目に見えないけれど、どこかで見守ってくれているような存在――それが「神」。
時に頼り、時に畏れ、時に距離を置きながらも、私たちは昔から神と共に生きてきました。
そんな「神」にまつわる言葉には、信仰や知恵、そして人の生き方が込められています。
今回は、神に関連することわざ、慣用句、四字熟語をひもときながら、その意味を味わってみましょう。
ことわざ
- 苦しい時の神頼み(くるしいときのかみだのみ):
普段は神仏を信じない人でも、苦しいことや困ったことがあると、神仏に助けを求めて祈ること。 - 触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし):
余計な関わりを持たなければ、面倒なことや災いを招くこともないというたとえ。 - 挨拶は時の氏神(あいさつはときのうじがみ):
人と人との間で揉め事が起こった際、その場に居合わせた仲裁者は、まるで氏神様のように尊い存在であるから、その調停に従うべきだということ。 - 捨てる神あれば拾う神あり(すてるかみあればひろうかみあり):
一方で見放す人がいても、他方で助けてくれる人も必ずいるということ。世の中は広く、どんな状況でも救いはあるという励ましの言葉。 - 出雲の神より恵比寿の紙(いずものかみよりえびすのかみ):
遠くの神様に祈るよりも、目先の利益(恵比寿様=商売の神、紙=お金)の方が大切だということ。実利を重んじる考え方。 - 御神酒上がらぬ神はない(おみきあがらぬかみはない):
神様でさえお神酒を供えられれば悪い気はしないのだから、人にお願い事をする時には、贈り物や機嫌取りも時には必要だということ。 - 稼ぐに追い付く貧乏神(かせぐにおいつくびんぼうがみ):
一生懸命働いて収入を得ても、それ以上に出費がかさんで、いつまでたっても貧乏から抜け出せないことのたとえ。 - 正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる):
正直で真心のある人の頭には、神様が宿り、守ってくれるということ。正直であることの尊さを説く。 - 民の声は神の声(たみのこえはかみのこえ):
民衆の声は、神の声(天の声)と同じように、尊重し耳を傾けるべきであるということ。 - 七つ前は神の子(ななつまえはかみのこ):
七歳までの子供は、まだ完全に人間ではなく、神様に属する存在であると考えられていたことから、無事に成長できるよう大切に扱われた習俗。乳幼児の死亡率が高かった時代の背景がある。 - 仏ほっとけ神構うな(ほとけほっとけかみかまうな):
他人のことには干渉せず、自分のことに専念すべきであるということ。突き放した言い方。 - 神は非礼を受けず(かみはひれいをうけず):
神様は礼儀に外れた願いや行いを受け入れない。神様に対してはもちろん、人に対しても礼儀を尽くすべきであるという教え。 - 神は見通し(かみはみとおし):
人間の心の中や行いは、すべて神様によって見抜かれているということ。悪いことはできないという戒め。 - 人事を尽くして天命を待つ(じんじをつくしててんめいをまつ):
人間としてできる限りの努力をしたら、あとは静かに天の意志(運命)に任せるべきであるということ。
慣用句
- 神業(かみわざ):
まるで神が行ったかのように、人間業とは思えないほど巧みで素晴らしい技術や行為。 - 神隠し(かみかくし):
子供などが突然行方不明になること。昔は、神や天狗などに連れ去られたと考えられていた。 - 神ならぬ身(かみならぬみ):
神様ではない、普通の人間であること。間違いを犯したり、能力に限界があることを示す表現。 - 死神(しにがみ):
人に死をもたらすとされる神。転じて、不吉な人や、関わると不幸になる人のたとえ。 - 貧乏神(びんぼうがみ):
取り憑かれると貧乏になると信じられている神。転じて、貧乏の原因となるものや、不運をもたらす人のたとえ。 - 福の神(ふくのかみ):
幸福や富をもたらすとされる神(七福神など)。転じて、幸運や利益をもたらしてくれる人や物。 - 疫病神(やくびょうがみ):
疫病を流行らせる神。転じて、厄介事や不幸をもたらす人、嫌われ者。 - 祟り(たたり):
神仏や怨霊などが、人間に対して災いを下すこと。 - 罰が当たる(ばちがあたる):
悪い行いをした報いとして、神仏などから懲らしめを受けること。
四字熟語
- 神出鬼没(しんしゅつきぼつ):
鬼神のように、どこから現れどこへ消えるか予測できないほど、自由自在に出没すること。 - 神算鬼謀(しんさんきぼう):
人間業とは思えないほど、巧みで優れたはかりごとや計略。 - 神機妙算(しんきみょうさん):
神のなせるわざのように、絶妙で優れたはかりごと。 - 天佑神助(てんゆうしんじょ):
天や神の助け。思いがけない幸運に恵まれること。 - 敬天愛人(けいてんあいじん):
天を敬い、人を愛すること。西郷隆盛の座右の銘として有名。
まとめ – 人と神との関わり方
「神」という言葉には、人知を超えた存在への敬意と、素朴な信仰のかたちが映し出されています。
頼りたくなるときもあれば、そっと距離を置くこともある。
でも結局は、日々をまっすぐに生きることが、神と向き合ういちばんの姿勢なのかもしれません。
努力を尽くし、その先のことは天に委ねる。
そんな静かな覚悟が、昔から語り継がれてきたのです。
コメント