歴史ドラマやニュースなどで、情勢がにわかに緊迫してくる場面。そんな時、「風雲急を告げる」という言葉を見聞きしたことはありませんか。
いかにも重大なことが起こりそうな、張り詰めた空気を感じさせる表現です。
この言葉の正確な意味や由来、どのような場面で使うのが適切なのか、その背景にはどのようなニュアンスが含まれているのかを解説します。
「風雲急を告げる」の意味・教訓
「風雲急を告げる」(ふううんきゅうをつげる)とは、戦争や政変、大きな事件などが今にも起ころうとする、非常に緊迫した情勢になることを意味します。
「風雲」とは、風と雲のことで、古くから「天候が荒れる前兆」とされてきました。転じて、社会が大きく変動する前触れや、動乱・事変といった意味で使われます。
「急を告げる」は、文字通り、事態が差し迫っている、緊急であることを知らせるという意味です。
つまり、この二つが組み合わさることで、「まるで嵐が来る直前のように、世の中の動きが慌ただしくなり、重大な局面が迫っている」という、切迫した状況を強く示す表現となっています。
「風雲急を告げる」の語源
この言葉は、特定の歴史的な出来事(故事)に由来するものではなく、「風雲」という言葉が持つ比喩的な意味と、「急を告げる」という表現が組み合わさって生まれた慣用句です。
「風雲」は、中国の古い書物(『易経』など)において、竜が風と雲を得て天に昇る様子から「英雄が活躍の機会を得る」といった意味も持ちます(「風雲児」などの言葉に残っています)。
しかし、「風雲急を告げる」の場合は、そうした英雄の活躍というよりも、むしろ「天候の急変=事態の急変・動乱」という、緊迫したニュアンスで用いられています。
使用される場面と例文
「風雲急を告げる」は、個人の身の回りの小さなトラブルではなく、政治、国際情勢、戦争、企業の勢力図、あるいは大規模なスポーツの大会など、比較的スケールの大きな物事の情勢が緊迫した場合に使われます。
新聞の見出しや歴史小説、政治評論などで、情勢の緊迫感を表現する常套句(じょうとうく)としてもよく用いられます。
日常会話で使うことは稀ですが、社会的な出来事について話す際に使うことができます。
例文
- 大統領の突然の辞任表明により、国内政治は「風雲急を告げる」事態となった。
- ライバル企業による大型買収のニュースが流れ、業界全体が「風雲急を告げる」展開を迎えている。
- 幕末の京都は、尊王派と佐幕派の対立が激化し、まさに「風雲急を告げる」状況であった。
- 優勝をかけたトーナメント終盤、有力選手が次々と敗退し、「風雲急を告げる」波乱の展開となっている。
類義語・言い換え表現
「風雲急を告げる」と似た、緊迫した状況や悪い前兆を表す言葉を紹介します。
- 一触即発(いっしょくそくはつ):
少し触れただけですぐに爆発しそうな、極めて危険な状態。目前の危機を指す点で、「風雲急を告げる」よりもさらに切迫度が高いニュアンスがあります。 - 暗雲が立ち込める(あんうんがたちこめる):
悪いことが起こりそうな、不穏な気配が広がること。「風雲急を告げる」が「急(=差し迫った)」状況を指すのに対し、こちらは「前兆・気配」に重点があります。 - きな臭い(きなくさい):
火薬が焦げるような匂いがすることから転じて、何か事件や騒動が起こりそうな怪しい雰囲気がすること。 - ただならぬ気配(ただならぬけはい):
いつもとは違う、重大なことが起こりそうな雰囲気。
対義語
情勢が緊迫している「風雲急を告げる」とは反対に、世の中や状況が穏やかであることを示す言葉です。
- 天下泰平(てんかたいへい):
世の中が非常によく治まっていて、平和なこと。 - 平穏無事(へいおんぶじ):
特に変わったこともなく、穏やかで安らかなこと。 - 波風が立たない(なみかぜがたたない):
何の事件やもめごともなく、静かであること。
英語での類似表現
「風雲急を告げる」の「事態が緊迫し、重大な局面を迎えている」というニュアンスに近い英語表現を紹介します。
Things are coming to a head
- 意味:「事態が重大な局面(山場)を迎えつつある」「どたん場に来る」。
問題や緊張が最高潮に達し、何らかの決着や決断が迫っている状況を指します。 - 例文:
The tensions between the two countries are coming to a head.
(両国間の緊張は、重大な局面を迎えつつある。)
Trouble is brewing
- 意味:「厄介なことが起こりそうだ」「不穏な空気が漂っている」。
“brew”は(お茶やコーヒーを)淹れる、(ビールなどを)醸造するという意味ですが、転じて(よくないことが)企まれている、起こりかけているという意味で使われます。 - 例文:
You can feel that trouble is brewing in the city.
(その街では、不穏な空気が漂っているのを感じ取れる。)
The calm before the storm
- 意味:「嵐の前の静けさ」。
一見平穏に見えるが、その直後に大きな出来事(嵐)が迫っている状況を指します。「風雲急を告げる」が示す「急(緊迫感)」とは少し異なりますが、大きな変動の前触れという点で関連します。 - 例文:
The atmosphere in the office was quiet, but it was the calm before the storm.
(オフィスは静かだったが、それは嵐の前の静けさだった。)
「風雲急を告げる」に関する豆知識
「風雲」という言葉は、「風雲児(ふううんじ)」という言葉にも使われています。
「風雲児」とは、社会の変動に乗じて現れ、目覚ましい活躍をする人のことを指します。これは前述の語源で触れた「竜が風と雲を得て天に昇る(英雄が機会を得る)」という、中国古典のイメージに基づいています。
このように、「風雲」は「動乱・緊迫」というネガティブな側面と、「英雄の活躍の場」というポジティブな側面を併せ持つ言葉です。「風雲急を告げる」は、主に前者の「緊迫した情勢」を指す表現として定着しています。
まとめ – 変化の兆しを読み解く
「風雲急を告げる」は、社会や集団が大きな変化の瀬戸際にあり、事態が差し迫っている緊迫した状況を表す言葉です。
もともとは天候の急変を指す言葉が、時代の移り変わりとともに、政治や社会情勢の緊迫感を表現する言葉として使われるようになりました。
現代社会においても、国際情勢や経済、あるいは身近な組織の動向など、様々な場面で「風雲急を告げる」ような局面は訪れます。この言葉は、私たちにそうした変化の前触れを敏感に察知し、次に来るものに備える心構えを促しているようですね。






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