「なぜ、彼はあの人の嘘にすぐ気づいたのだろう?」
「どうしてそんな業界の裏事情まで知っているの?」と、不思議に思ったことはありませんか?
同じ世界に住む者同士だからこそ、言葉にしなくても相手の考えや行動パターンが手に取るように分かる。
そんな状況を的確に表すのが「蛇の道は蛇」という言葉です。
一見すると不思議なこの言葉が、なぜ「事情通」を意味するようになったのか。
その由来や、使う際に気をつけたい「あるニュアンス」について解説します。
「蛇の道は蛇」の意味
同類の者がすることは、その仲間なら容易に推測できるということです。
専門家、同業者、あるいは特定の趣味や悪事に関わる仲間など、同じ「道(社会・環境)」に生きる者同士であれば、部外者には見えない事情や心理が直感的に分かる様子を指します。
- 蛇(じゃ):大蛇(だいじゃ)、または蛇(へび)のこと。
- 道(みち):通り道、あるいはその世界のやり方。
基本的には「専門家は専門家に詳しい」という意味ですが、現代では悪事や裏社会の事情に通じている場合や、ずる賢い立ち回りを見抜くような、ややネガティブな文脈で使われることが多いのが特徴です。
「蛇の道は蛇」の語源・由来
この言葉は、蛇の生態と、草むらを這う様子から生まれた比喩表現です。
蛇が草むらや藪(やぶ)の中を這って進むとき、足跡が残るわけではなく、人間にはどこを通ったのか判別できません。
しかし、同じ蛇であれば、仲間がどのようなルートを選び、どこに隠れているかを本能的に悟ることができます。
このことから、「その道のことは、その道に住む者が一番よく知っている」という教訓として定着しました。
もともとは「蛇(じゃ)の道は蛇(へび)が知る」という形でしたが、後半が省略されて現在の形になりました。
江戸時代の浄瑠璃『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』などにもこの言葉が登場しており、古くから人々の間で使われていたことが分かります。
「蛇の道は蛇」の使い方・例文
ビジネスシーンでの専門的なやり取りから、ミステリードラマのような駆け引きまで、幅広く使われます。
例文
- 「犯人の逃走ルートを警察が即座に特定したらしい。さすが元刑事の探偵だ、蛇の道は蛇だな。」
- 「競合他社が次にどんな手を打ってくるか、彼にはお見通しのようだ。蛇の道は蛇と言うべきか、恐ろしい男だ。」
- 「複雑な業界のルールを一瞬で理解するなんて、やはり蛇の道は蛇ですね。」
文学作品での使用例
蛇の道は蛇ぢやといふが、推量通り
(近松門左衛門『心中天網島』より)
これは江戸時代の浄瑠璃の一節です。相手の心理や行動を「推量(推測)通り」に見抜いた場面で使われており、当時から現代と同じようなニュアンスで用いられていたことが分かります。
「蛇の道は蛇」の誤用・使用上の注意点
この言葉を使用する際は、相手への敬意を損なわないよう注意が必要です。
- 褒め言葉として使う際は慎重に
「その道のプロ」という意味ではありますが、前述の通り「悪党」「ずる賢い」「裏事情に通じている」といったネガティブなニュアンスを含むことが多い言葉です。
目上の人や、純粋な技術者を称賛するつもりで「さすが、蛇の道は蛇ですね!」と言うと、「自分を悪賢いと思っているのか?」と不快にさせたり、皮肉と受け取られたりするリスクがあります。 純粋にスキルを褒めたい場合は、後述する「餅は餅屋」を使うのが無難です。
「蛇の道は蛇」の類義語・関連語
専門家や同類に関する言葉を紹介します。
- 餅は餅屋(もちはもちや):
その道のことは、やはり専門家が一番上手であること。
「蛇の道は蛇」とは異なり、純粋に技術や知識を称賛するポジティブな意味で使われます。 - 同気相求む(どうきあいもとむ):
性質や考えの同じ者は、自然と寄り集まること。いわゆる「類は友を呼ぶ」に近い表現です。 - 牛は牛連れ、馬は馬連れ(うしはうしづれ、うまはうまづれ):
同類の者は自然と集まり、似た者同士で行動するものだということ。
「蛇の道は蛇」の英語表現
英語にも、この言葉の「同類(特に悪人)は同類を知る」というニュアンスを含んだことわざが存在します。
Set a thief to catch a thief
- 直訳:泥棒を捕まえるには泥棒を据えろ(雇え)。
- 意味:「蛇の道は蛇」
- 解説:悪人の手口や逃走ルートは、同じ悪人が一番よく知っている、という「毒をもって毒を制す」に近いニュアンスの表現です。
- 例文:
To find out who stole the jewelry, we should hire a former burglar. Set a thief to catch a thief.
(宝石を盗んだ犯人を見つけるには、元空き巣を雇うべきだ。蛇の道は蛇と言うだろう。)
It takes one to know one
- 意味:「お互い様だ」「同類だから分かるんだ」
- 解説:相手の欠点や嘘を指摘した際に、「あなただってそうでしょう(だから私のことが分かるんでしょう)」と返す時によく使われる決まり文句です。
「蛇の道は蛇」に関する豆知識
「蛇」の読み方はなぜ「ジャ」なのか?
現代では「ヘビ」と読むのが一般的ですが、このことわざでは「ジャ」と読みます。
これは、仏教用語や古い言葉において、大蛇や龍のような霊的な力を持つ存在を「蛇(じゃ)」と呼んでいた名残です。
「邪(じゃ)」に通じる音であることから、恐ろしいものや、人間の力が及ばない怪しい存在というイメージが付与されています。
生物学的な「蛇の道」
実際の蛇は、仲間が通った道を「フェロモン」で感知することができます。
特に繁殖期には、オスがメスの出したフェロモンの跡(道)を正確に辿ることが知られています。
昔の人はフェロモンの存在を知りませんでしたが、「なぜか通った跡が分かる」という鋭い観察眼は、科学的にも正しかったと言えるでしょう。
まとめ
「蛇の道は蛇」は、同じ世界に住む者だけが持つ、言葉を超えた共感や洞察力を表す言葉です。
裏を返せば、私たちは自分の知らない世界のことを、完全には理解できないということでもあります。
プロフェッショナルの意見に耳を傾けたり、逆に「相手も自分と同じように考えているはずだ」という思い込みを捨てたりする際に、この言葉の教訓が役に立つでしょう。







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