「あの人との付き合いは、結局のところ損得勘定だな」と感じてしまうような人間関係に、虚しさを覚えたことはありませんか。
「市道之交(しどうのまじわり)」とは、まさにそのような、利益や損得だけで結びついている、うわべだけの浅い交友関係を指す言葉です。
「市道之交」の意味・教訓
「市道之交」とは、市場(しじょう)での商取引(=市道)のような、利害関係や損得勘定だけで成り立つ付き合いを意味します。
「市」は市場、「道」は方法ややり方を指し、「市道」で市場でのやり取り、つまり商売上の付き合いを意味します。
心が通い合っているわけではなく、自分に利益がある間は親しくするが、利益がなくなればすぐに離れていくような、希薄(きはく)で冷たい人間関係を批判的、あるいは客観的に表す言葉です。
「市道之交」の語源
この言葉は、中国・前漢の歴史家である司馬遷(しばせん)が著した歴史書『史記(しき)』の「汲鄭列伝(きゅうていれつでん)」に由来します。
汲黯(きゅうあん)と鄭当時(ていとうじ)は、どちらも漢の武帝に仕えた高官でした。
汲黯は厳格な人物で、彼が職を失うと訪問客は途絶えましたが、彼が再び高い地位に就くと客が戻ってきました。
一方、鄭当時は地位が高かった頃は客で溢れかえっていましたが、職を失うと誰も訪ねてこなくなりました。
司馬遷は、この二人(特に鄭当時)のもとに集まる人々は、その権力や利益目当てであったと評し、「(彼らのような賢者の交友まで)市場の商売のような(損得勘定の)付き合いとみなすべきだろうか」と嘆きました。
この「市道に附す(ふす)」という表現から、「市道之交」という言葉が生まれました。
「市道之交」の使い方と例文
現代でも、ビジネスライクな付き合いや、権力・財産・地位など、相手が持つ「メリット」だけを目的とした人間関係を指して、やや軽蔑的・批判的なニュアンスで使われます。
例文
- 「彼らの関係は市道之交に過ぎず、彼の会社が倒産した途端、誰もいなくなった。」
- 「SNSでの「いいね」の数だけで繋がる関係は、現代版の市道之交かもしれない。」
- 「私は市道之交ではなく、損得抜きで付き合える真の友人を見つけたい。」
類義語・関連語
- 権勢の交わり(けんせいのまじわり):
相手の権力や財産、勢いを目当てに結びつく、うわべだけの交友関係。 - 点頭の交わり(てんとうのまじわり):
会えば頷(うなず)く程度の、表面的な浅い付き合い。
対義語
「市道之交」の対極には、利害を超えた真の友情を表す多くの言葉があります。
- 管鮑の交わり(かんぽうのまじわり):
互いを深く理解し信頼し合う、親密な友情のたとえ。 - 刎頸の交わり(ふんけいのまじわり):
お互いのためなら首を刎ねられても悔いはないというほどの、固い友情。 - 水魚の交わり(すいぎょのまじわり):
水と魚のように、切り離せないほど親密な関係のたとえ。 - 知音(ちいん):
自分の心を深く理解してくれる、無二の親友。 - 膠漆の交わり(こうしつのまじわり):
膠と漆のように、非常に固く結びついて離れない親密な友情。
英語での類似表現
A fair-weather friend
- 意味:「良い天気の時だけの友人」
- 解説:自分が順調な時(良い天気)にはそばにいるが、困難な状況(悪い天気)になると離れていく、都合のいい友人を指します。「市道之交」の「利益がある時だけ」というニュアンスと非常に近いです。
- 例文:
He turned out to be just a fair-weather friend when I lost my job.
(私が職を失ったとき、彼は結局ただの都合のいい友人だったことがわかった。)
A relationship of convenience
- 意味:「都合のよい関係、利害関係」
- 解説:恋愛関係(政略結婚など)やビジネスにおいて、愛情や友情ではなく、お互いの利益や都合のために維持されている関係を指します。
- 例文:
Their partnership was clearly a relationship of convenience.
(彼らのパートナーシップは、明らかに利害関係だった。)
まとめ – 市道之交と真の友情
「市道之交」は、市場での取引のように、損得勘定だけで成り立つ冷たく浅い人間関係を指す故事成語です。
『史記』の時代から現代に至るまで、人は権力や利益に集まりやすいものです。
しかし、そのような関係が虚しいこともまた、古くから知られています。
「市道之交」という言葉は、私たちに「管鮑の交わり」や「知音」のような、利害を超えた真の友情の価値を改めて問いかけているのかもしれません。



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