょう。






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