騎虎の勢い

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故事成語
騎虎の勢い
(きこのいきおい)

7文字の言葉き・ぎ」から始まる言葉
騎虎の勢い 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

趣味で始めたDIYが思いのほか大掛かりになり、家の中が資材だらけになってしまったとき。
あるいは、軽い気持ちで引き受けたボランティア活動の規模がどんどん膨らみ、もはや自分の手に余る状態になったとき。
引き返したくても、今さら中断すればこれまでの努力が水の泡になるばかりか、周囲に多大な迷惑をかけてしまう。
そんな、一度始めた以上は最後までやり遂げるしかない、引き返せない切迫した状況を、
「騎虎の勢い」(きこのいきおい)と言います。

意味・教訓

「騎虎の勢い」とは、物事の勢いが激しく、途中でやめるにやめられない状態のことです。

飢えた虎の背に乗って走っている者は、もし途中で降りれば虎に食い殺されてしまいます。
どれほど恐ろしくても、虎が走り疲れて止まるまで乗り続けるしかありません。
このことから、一度始めた以上は最後までやり通すしかない、差し迫った状況や決死の覚悟を意味するようになりました。

「騎虎の勢い」を構成する言葉の意味は以下の通りです。

  • 騎虎(きこ):虎の背に乗ること。
  • 勢い(いきおい):物事の進む力、勢力。

語源・由来

「騎虎の勢い」の由来は、中国の歴史書『隋書(ずいしょ)』の「独孤皇后伝」に記された逸話に基づいています。

北周(ほくしゅう)の実力者であった楊堅(ようけん)が、皇帝の座を奪おうか迷っていた時のことです。
決断を下せない彼に対し、妻の独孤(どっこ)氏は「大事はすでに始まっています。今の状況は、まさに虎の背に乗っているようなもので、途中で降りることはできません。
もし降りれば殺されるだけですから、そのまま進むしかありません」と激しく鼓舞しました。

この言葉に決意を固めた楊堅は、ついに隋の初代皇帝(文帝)となりました。
「誰が・虎の背に乗って・進むしかないと決断したか」という歴史的な転換点が、この言葉のルーツです。

使い方・例文

「騎虎の勢い」は、単に勢いが良いだけでなく、「後に引けない」「中止すれば大きな損失や危険がある」という切迫したニュアンスを含めて使われます。

家庭での模様替えや、学校行事の準備など、一度動き出したら最後まで完遂するしかない場面で用いられます。

例文

  • 友人たちとキャンプの計画を立て始めたら、いつの間にか参加者が30名を超え、もはや「騎虎の勢い」で準備を進めるしかない。
  • クラスの出し物で巨大な模型を作ることになったが、材料を揃えてしまった以上、「騎虎の勢い」で完成させる必要がある。
  • 会議で一度承認された大規模プロジェクトは、「騎虎の勢い」で実行に移され、もはや誰にも止められなかった。

文学作品・メディアでの使用例

山崎豊子の小説『沈まぬ太陽』において、組織の不条理に立ち向かう緊迫したシーンでこの言葉が使われています。

『沈まぬ太陽』(山崎豊子)

国民航空の組合活動において、一度動き出した流れを止めることができず、突き進むしかない主人公たちの状況を描写する場面で登場します。

「今や騎虎の勢いだ。ここで手を緩めるわけにはいかない」

誤用・注意点

「騎虎の勢い」と混同されやすい言葉に「破竹の勢い」があります。

「破竹の勢い」は、竹を割る時のように、猛烈な勢いで勝ち進むというポジティブな成功体験に使われます。
一方、「騎虎の勢い」には、「やめたくてもやめられない」「引き返すと危ない」という「切迫感」や「リスク」が含まれます。

単に「絶好調だ」という意味で使うと、文脈によっては「追い詰められて無理をしている」と誤解される可能性があるため、使い分けに注意しましょう。

類義語・関連語

「騎虎の勢い」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 乗り掛かった舟(のりかかったふね):
    物事を始めてしまった以上、途中でやめるわけにはいかない状況。
  • 賽は投げられた(さいはなげられた):
    重大な決断を下し、もはや後戻りができない段階に入ったこと。 「騎虎の勢い」は進行中の「勢い」に注目しますが、こちらは「決断の瞬間」を指す違いがあります。
  • 毒を食らわば皿まで(どくをくらわばさらまで):
    一度悪いことに手を出した、あるいは関わってしまったからには、最後までやり通すしかないという覚悟。

対義語

「騎虎の勢い」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 雲散霧消(うんさんむしょう):
    物事の勢いや形が、跡形もなく消えてなくなること。
  • 尻すぼみ
    最初は勢いが良かったものが、終わりになるにつれて弱まっていくこと。

英語表現

「騎虎の勢い」を英語で表現する場合、以下のフレーズが最もニュアンスを近く伝えます。

He who rides a tiger is afraid to dismount

  • 意味:「虎に乗る者は、降りるのを恐れる」
  • 解説:まさに「騎虎の勢い」の由来となった中国のことわざがそのまま英語圏でも使われています。一度始めた危険な物事を、やめるにやめられない状況を指します。
  • 例文:
    Our company started this aggressive expansion, but now he who rides a tiger is afraid to dismount.
    (わが社は強引な拡大を始めたが、今や騎虎の勢いで、後に引けなくなっている)

Have a tiger by the tail

  • 意味:「手に負えない、非常に困難な状況に直面している」
  • 解説:虎の尻尾を掴んでいる状況を指し、手を離せば噛みつかれるため、制御し続けなければならない切迫した状態を表現します。
  • 例文:
    When she agreed to lead the committee, she didn’t realize she would have a tiger by the tail.
    (彼女は委員会を引き受けた時、それが騎虎の勢いでやめられなくなるとは思ってもみなかった)

由来の背景:独孤皇后の度胸

「騎虎の勢い」の誕生には、楊堅の妻である独孤氏の並外れた度胸が関わっています。
当時の中国は政情が不安定で、謀反に失敗すれば一族が処刑される過酷な時代でした。

楊堅がためらっていたのは、単なる臆病からではなく、家族の命を背負っていたからです。
その不安を「虎に乗っているのだから、降りれば死ぬだけだ」という極限の比喩で突き崩し、建国へと導いた独孤氏の言葉は、現代でも語り継がれるほどの力強さを持っています。
言葉の背景には、生死をかけた壮絶な覚悟が隠されていると言えるでしょう。

まとめ

「騎虎の勢い」は、後に引けない緊張感と、それを乗り越えようとする強い推進力を表す言葉です。

生活の中で、自分の意思とは関係なく「進むしかない」という状況が訪れることがあります。
そんな時、この言葉を思い浮かべることで、迷いを捨てて目の前の物事に集中できるかもしれません。

後戻りができないことを嘆くのではなく、虎の背を乗りこなすような覚悟を持って挑む。
その姿勢こそが、新しい道を切り拓く原動力になることでしょう。

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