将棋や囲碁の対局で、次の手が決まらずに盤面をじっと見つめ続ける。
傍目には真剣そのものに見えますが、頭の中がこんがらがっているだけで、実は何も進んでいない……。
「下手の考え休むに似たり」は、そんな報われない努力や時間の浪費を、少しシニカルに、しかし的確に表現したことわざです。
「下手の考え休むに似たり」の意味
「下手の考え休むに似たり」とは、技術や知恵の未熟な者が、いくら時間をかけて考え込んでも良い案は浮かばず、それは休んでいる(何もしていない)のと同じことであるという意味です。
「時間をかければ良い結果が出る」という考えを否定し、基礎能力や知識がない状態での「悩み」は「無駄」であると断じる、厳しい教訓を含んでいます。
- 下手(へた):技術が劣っている人。知識や経験が浅い人。
- 休むに似たり:休んでいるのと変わらない。成果がゼロであること。
「下手の考え休むに似たり」の語源・由来
この言葉の由来は、囲碁や将棋の世界にあります。
腕前の低い人(下手)ほど、局面の判断ができずに長考に陥りがちです。しかし、いくら時間をかけても、結局は悪手を指してしまったり、単純な見落としをしたりします。
その様子を見た周囲の人が、「あんなに長く考えてもダメな手を打つのなら、考えている時間は寝て休んでいるのと同じようなものだ」と揶揄したのが始まりとされています。
ここから転じて、ビジネスや学問など、あらゆる分野での「不毛な長考」を指す言葉として定着しました。
「下手の考え休むに似たり」の使い方・例文
現代では、他人に使うと侮辱になるため、主に自分自身の非効率さを自虐する際や、親しい間柄で「悩みすぎだ」と指摘する際に使われます。
例文
- 素人の私が故障したエアコンを前に腕組みしていても、「下手の考え休むに似たり」だ。さっさと業者に電話しよう。
- 「下手の考え休むに似たり」と言うだろう。いつまでも一人で抱え込まず、詳しい先輩に聞きに行こう。
- テスト中に難問で止まってしまったが、「下手の考え休むに似たり」と思い直し、次の問題へ進んだ。
文学作品での使用例
- 福翁自伝(福沢諭吉):
「下手の考え休むに似たりで、出来ないことは出来ないとして断念するに若(し)くはない」
※「悩むより、潔く諦めて次へ進め」という文脈で使用されています。
「下手の考え休むに似たり」の類義語・派生語
馬鹿の考え休むに似たり(ばかのかんがえやすむににたり)
「下手の考え~」から派生した言葉。
「下手(技術的な未熟さ)」が「馬鹿(知能的な愚かさ)」に置き換わっており、より意味が強く、攻撃的なニュアンスになります。現在ではどちらも同じ意味で使われます。
その他
- 石臼を箸で刺す(いしうすをはしでさす):
箸で重い石臼を持ち上げようとするような、無理で不可能なことのたとえ。 - 枯れ木に花は咲かぬ(かれきにはなはさかぬ):
生気のないものからは何も生まれないこと。
→逆の意味:枯れ木に花咲く
「下手の考え休むに似たり」の対義語
「考えること」や「相談すること」には価値があると説く言葉です。
- 三人寄れば文殊の知恵(さんにんよればもんじゅのちえ):
凡人(下手)であっても、三人集まって相談すれば、素晴らしい知恵が出るものだという教え。独りよがりな思考の対案として使われます。 - 念には念を入れよ(ねんにはねんをいれよ):
時間をかけて慎重に検討することを良しとする言葉。
「下手の考え休むに似たり」の英語表現
英語にも「未熟な思考」の無意味さを説く表現があります。
A fool’s thinking amounts to nothing.
- 意味:「愚か者の思考は、何物にもならない(ゼロに等しい)」
- 解説:「休むに似たり(成果ゼロ)」のニュアンスに近い表現です。
Don’t waste your time thinking about things you can’t change.
- 意味:「変えられないことを考えて時間を無駄にするな」
- 解説:能力不足で解決できないことを悩む徒労を戒める、現代的なフレーズです。
「下手の考え休むに似たり」に関する豆知識:プロでも同じ?
将棋の世界には、「長考に好手なし(ちょうこうにこうしゅなし)」という格言もあります。
これは「下手」に限らず、プロの棋士であっても、長考に沈んでいる時は迷いが生じている証拠であり、あまり良い手を指せないことが多い、という意味です。
直感(第一感)が正しいケースは多く、迷えば迷うほど判断が鈍るというのは、熟練者にも共通する人間の心理的特徴なのかもしれません。
まとめ – 行動への切り替えスイッチ
「下手の考え休むに似たり」は、私たちに「思考の損切り」の大切さを教えてくれます。
知識や経験が足りない状態で悩み続けても、時間の浪費になるだけです。
この言葉が頭をよぎったら、それは「考えるのをやめて、調べたり相談したりするフェーズに移るべき」というサインです。
悩む時間を「学ぶ時間」や「行動する時間」に変えることが、下手(未熟者)を脱出する一番の近道と言えるでしょう。







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