「いつまでこの暑さが続くのだろう」「早く暖かくならないかな」。
季節の変わり目には、誰もがそんなもどかしさを感じるものです。
そんな時、気候の目安として、あるいは「あと少しの辛抱だ」という互いへの励ましとして使われるのが「暑さ寒さも彼岸まで」。
日本の四季と深く結びついたこの言葉には、自然と共に生きてきた先人たちの経験と知恵が詰まっています。
「暑さ寒さも彼岸まで」の意味
夏の猛暑は秋の彼岸(9月下旬)頃には和らぎ、冬の厳しい寒さも春の彼岸(3月下旬)頃までには薄らいで、その後は過ごしやすくなるという意味です。
「彼岸」という特定の時期を境に、辛い季節も必ず終わりが来るという季節の変化に対する経験則を表しています。
転じて、辛い状況もいつまでも続くわけではないという、慰めや希望の言葉として使われることもあります。
ここでの「彼岸」は、以下の期間を指します。
- 春の彼岸:春分の日(3月20日頃)を中日(ちゅうにち)とした前後3日間、計7日間。
- 秋の彼岸:秋分の日(9月23日頃)を中日とした前後3日間、計7日間。
「暑さ寒さも彼岸まで」の語源・由来
この言葉は、特定の文献や偉人の言葉に由来するものではなく、日本の風土の中で暮らす人々の実体験と仏教行事が結びついて定着した慣用句です。
春分と秋分は、太陽が真東から昇り真西に沈む日で、昼と夜の長さがほぼ同じになります。
天文学的にも季節の大きな折り返し地点にあたり、この時期を境に気候の傾向が大きく変わることを、昔の人々は肌感覚で知っていました。
また、「彼岸」は先祖供養を行う大切な仏教行事の期間です。
農作業の節目とも重なるこの時期に、「お墓参りをする頃になれば、この厳しさも落ち着くだろう」という人々の願いや見通しが込められています。
「暑さ寒さも彼岸まで」の使い方・例文
季節の挨拶や、気温の話題が出た際の決まり文句として使われます。
例文
- 「今年の残暑は厳しいですが、暑さ寒さも彼岸までと言いますし、もう少しの辛抱ですね。」
- 「暑さ寒さも彼岸までという通り、お墓参りを済ませたら急に風が涼しくなった。」
- 「もう3月も終わりか。暑さ寒さも彼岸までだから、そろそろ厚手のコートをしまおうかな。」
メディアでの使用例
天気予報やニュース番組の季節の話題で頻繁に登場します。
特に、平年並みの気候に戻る時期を説明する際や、逆に「暑さ寒さも彼岸までとは申しますが、今年は記録的な暑さが続いています」のように、平年とのズレを強調する際の比較基準として引用されることがあります。
「暑さ寒さも彼岸まで」の注意点
現代では地球温暖化やヒートアイランド現象の影響により、昔のことわざ通りに季節が進まないことが増えています。
特に秋に関しては、お彼岸(9月下旬)を過ぎても夏日や真夏日が続くケースが見られます。
「彼岸を過ぎたからもう涼しいはずだ」と油断して薄着をしたり、熱中症対策を怠ったりするのは危険です。
あくまで「季節の目安」として捉え、実際の気温に合わせた対応が必要です。
「暑さ寒さも彼岸まで」の類義語・関連語
季節の移ろいや、寒暖の変化を表す言葉を紹介します。
- 三寒四温(さんかんしおん):
冬から春にかけて、3日ほど寒い日が続いた後に4日ほど暖かい日が続き、これを繰り返しながら徐々に暖かくなること。本来は冬の気候用語ですが、日本では春先の言葉として定着しています。 - 寒の戻り(かんのもどり):
春になって暖かくなってきた頃に、一時的に冬のような寒さがぶり返すこと。「余寒(よかん)」とも言います。彼岸前の寒さを表す際に関連して使われます。 - 一雨一度(ひとあめいちど):
秋に雨が降るたびに、一度(いちど)ずつ気温が下がって涼しくなっていくこと。「一雨ごとの暖かさ(春)」の対になる表現として使われます。
※辞書によっては「一雨ごとの涼しさ」として記載されることもあります。
「暑さ寒さも彼岸まで」の英語表現
日本の「彼岸」という文化的概念を含むため、直訳ではなく意味内容を説明する形になります。
Heat and cold last until the equinox
- 直訳:暑さと寒さは春分・秋分まで続く。
- 意味:「暑さ寒さも彼岸まで」
- 解説:equinox(イクイノクス)は「昼夜平分時(春分・秋分)」を指します。日本のことわざを英語圏の人に文化的に説明する際に最も適した表現です。
- 例文:
In Japan, there is a saying that heat and cold last until the equinox.
(日本には、暑さ寒さも彼岸までという言葉があります。)
「暑さ寒さも彼岸まで」に関する豆知識
「ぼたもち」と「おはぎ」の使い分け
お彼岸にお供えするあんころ餅には、「ぼたもち(牡丹餅)」と「おはぎ(お萩)」という2つの呼び名がありますが、これは季節の花に由来した使い分けです。
- 春の彼岸:春に咲く牡丹(ボタン)の花になぞらえて「ぼたもち」と呼ぶ。
- 秋の彼岸:秋に咲く萩(ハギ)の花になぞらえて「おはぎ」と呼ぶ。
- 小豆の赤色:小豆の赤い色には「魔除け」の効果があると信じられており、邪気を払い、ご先祖様の供養を行うために捧げられました。
基本的には同じ食べ物ですが、季節感を大切にする日本人の繊細な感性が、名前の違いに表れています。
まとめ
「暑さ寒さも彼岸まで」は、厳しい自然環境の中で暮らす人々が、季節の節目に希望を見出すために語り継いできた言葉です。
現代の気候とは少しズレが生じることもありますが、「辛い時期もいつか必ず和らぐ」という前向きなメッセージは、今も私たちの心を軽くしてくれます。
春分や秋分の日を迎えたら、空を見上げて季節の移ろいを感じてみてはいかがでしょうか。









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