意味
「無い袖は振れぬ(ないそではふれぬ)」は、持っていないものは出そうとしても出しようがないという意味です。
手元に資金や資源がないために、助けや支払いの求めに応じることが物理的に不可能である事実を表します。
語源・由来
もともと袖がないのだから振りようがない、という言い方で、お金や財産がないのでどうにもしようがないことをたとえた言葉です。
ただ、袖を振ることがなぜお金を出すことに結びつくのかは、はっきりしていません。
『韓非子』五蠹篇にある、次の一節に由来するという説があります。
鄙諺曰:「長袖善舞,多錢善賈。」此言多資之易爲工也。
(ことわざに「袖が長ければうまく舞え、元手が多ければうまく商いができる」とあり、元手が多いと事を成しやすいことを言ったものである)
ただし、この一節は袖と銭が並んで出てくるだけで、「袖を振ってお金を出す」という中身とのつながりは薄いとする見方もあります。
使い方・例文
「無い袖は振れぬ」は、金銭や物資が不足しているために要求を断る場面で使われます。
- イベントを企画したいが予算がなく、無い袖は振れぬ。
- パソコンの修理代を払いたくても、無い袖は振れない。
- 友人から借金を頼まれたが、無い袖は振れません。
誤用・注意点
主にお金や財産がなくて求めに応じられないときに使いますが、持っていないものは出せないという意味で、金銭以外の物資や人手が足りない場面にも使われます。
一方、「やる気が出ない」「面倒だ」のように、出せるのに出さない場面で使うのは言葉の意味から外れます。
類義語・関連語
「無い袖は振れぬ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 素寒貧(すかんぴん):
金銭を全く持っておらず、手元に財産が何一つ残っていない一文無しの状態。 - 鼻血も出ない(はなじもでない):
これ以上いくら絞り出そうとしても金銭が全く残っていない、極限の困窮状態。
対義語
「無い袖は振れぬ」と反対の意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 打ち出の小槌(うちでのこづち):
振るだけで欲しいものが次々と無限に生み出されるような、潤沢な富のたとえ。 - 金に糸目をつけない(かねにいとめをつけない):
費用の制限や上限を一切気にすることなく、目的のために惜しみなく金銭を使う態度。
英語表現
You cannot get blood out of a stone
「石から血を絞り出すことはできない」という意味で、感情を持たない相手や、資源が枯渇している所から何かを引き出すことは不可能である状況
I asked him for a loan, but you cannot get blood out of a stone.
(彼に借金を頼みましたが、無い袖は振れませんでした。)
坂口安吾は敗戦後のあきらめを「ない袖はふれぬ」と書いた
昭和22年(1947)、作家の坂口安吾は『二合五勺に関する愛国的考察』という文章で、このことわざを使っています。
題の「二合五勺」は、当時の米の配給の量のことです。
安吾は、少し前まで配給はそれより少ない二合一勺で、欠配も続いていたのに人々は暴動を起こさなかったと述べ、戦後の人々の心の中をこう書きます。
戦争に負けた。ない袖はふれぬ。二合五勺の、それに芋がまじっても、しかたがない、と。
この一文は、安吾自身の主張ではありません。
安吾は、自分で考えるより先に「われわれの心のなかで、別人があきらめてしまっている」と書き、その別人の声としてこの言葉を置いています。
頼まれた金を断るときの「無い袖は振れぬ」が、ここでは、無いものは無いと自分に言い聞かせるあきらめの言葉として使われています。












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