意味
「大恩は報ぜず(だいおんはほうぜず)」とは、小さな恩は負い目に感じて返そうとするが、あまりに大きな恩にはかえって気づかず、報いようともしないものだという意味です。
親に育ててもらった恩のように、大きすぎて当たり前になっている恩ほど、受けた側は恩と感じにくいという、人の心の傾向を言ったことわざです。
「大きな恩は返しきれない」という意味ではありません。
「大恩」は、大きな恩、深い恩のことで、「厚恩」ともいいます。
語源・由来
「大恩は報ぜず」は、「大恩不報」を読み下した形の言葉です。
この四字は中国の『呉越春秋』で、越王勾践に死を命じられた文種の言葉の中に、次のようにあります。
吾聞大恩不報,大功不還
(大きな恩には報いがなく、大きな功には見返りがないと聞いている。)
『呉越春秋』では、越のために大きな功績を立てた文種が、それに報いてもらえないことを恨む言葉として使われています。
使い方・例文
「大恩は報ぜず」は、親や恩師などから受けた大きな恩ほど当たり前になり、感謝や恩返しを忘れがちだという反省や戒めを述べる場面で使われます。
例文
- 友人に借りた本はすぐ返すのに、育ててくれた両親には礼の一つも言っていない。大恩は報ぜずとはこのことだ。
- 毎朝弁当を作ってくれた母に感謝したことがなかったのは、まさに大恩は報ぜずだった。
- 大恩は報ぜずで、長年指導してくれた恩師のありがたさに、卒業してから気づいた。
誤用・注意点
「大恩は報ぜず」を、「大きな恩は返しきれないほどありがたい」という感謝の言葉として使うのは、本来の意味とは異なります。
このことわざが言うのは、大きすぎる恩にはかえって気づかず、報いようともしないという人の心の傾向です。
また、「大きな恩は返さなくてよい」と報いないことを勧める言葉でもありません。
大きな恩を見落としがちな人の心を指摘した言葉です。
類義語・関連語
「大恩は報ぜず」と似た意味を持つ言葉や、関連する言葉には、以下のようなものがあります。
- 大恩不報(だいおんふほう):
「大恩は報ぜず」を漢語の四字で書いた形。 - 忘恩負義(ぼうおんふぎ):
受けた恩を忘れ、人としての道義に背くこと。 - 恩を仇で返す(おんをあだでかえす):
恩を受けた相手に対して、感謝するどころか害を与えること。
対義語
「大恩は報ぜず」とは対照的に、受けた恩を忘れずにありがたく思う姿勢を表す言葉には、以下のようなものがあります。
- 知恩報恩(ちおんほうおん):
受けた恩を忘れず、それに応えるべく努力すること。 - 恩にきる(おんにきる):
相手の好意をありがたく受け止め、決して忘れないようにすること。
英語表現
「大恩は報ぜず」に近い英語表現には、受けた恩や身近なもののありがたみを忘れることを言う、次のようなものがあります。
Eaten bread is soon forgotten
直訳は「食べたパンはすぐに忘れられる」。
受けた親切や恩は、受けた側にすぐ忘れられてしまうという意味の、アイルランドで使われることわざ。
He never once thanked the teacher who got him into college. Eaten bread is soon forgotten.
(彼は大学に入れてくれた先生に一度も礼を言わなかった。受けた恩はすぐ忘れられるものだ。)
take … for granted
「〜を当たり前と思う」。
慣れ親しんだ人や物のありがたみを感じず、その価値を低く見ることを表す表現。
Children often take their parents’ care for granted.
(子どもは親に世話をしてもらうことを当たり前だと思いがちだ。)
大恩は報ぜずとは逆に、漂母に千金で報いた韓信
「大恩は報ぜず」とは反対に、若い頃に受けた恩を忘れずに報いた話として、漢の三傑の一人である韓信と、漂母と呼ばれる洗濯女の逸話があります。
飢えに苦しむ若き韓信を見かねて、彼女は数十日にわたり食事を分け与えました。
韓信は感動し、「将来必ずあなたに報います」と言いますが、彼女は怒って「一人前の男が自分で食べていけないのを気の毒に思って食べさせただけで、見返りなど望んでいない」と言いました。
『史記』淮陰侯列伝には、のちに王となった韓信がこの漂母を召して千金を与えたと記されています。










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