意味
「恩を仇で返す(おんをあだでかえす)」とは、受けた恩義に感謝するどころか、かえって相手を傷つけるような振る舞いに及ぶという意味です。
「恩」は相手からの恵みや助けであり、「仇」は恨みの対象や危害を指します。
本来、受けた恩には恩で報いるのが道徳的な規範である中で、その信頼関係を根底から破壊する行為を厳しく戒める教訓が含まれています。
語源・由来
「恩を仇で返す」は、人間関係の根幹をなす「恩」と、その対極にある「仇」という二つの言葉を対比させることで、背信行為の理不尽さを強調した表現です。
受けた恩義には報いるべきだという考え方を真っ向から踏みにじる行為を、強く非難する言葉です。
「恩を仇で報ずる」という言い方もあります。
使い方・例文
「恩を仇で返す」は、単なる不義理ではなく、明確な裏切りや実害を伴う非道な行為に対して使われます。
信頼を寄せていた側がその理不尽さを嘆いたり、周囲がその身勝手さを厳しく非難したりする場面で用いられます。
- 助けた相手から恩を仇で返すような真似をされる。
- 友人の親切を利用して騙すのは、恩を仇で返すも同然だ。
- 彼は世話になった会社を、恩を仇で返す形で去った。
類義語・関連語
「恩を仇で返す」と似た意味を持つ言葉には、信頼していた相手からの思わぬ裏切りを表現するものが多くあります。
- 飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる):
日頃から可愛がり、面倒を見ていた者から不意に害を受けること。 - 後足で砂をかける(あとあしですなをかける):
世話になった恩を忘れるだけでなく、去り際に迷惑をかけること。 - 忘恩負義(ぼうおんふぎ):
受けた恩を忘れ、人としての正しい道から外れること。 - 酒盛って尻切られる(さかもってしりきられる):
酒を振る舞ってもてなした相手から、かえって害を加えられること。
対義語
「恩を仇で返す」とは対照的に、受けた恩を大切にする姿勢を表す言葉です。
- 結草報恩(けっそうほうおん):
死んだ後も亡霊となって恩人に報いた故事から、死んでも恩に報いること。 - 感恩報謝(かんおんほうしゃ):
恩を感じて、感謝の気持ちを具体的な行動で示すこと。 - 一飯の恩(いっぱんのおん):
一度食事を恵んでもらった程度のわずかな恩義のこと。
「一飯の恩も忘れない」のように、わずかな恩にも報いる心がけを言うときに使います。
英語表現
「恩を仇で返す」を英語で表現する場合、動物の習性や善悪の対比を用いた慣用句が使われます。
Bite the hand that feeds you
「自分に餌をくれる手を噛む」という直訳で、世話になっている相手に害を加えることを指す、最も一般的な表現。
Don’t bite the hand that feeds you.
(自分を支えてくれている人を裏切るような真似はするな。)
Return evil for good
「善に対して悪を返す」という、宗教的・道徳的背景を持つ直接的な表現です。
He returned evil for good by betraying his savior.
(彼は命の恩人を裏切り、恩を仇で返した。)
「仇を恩で返す」ほうは孔子に退けられた
逆向きの言い方に「怨みに報ゆるに徳を以てす」があります。
『老子』の第六十三章に「怨みに報ゆるに徳を以てす」と出てきます。
ところが『論語』の憲問篇では、これを持ち出した人に孔子が難色を示します。
「或るひと曰く、徳を以て怨みに報いば、何如。子曰く、何を以て徳に報いん。直きを以て怨みに報い、徳を以て徳に報ゆ」。
怨みに徳で報いてしまったら、徳には何で報いるのか、というのが孔子の言い分です。
受けたものにはそれに見合うもので返す——「恩を仇で返す」が破っているのは、この釣り合いのほうです。















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