美しさのあまり、言葉を失う瞬間。
もし、その美貌が「自然界の花や月さえも恥じ入って隠れてしまうほど」だとしたら、一体どれほど美しいのでしょうか。
「羞花閉月」(しゅうかへいげつ)は、まさにそんな圧倒的な美しさを形容する言葉です。
日常会話で頻繁に使われる言葉ではありませんが、絶世の美女を表す最上級の賛辞として、物語や歴史の中で輝き続けています。
意味
「羞花閉月」とは、容姿がきわめて美しい女性のことです。
美しいものの代表である「花」や「月」でさえも、その女性の美しさの前では恥ずかしくて身を隠してしまう、という比喩から来ています。
構成の解説
- 羞花(しゅうか):花が恥じてしぼんでしまうこと。
- 閉月(へいげつ):月が恥じらって雲に隠れてしまうこと。
語源・由来
この言葉は、中国の歴史や伝説に名を残す「中国四大美女」の逸話に由来します。
「羞花閉月」の四文字は、そのうちの二人、楊貴妃(ようきひ)と貂蝉(ちょうせん)の美しさを讃えたものです。
1. 「羞花」:楊貴妃のエピソード
唐の時代の皇妃であり、世界三大美女の一人としても知られる楊貴妃。
彼女が後宮の庭を散歩し、憂いを帯びて花に触れたところ、その花がしぼんでしまいました。(含羞草(おじぎそう)だったという説があります)。
これを見た周囲の人々が「花でさえ、彼女の美しさに恥じてしぼんでしまった」と噂し、「羞花」の称号で呼ばれるようになりました。
2. 「閉月」:貂蝉のエピソード
小説『三国志演義』などに登場する美女、貂蝉。
彼女が夜、月に向かって憂国の祈りを捧げていると、その姿があまりに美しかったため、月がすっと雲の中に隠れてしまいました。
それを見た彼女の養父(王允)が「娘の美しさに、月も恥じ入って隠れてしまった」と周囲に吹聴したことから、「閉月」と呼ばれるようになりました。
使い方・例文
現代の日常会話でカジュアルに使うにはいささか大げさな表現ですが、小説などの文学作品や、歴史上の人物を語る際などに用いられます。
例文
- 彼女はまさに「羞花閉月」の装いで、パーティー会場に現れたすべての人の視線を奪った。
- その国には、「羞花閉月」と称えられる美しい姫がいたという。
- 姉は「羞花閉月」の美人だが、妹は愛嬌たっぷりの人気者だ。
類義語・関連語
「羞花閉月」と似た意味を持つ言葉には、同じく「中国四大美女」に由来する言葉や、美しさを形容する四字熟語があります。
- 沈魚落雁(ちんぎょらくがん):
魚が泳ぐのを忘れて沈み、雁(かり)が飛ぶのを忘れて落ちるほどの美人。「羞花閉月」とセットで使われることが多く、残りの二人の美女(西施・王昭君)を指します。 - 傾国傾城(けいこくけいせい):
君主がその美しさに迷い、国や城を滅ぼしてしまうほどの美女。 - 国色天香(こくしょくてんこう):
国一番の美しさと、天のものとも思えぬ香り。元々は牡丹(ぼたん)の花の形容ですが、転じて絶世の美女を指します。 - 明眸皓歯(めいぼうこうし):
明るく澄んだ瞳と、白く美しい歯。美しく整った顔立ちの形容。これも楊貴妃の美しさを表現した詩(杜甫『哀江頭』)に由来します。
「羞花閉月」と「沈魚落雁」
どちらも絶世の美女を表す言葉ですが、指している対象(由来となる人物)が異なります。
ただ、現代日本で使用する分には、どちらも「この上なく美しい女性」という意味で同義として扱って差し支えありません。二つを合わせて「沈魚落雁、羞花閉月の美人」と表現することもあります。
英語表現
「羞花閉月」を英語で表現する場合、美しさの程度が並外れていることを強調するフレーズを用います。
a drop-dead beauty
- 意味:「気絶するほどの美女」「悩殺するような美人」
- 解説:息をのむような、衝撃的な美しさを表す現代的な表現です。
- 例文:
She is a drop-dead beauty.
(彼女は息をのむほどの美人だ。)
out of this world
- 意味:「この世のものとは思えない(ほど素晴らしい)」
- 解説:美しさだけでなく、素晴らしさが常識を超えている場合に使われます。
豆知識
セットで覚える「中国四大美女」
「羞花閉月」と「沈魚落雁」。この二つの四字熟語を合わせることで、中国の伝説的な四人の美女が揃い踏みします。
- 西施(せいし):沈魚(川面を覗き込むと、魚が見とれて沈んだ)
- 王昭君(おうしょうくん):落雁(琴を弾く姿に見とれて、雁が落ちてきた)
- 貂蝉(ちょうせん):閉月(月が恥じて雲に隠れた)
- 楊貴妃(ようきひ):羞花(花が恥じてしぼんだ)
歴史ドラマや小説などで彼女たちが登場した際、この言葉を思い出してみると、その美貌の描写がいっそう鮮やかに感じられるかもしれません。
まとめ
花がしぼみ、月が隠れる。
「羞花閉月」は、自然界の美の象徴さえも圧倒する、人間離れした美しさを表現する言葉です。
現代において、これほど壮大な褒め言葉を使う機会は少ないかもしれませんが、フィクションの世界や、歴史のロマンに触れる際には、この言葉が持つ「伝説級の美」のニュアンスを味わってみてください。





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