親切心からアドバイスをしたつもりなのに、相手が急にムスッとしてしまったり、正しいことを伝えたはずが、なぜか周囲の空気を悪くしてしまったりする。
そんな時、私たちの心には釈然としない思いが残るものです。
しかし、同じ内容であっても、伝え方一つで相手の受け取り方は劇的に変わります。
人間関係において、言葉の「質」と同じくらい「形」が重要であることを、
「物も言いようで角が立つ」(ものもいいようでかどがたつ)という言葉は鋭く指摘しています。
意味・教訓
「物も言いようで角が立つ」とは、たとえ言っている内容が正しくても、言い方しだいで相手を不快にさせ、対立が生じてしまうという意味の言葉です。
「角が立つ」とは、本来なら丸く収まるはずの人間関係に、トゲトゲとした鋭い角ができてしまい、穏やかでなくなる様子を指します。
自分の意見を通すことばかりに集中し、相手への配慮を欠いた表現を選んでしまうと、本来伝わるべき本意すら届かなくなるという教訓を含んでいます。
語源・由来
「物も言いようで角が立つ」は、特定の古典や故事に由来を持つものではなく、日本人が日々の暮らしの中で培ってきた対人関係の知恵から生まれた言葉です。
「物(話す内容)」は「言いよう(表現の仕方)」によって、毒にも薬にもなるという観察が背景にあります。
「角(かど)」は、円満な人間関係の象徴である「丸」の対照として使われており、心が尖り、ぶつかり合う様子を視覚的に表現したものです。
江戸時代以降の文献にも、言い方一つで人間関係が変わることを嘆く描写が多く見られ、庶民の処世術として広く定着していきました。
使い方・例文
伝えにくいことを言う際や、デリケートな話題に触れる時の注意を促す言葉として使われます。
特に「自分は正しいことを言っている」という慢心がある時ほど、この言葉を思い出す必要があります。
例文
- 友人の遅刻を注意する時も、「いつも遅い」と責めるのではなく、「物も言いようで角が立つ」から「心配したよ」と伝えるようにしている。
- 「その料理は味が薄い」と断定するのではなく、「物も言いようで角が立つ」ことを意識して「もう少し塩気があれば私好みかな」と提案した。
- 会議で反対意見を述べる際、頭ごなしに否定しては「物も言いようで角が立つ」ため、まずは相手の意見を肯定してから自分の案を話した。
誤用・注意点
この言葉を相手に直接向ける際は、注意が必要です。
誰かが失言をして場が凍りついた時に、「『物も言いようで角が立つ』ですよ」とたしなめるのは、その相手をさらに非難することになり、それ自体が「角を立てる」行為になりかねません。
基本的には自分自身の振る舞いを振り返る「自戒」として用いるか、第三者が状況を客観的に評する際に使うのが、この言葉を最もスマートに活用する方法です。
類義語・関連語
「物も言いようで角が立つ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 口は災いの元(くちはわざわいのもと):
うかつに発した言葉が、自分自身に災難を招く原因になるという戒め。 - 言葉は刃物(ことばはやいもの):
言葉の選び方を間違えると、刃物のように鋭く相手の心を傷つけてしまうというたとえ。 - 売り言葉に買い言葉(うりことばにかいことば):
相手の挑発的な言い方に対し、こちらも感情的な言葉で応酬し、争いが激化すること。 - 阿吽の呼吸(あうんのこきゅう):
直接的な言葉を尽くさずとも通じ合う様子。言い方に腐心する必要がないほど親密な関係を指します。
対義語
「物も言いようで角が立つ」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 物は言いよう(ものはいいよう):
「物も言いようで角が立つ」の反対で、言い方しだいで角を立てずに丸く収めることができる、というポジティブな側面を強調した言葉。 - 一言人を動かす(いちごんひとをうごかす):
たった一言の適切な言葉が、人の心を深く動かし、事態を好転させる大きな力になること。
英語表現
「物も言いようで角が立つ」を英語で表現する場合、以下の表現がニュアンスとして近いです。
It’s not what you say, but how you say it.
- 意味:「何を言うかではなく、どう言うかが重要だ」
- 解説:日本語の「物も言いよう」の核心部分をそのまま表現したフレーズです。
- 例文:
Remember, it’s not what you say, but how you say it.
(いいかい、何を言うかより、どう言うかが大切なんだよ。)
A soft answer turns away wrath.
- 意味:「柔らかい返事は憤りをそらす」
- 解説:聖書に由来する格言で、穏やかな言い方が相手の怒りを静め、衝突を避けることを教えています。
- 例文:
He gave a soft answer, which turned away wrath.
(彼は穏やかに答えることで、相手の怒りをうまくかわした。)
円満な関係を保つ豆知識
「角を立てない」ためのコミュニケーション技術として、現代では「クッション言葉」が多用されます。
「恐れ入りますが」「差し支えなければ」といった言葉を添えるだけで、後に続く言葉の鋭さが和らぎます。
また、心理学の分野では「I(アイ)メッセージ」という手法が推奨されます。
「(あなたは)なぜやらないの?」と相手を主語にして責めるのではなく、「(私は)やってくれると助かるな」と自分の気持ちを主語にすることで、相手の反発を抑えつつ、意図を正確に伝えることができます。
これらはまさに、現代版の「物も言いようで角を立てない」ための知恵と言えるでしょう。
まとめ
「物も言いようで角が立つ」は、私たちが日常でつい忘れがちな「伝え方の重み」を思い出させてくれる言葉です。
正しいことを言えば、相手は納得するはずだ――。
そうした思い込みが、時に最も身近な人を傷つけ、関係をギクシャクさせてしまうこともあります。
言葉を放つ前に一呼吸置き、相手の立場に立って表現を選び直す。
そんな小さな配慮の積み重ねが、鋭い角を削り、人間関係をより豊かで丸いものへと変えていくことでしょう。





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