あちこちに目移りして、結局どれも手にできなかった苦い経験は誰にでもあるものです。
一つのことに集中できず力が分散してしまうと、本来得られたはずの成果さえ逃してしまいかねません。
そんな状況を、「二兎を追う者は一兎をも得ず」(にとをおうものはいっとをもえず)と言います。
意味・教訓
「二兎を追う者は一兎をも得ず」とは、同時に二つのことを成し遂げようと欲張ると、結局どちらも失敗に終わるという意味のことわざです。
一度に二匹の兎を捕まえようと追いかけても、力が分散してどちらにも逃げられてしまう様子が語源となっています。欲を出しすぎることへの戒めや、一つの物事に集中することの大切さを説いています。
語源・由来
「二兎を追う者は一兎をも得ず」の由来は、
西洋のことわざ(英語:If you run after two hares, you will catch neither.)です。
古代ローマの学者エラスムスが編纂した格言集などに収録されていたラテン語の表現が、後に日本へ伝わり、定着したものと言われています。
日本では「兎」という親しみやすい動物のイメージが、俊敏で捕まえにくいという性質と合致したことで広く普及しました。
使い方・例文
「二兎を追う者は一兎をも得ず」は、欲張ってキャパシティを超えた計画を立てている人への忠告や、失敗した時の反省の弁として使われます。
例文
- 二つの習い事に手を出し、二兎を追う者は一兎をも得ずの結果になった。
- 同時に二人の人を追いかけても、二兎を追う者は一兎をも得ずで終わるよ。
- 複数の投資に手を出したせいで、二兎を追う者は一兎をも得ず、資金をすべて失った。
文学作品・メディアでの使用例
欲張った結果すべてを失うというテーマは、古くから多くの物語で描かれています。
『イソップ寓話』(イソップ)
「欲ばりな犬」のエピソードは、まさにこのことわざの教訓を体現しています。
水面に映った自分の姿を別の犬だと思い込み、その犬がくわえている肉まで奪おうと吠えた結果、自分がくわえていた肉まで川に落として失ってしまう。
誤用・注意点
この言葉は、単に「複数のことを並行して行う」ことを否定するものではありません。
間違えやすいポイント
- 対象:計画的に効率よく複数の作業をこなしている人に対して使うのは不適切です。
- 文脈:あくまで「欲張った結果、力が分散してどちらもダメになる」という否定的な結末が予想される場合に使います。
類義語・関連語
「二兎を追う者は一兎をも得ず」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 虻蜂取らず(あぶはちとらず):
虻も蜂も両方捕まえようとして、結局どちらも逃がしてしまうこと。 - 欲の熊鷹股裂ける(よくのくまたかまたさける):
欲張りすぎると、かえって自分の身を滅ぼすというたとえ。 - 花も折らず実も取らず(はなもおらずみもとらず):
欲張ったり迷ったりした結果、どちらの利益も得られないこと。
対義語
「二兎を追う者は一兎をも得ず」とは対照的な、効率の良さや集中を説く言葉には以下があります。
- 一石二鳥(いっせきにちょう):
一つの行為で、同時に二つの利益を得ること。 - 一点突破(いってんとっぱ):
一つの箇所に全力を集中させて、困難な状況を切り開くこと。
英語表現
「二兎を追う者は一兎をも得ず」を英語で表現する場合、以下の定型句が使われます。
If you run after two hares, you will catch neither.
直訳:「二匹の兎を追いかければ、どちらも捕まえられない」
日本語の訳そのものと言える、最も一般的な英語のことわざです。
- 例文:
Don’t try to study for two exams at once; if you run after two hares, you will catch neither.
(二つの試験を同時に勉強しようとするな。二兎を追う者は一兎をも得ずだ。)
You cannot serve two masters.
直訳:「二人の主人に仕えることはできない」
相反する二つのものに同時に忠誠を尽くそうとしても無理である、という意味で使われます。
現代における「二兎」の捉え方
このことわざは集中力の重要性を説くものですが、現代では必ずしも「複数のことに取り組むこと」自体を悪とはしません。
大切なのは、自分の能力や状況を客観的に判断し、優先順位をつけるバランス感覚です。
無計画に手を広げすぎることへの戒めとしてこの言葉を心に留めつつ、目標に向かって着実に歩むことが成功への近道と言えるかもしれません。
まとめ
「二兎を追う者は一兎をも得ず」。この言葉は、私たちの欲深い心に静かにブレーキをかけてくれる先人の知恵です。
情報も選択肢も溢れている現代だからこそ、あれもこれもと手を広げたくなるかもしれません。しかし、本当に大切なものを手に入れるためには、時には一つに絞り込む勇気も必要です。
今、自分が追いかけている「兎」は一匹に絞れているか。時折この言葉を思い出すことで、物事の優先順位がより鮮明に見えてくることでしょう。






コメント