「同工異曲」は、本来の意味と、現代で広く使われている意味が異なる、少し注意が必要な四字熟語です。
- 本来の意味:
音楽や詩文、芸術作品などにおいて、作り方や技巧(工)は同じようだが、その趣や味わい(曲)は異なること。 - 現代でよく使われる意味:
見た目や形式は違っているようだが、中身や内容は実は同じであること。(「大同小異」に近い意味)
このように、本来の意味と現代で使われる意味が逆のようになっているため、文脈からどちらの意味で使われているかを判断する必要があります。
「同工異曲」の語源
この言葉は、中国・唐代の文人である韓愈(かんゆ)が、同時代の詩人を評した「同工異妙(どうこういみょう)」という言葉に由来します。
- 同工(どうこう):手法や技術、作り方が同じであること。
- 異曲(いきょく):趣や味わい、素晴らしさが異なること。(元は「異妙」)
韓愈は、「詩の手法は(他の詩人と)同じ(同工)だが、その趣や素晴らしさは(独自で)異なる(異妙)」と高く評価しました。
これが元になり、「手法は同じでも趣は異なる」という本来の意味が生まれました。
しかし現代では、「見た目は違う(異曲)ようでも、中身は同じ(同工)だ」と、本来とは逆の意味で使われることが多くなっています。
使用される場面と例文
二つの意味合いに応じて、異なる場面で使われます。どちらの意味か誤解しないよう注意が必要です。
例文(現代で使われる意味:見かけ違う、中身同じ)
- 「各党が様々な政策を掲げているが、その実態は「同工異曲」で、本質的な違いは見られない。」
- 「表現方法は異なるものの、彼らの主張は「同工異曲」と言えるだろう。」
例文(本来の意味:見かけ同じ、中身違う)
- 「二人の画家の作品は、同じ画材を使っているが、表現の深みにおいて「同工異曲」の感がある。」
- 「どちらの小説も推理物という点では同じだが、読後感は「同工異曲」だ。」
類義語・言い換え表現
現代で使われる「中身が同じ」という意味に近い言葉を紹介します。
- 大同小異(だいどうしょうい):
細かい違いはあるが、大体は同じであること。 - 五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ):
少しの違いはあっても、本質的には同じであること。 - 似たり寄ったり(にたりよったり):
よく似ていて、ほとんど差がないこと。
対義語
見かけも中身も全く異なることを示す言葉です。
英語での類似表現
文脈に応じて使い分ける必要があります。
現代的な意味(見かけ違う、中身同じ)
six of one and half a dozen of the other
- 意味:「どちらでも同じ」「大差ない」。
- 例文:
It doesn’t matter if we take this route or that route; it’s six of one and half a dozen of the other.
(この道を行こうがそちらの道を行こうが、結局は同じこと(同工異曲)だよ。)
essentially the same thing
- 意味:「本質的には同じこと」。
- 例文:
They’re packaged differently, but they are essentially the same thing.
(パッケージは違うけれど、それらは本質的には同じもの(同工異曲)だ。)
使用上の注意点
「同工異曲」を使う際に最も注意すべき点は、意味が二通りあり、文脈によって正反対になることです。
現代では「中身は同じ」という意味で使われることが多いため、本来の「中身は違う」という意味で使うと、誤解される可能性があります。
本来の意味で使いたい場合は、誤解を避けるために「大同小異」などの類語を選ぶか、「手法は同じだが、趣は全く異なる」と補足説明を加えるのが賢明です。
まとめ – 意味が変化した四字熟語
「同工異曲」は、元々「手法は同じでも趣は異なる」という芸術作品への賛辞でしたが、現代では「見た目は違っても中身は同じ」という、ほぼ逆の意味で使われることが多くなっています。
言葉の意味が時代と共に変化する一例として、非常に興味深い四字熟語です。
この言葉に触れる際は、文脈を注意深く読み取り、どちらの意味で使われているかを見極めたいものですね。




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