世の中の複雑な状況や、まだ誰も気づいていないわずかな兆候から、次に何が起こるかを鮮やかに言い当てる人がいます。
物理的な距離や時間の壁を超えて、普通の人には見えない物事の真実や未来を見極める卓越した能力を、
「天眼通」(てんげんつう)と言います。
意味
「天眼通」とは、仏教において修行者が得るとされる、遠くの出来事や未来の様相を自由に見通すことができる力のことです。
修行によって得られる六つの超自然的な能力「六神通(ろくじんずう)」の一つに数えられます。
現代では、物事の本質を鋭く見抜く洞察力や、時代の先を読み取る予見力という意味でも使われる言葉です。
語源・由来
「天眼通」の語源は、仏教の経典に記された聖者の能力にあります。
本来、人間が持つ「肉眼」には、壁に遮られた向こう側や遠方の出来事、あるいは自分たちの死後の行き先を見ることはできないという限界があります。
「天眼通」は、天界の住人が持つとされる清浄な眼(天眼)のように、一切の障害に惑わされることなく、生きとし生けるものの生滅や世界の真理を見通す智慧の働きを指しています。
単なる視力の良さではなく、心の眼によって真実を捉える、精神的な到達点を示す言葉として生まれました。
使い方・例文
「天眼通」は、並外れた先見性を持つ指導者や、深い専門知識から未来を予測する専門家の能力を称える際に用いられます。
例文
- 彼は市場の動向を察知する天眼通を備えている。
- 師匠の囲碁の打ち筋は、まさに天眼通の域だ。
- あたかも天眼通があるかのように、相手の嘘を見破った。
- 時代の先を読む彼の天眼通には、誰もが舌を巻く。
文学作品での使用例
『南総里見八犬伝』(曲亭馬琴)
物語の中で、超常的な力を持つ者が、遠方の戦況を把握したり未来を予言したりする際に、この言葉が神秘的な力として描かれています。
…これこそ古の聖者が備えし天眼通の力なりと、人々は驚きおののく。
類義語・関連語
「天眼通」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 千里眼(せんりがん):
遠い場所で起きていることを察知できる能力。 - 洞察力(どうさつりょく):
物事の本質を鋭く見通す、優れた観察眼。 - 先見の明(せんけんのめい):
将来どうなるかをあらかじめ見抜く知恵。 - 透視(とうし):
遮蔽物の向こうにあるものを、視覚的に捉える能力。
対義語
「天眼通」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 肉眼(にくがん):
特別な力の及ばない、普通の人間が持つ限られた視界。 - 凡眼(ぼんがん):
物事のうわべだけを見て、本質を見抜くことができない平凡な眼。 - 近視眼的(きんしがんてき):
目の前のことだけに囚われ、広い視野や将来への見通しを欠いていること。
英語表現
「天眼通」を英語で表現する場合、超能力や鋭い直感を指す言葉を使います。
clairvoyance
「透視力」や「千里眼」を意味する、最も一般的な表現です。
「物理的な限界を超えて、隠された情報や未来を知る能力」
- 例文:
She possesses a kind of clairvoyance when it comes to business.
彼女はビジネスにおいて一種の天眼通を持っている。
the divine eye
仏教的なニュアンスを直訳した表現で、宗教的な文脈で使われます。
「神仏のような清浄な眼」
- 例文:
With the divine eye, he saw the rebirth of all beings.
天眼通によって、彼はすべての生き物の転生を見通した。
六神通(ろくじんずう)の体系
「天眼通」は、仏教において修行者が得るとされる六つの不思議な能力(神変)の一部です。
これらは単なる超能力の自慢ではなく、修行を通じて煩悩を断ち切り、世界の真理に目覚めた結果として現れる智慧の形とされています。
- 神足通(じんそくつう):
場所を問わず自由に行き来し、姿を自在に変えることができる力。 - 天耳通(てんにつう):
世の中のあらゆる遠くの音や、神々の言葉を聞き取る力。 - 他心通(たしんつう):
他人の心の中をすべて読み取ることができる力。 - 宿命通(しゅくめいつう):
自分や他人が過去にどのような生を送ってきたかをすべて知る力。 - 天眼通(てんげんつう):
遠くの出来事や未来、生き物が次にどこへ生まれ変わるかを見通す力。 - 漏尽通(ろじんつう):
あらゆる煩悩を消し去り、二度と迷いの世界に戻らない究極の悟りの力。
まとめ
遥か遠くや未来、そして人の心の奥底までを見通す「天眼通」は、私たちが持つ「真実を知りたい」という願いを象徴する言葉です。
超自然的な力としての習得は難しくても、経験を重ね、冷静に観察することで養われる「洞察力」という名の眼は、誰もが磨いていける実力と言えるでしょう。
一つの物事に深く精通し、多角的な視点を持つことで、混迷する時代の中でも確かな一歩を踏み出すための光が見えてくることでしょう。





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