二字熟語 故事成語

知音

(ちいん)

互いによく心を知り合った親友。転じて、知り合いや恋人。


3文字の言葉 / 「ち・ぢ」から始まる言葉
知音 ことば
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意味

「知音(ちいん)」とは、文字通り「音を知る」と書く言葉で、単なる遊び友達や同僚といった関係を超えた、精神的な深いつながりを持つ「真の理解者」のことです。
転じて、広く友人・知り合いや、恋人・なじみの相手を指すこともあります。

語源・由来

「知音」の由来は、中国の古い書物『列子』や『呂氏春秋りょししゅんじゅう』に記された、琴きんの名手・伯牙はくがと、その友人・鍾子期しょうしきの物語にあります。

春秋時代、琴の名人であった伯牙には、鍾子期という、彼の奏でる音の真意を完璧に理解する友人がいました。
伯牙が高い山を思い浮かべて琴を弾くと、鍾子期は「素晴らしい。まるで泰山たいざんのようだ」と感嘆し、川の流れを思って弾くと、「素晴らしい。まるで長江や黄河のようだ」と答えました。

伯牙の心の動きを、鍾子期は音を聞くだけで正確に言い当てました。
このことから、「音を知る者」すなわち「知音」が、自分の心を理解してくれる親友を指す言葉となりました。

なお『呂氏春秋』によれば、鍾子期が亡くなると、伯牙は世に琴を聴かせるに足る者はもういないと考え、琴を壊し弦を断って生涯二度と弾かなかったといいます。
この故事は「伯牙絶弦はくがぜつげん」とも呼ばれ、「絶弦」だけでも親しい人との死別を表します。

黒く細長い木の胴に7本の弦を張り、表に白い丸い印が並ぶ中国の古琴
古琴(中国・明代、1634年)。弦は7本で、日本の箏のような琴柱(ことじ)は立てない

「知音」と「知己」の違い

「知音」とよく似た言葉に、「知己ちき」があります。
どちらも「自分を理解してくれる人」という原義を持ちますが、現代では使われ方に違いがあります。

語句原義ニュアンス現代での使用
知音
(ちいん)
音(心)を知る人芸術的・精神的な魂の共鳴、感性の一致まれで文学的。主に唯一無二の親友を指すが、転じて友人・知り合いや恋人の意味もある
知己
(ちき)
己(自分)の価値を知る人本来は自分の真価を認めてくれる友。今は知り合いの意味でも広く使う一般的で、知人・知り合いも含む

「知音」は「心の共鳴」

「知音」は由来の通り、言葉を交わさずとも感性が通じ合うような、極めて精神性の高い関係を指します。

「知己」は「知り合い」も含む

「知己」も本来は「自分の真価を認めてくれる親友」という意味ですが、
現代では「知己を得る(知り合いになる)」のように、単なる「知人・知り合い」という意味でビジネスや挨拶状でも頻繁に使われます。

使い分けのポイント

  • 魂が通じ合う唯一無二の友なら → 「知音」
  • お世話になっている知り合いや、人脈としての関係なら → 「知己」

使い方・例文

「知音」は、日常のカジュアルな会話で使われることは少なく、手紙や文章、あるいは改まった挨拶などで用いられる、文学的で上品な言葉です。

例文

  • 新しい曲を一度聴いただけで、何を描きたかったのかを言い当てた彼こそ、私の知音だ。
  • 長年の知音だけに、手紙の短い一言から私の迷いを察してくれた。
  • 多くの知人に囲まれていても、心の底から通じ合える知音と呼べる人は少ない。
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誤用・注意点

読み方に注意

「ちおと」ではなく、「ちいん」と読みます。

「知音」と「知人」の違い

音が似ていますが、「知音」の中心の意味は心の通じ合った親友で、単なる顔見知りを指す「知人」とは違います。

「断琴の交わり」について

「知音」の故事(琴を断つ)に由来する「断琴だんきんの交わり」という言葉もあり、心の通い合った深い友情を表します。
『易経』由来の「断金だんきんの交わり」(金属を断ち切るほど固い絆)とは読みが同じで、字が違います。

類義語・関連語

「知音」と似た意味を持つ言葉には、中国の故事に由来する重厚な表現が多くあります。

  • 伯牙絶弦(はくがぜつげん):
    「知音」の由来となった故事そのもの。
  • 高山流水(こうざんりゅうすい):
    伯牙の琴の音を、鍾子期が「高い山、流れる川」と評したことに由来。妙なる音楽、または「知音」のこと。
  • 水魚の交わり(すいぎょのまじわり):
    水と魚のように、離れることができない親密な間柄。劉備と諸葛亮の関係に例えられる。
  • 管鮑の交わり(かんぽうのまじわり):
    互いに理解し合い、利害を超えて信じ合う極めて親密な友情。管仲と鮑叔の故事より。
  • 莫逆の友(ばくぎゃくのとも):
    互いに逆らうことなく、意気投合した親友のこと。「莫逆の交わり」とも言う。

英語表現

「知音」を英語で表現する場合、単なる friend よりも深い絆を表す言葉を用います。

bosom friend

直訳は「胸の友」で、bosom は「胸」「ふところ」の意。
胸の内を明かせる親密な友人を指す表現。

He is my bosom friend.
(彼は私の知音だ。)

soulmate

直訳は「魂の伴侶」「心の通じ合う人」で、異性のパートナーに使われることも多いが、性別に関係なく魂レベルで理解し合える相手を指す表現。

『呂氏春秋』で賢者の話に続く「知音」の故事

伯牙と鍾子期の話は、『列子』の湯問とうもん篇と『呂氏春秋』の本味ほんみ篇に出てきます。
今の形の『列子』は魏晋(=3〜4世紀ごろ)にまとまったとする見方が有力で、紀元前3世紀に秦の呂不韋りょふいが編ませた『呂氏春秋』のほうが古い書物です。

その『呂氏春秋』は、伯牙が琴を壊して弦を断った話のすぐ後に、「琴だけがそうなのではない。賢者もまた同じだ」と続けます。
賢者がいても礼をもって迎えなければ、力を尽くしてはくれない。
御者の腕が悪ければ名馬も千里を走らない、というたとえで結んでいます。

今は友情の話として知られる「知音」の故事ですが、古いほうの書物では、友の話のすぐ後に、賢者をどう迎えるかという教えが続いていたわけです。

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