「あの二人は、まるで阿吽の呼吸だね」といった表現を耳にしたことはありませんか?
スポーツの連携プレーや、長年の夫婦、息の合った漫才コンビなどを見て、感心するような場面で使われる言葉です。
この「阿吽の呼吸」とは、一体どのような意味で、どこから来た言葉なのでしょうか。その意味や語源、使い方、類義語、英語表現などを分かりやすく解説します。
「阿吽の呼吸」の意味・教訓
「阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)」とは、二人以上(多くは二人)の人が何かを一緒に行うとき、言葉を交わさなくても、お互いの気持ちや次の行動がぴったりと一致することを意味する慣用句です。
まるで一緒に呼吸をしているかのように、タイミングや調子が完全に合っている状態を指します。お互いへの深い理解や信頼関係がなければ成り立たない、絶妙な連携や一体感を示す言葉です。
「阿吽の呼吸」の語源
「阿吽(あうん)」は、仏教(特に密教)に由来する言葉です。
- 阿(あ):サンスクリット語(梵語)の最初の文字(अ, a)の音写で、口を開いて発する最初の音。宇宙の始まりや、万物が生まれる根源を象徴します。
- 吽(うん):サンスクリット語の最後の文字(हूँ, hūṃ)の音写で、口を閉じて発する最後の音。宇宙の終わりや、すべてが帰着する知恵を象徴します。
この「阿」と「吽」で、宇宙の始まりから終わりまで、つまり森羅万象すべてを表すとされています。
また、寺院の山門にある仁王像(金剛力士像)は、一体が口を開けた「阿形(あぎょう)」、もう一体が口を閉じた「吽形(うんぎょう)」の対になっています。
この二体の像が、息を吸う(吽)と吐く(阿)ように対になっている様子から、二者の息がぴったり合うことを「阿吽の呼吸」と呼ぶようになったとされています。


「阿吽の呼吸」の使い方と例文
現代では、スポーツのチームプレー、仕事のパートナー、長年の友人や夫婦関係など、複数の人が関わる様々な場面で、その見事な連携や調和を称賛する(褒め言葉の)文脈で使われます。
例文
- 「あの二人のダブルスは、長年の練習で培った阿吽の呼吸で相手を圧倒した。」
- 「ベテランの職人同士が、阿吽の呼吸で複雑な作業を次々とこなしていく。」
- 「彼と彼女は、どちらが何を言うか、阿吽の呼吸で分かっているようだった。」
- 「私たちは阿吽の呼吸で役割分担し、プレゼンテーションを成功させた。」
類義語・関連語
「阿吽の呼吸」と似た意味や、関連する言葉を紹介します。
- 以心伝心(いしんでんしん):
言葉にしなくても、お互いの気持ちや考えが通じ合うこと。「阿吽の呼吸」が行動やタイミングの一致を指すのに対し、「以心伝心」は主に心(気持ち・考え)が通じ合う点を強調します。 - ツーカーの仲(つうかあのなか):
「つう」と言えば「かあ」と応えるように、互いの気持ちがよく分かり合える間柄のこと。非常に親しく、理解し合っている関係を指します。 - 息が合う(いきがあう):
一緒に物事を行うとき、互いの気持ちや調子がぴったり合うこと。「阿吽の呼吸」とほぼ同じ意味で使われます。 - 馬が合う(うまがあう):
相手と気性や考え方がぴったり合って、うまくやっていけること。関係性の良さや相性の良さを指します。 - 不言実行(ふげんじっこう):
言うべきことを言わず、黙ってなすべきことを実行すること。連携を意味する「阿吽の呼吸」とは異なりますが、言葉に頼らない点では関連します。
対義語
「阿吽の呼吸」とは反対に、息が合わない、気持ちが通じない状態を示す言葉です。
- ちぐはぐ:
物事がうまく噛み合わず、食い違っているさま。行動や意見が揃わない様子。 - そりが合わない:
気性や考え方が合わず、うまくいかないこと。(「馬が合わない」と類義) - 同床異夢(どうしょういむ):
同じ寝床に寝ていても、それぞれ違う夢を見ていること。同じ立場や行動をとりながら、内面では考えや目的が異なることのたとえ。 - 呉越同舟(ごえつどうしゅう):
仲の悪い者同士(呉の人と越の人)が、同じ舟に乗り合わせること。対立しながらも、共通の困難や利害のために一時的に協力する状況。
英語での類似表現
「阿吽の呼吸」の「言葉なくして通じ合う絶妙なタイミング」というニュアンスを直接表す完璧な一語はありませんが、文脈によって以下のような表現が使えます。
(be) on the same wavelength
- 意味:「(考え方や感じ方が)同じ波長に乗っている、気が合う」
- 解説:お互いの考え方や感じ方が非常に似ている、またはよく理解し合えている状態を指します。「阿吽の呼吸」の前提となる「分かり合っている状態」を表すのに近いです。
- 例文:
My partner and I are completely on the same wavelength about this project.
(私とパートナーは、このプロジェクトに関して完全に阿吽の呼吸だ(=考えが一致している)。)
have great chemistry
- 意味:「素晴らしい相性(化学反応)がある」
- 解説:”chemistry”は、人と人との間の「相性」や「(良い)化学反応」を意味します。二人が一緒にいると、何か特別な、うまくいく雰囲気が生まれる様子を表し、息が合っている状態を示唆します。
- 例文:
The two actors have great chemistry on screen.
(あの二人の俳優は、スクリーン上で息がぴったり合っている。)
read each other’s minds
- 意味:「お互いの心を読み合う」
- 解説:言葉にしなくても相手が何を考えているか分かる、という状況を文字通りに表現したものです。「以心伝心」にも近い表現です。
- 例文:
They work so well together, it’s like they can read each other’s minds.
(彼らはとてもうまく連携していて、まるでお互いの心を読めるかのようだ。)
まとめ – 阿吽の呼吸から学ぶ知恵
「阿吽の呼吸」は、単にタイミングが合うことだけでなく、その背景にある深い相互理解と信頼関係の存在を示す、美しい日本語表現です。
この言葉は、仏教の宇宙観から始まり、寺院の仁王像の姿を経て、現代ではスポーツや仕事、日常の人間関係における理想的な連携の姿を表すようになりました。言葉を超えて通じ合える関係性は、一朝一夕には築けませんが、日々のコミュニケーションと相手への配慮を積み重ねることで育まれていくものですね。





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