期待が膨らみ、すべてがうまく回っているように感じられる瞬間に限って、横やりが入って台無しになってしまう。
幸せな時間は長く続かず、どこかに必ず水を差すものが潜んでいる。
——そんな人生の思い通りにならなさを表した言葉が、「花に嵐」(はなにあらし)です。
意味・教訓
「花に嵐」とは、良いことや幸運な出来事には、とかく邪魔が入りやすいことのたとえです。
見頃を迎えた花を散らしてしまう激しい嵐のように、物事が順調なときほど、思わぬトラブルに見舞われやすいという戒めが含まれています。
語源・由来
「花に嵐」の由来は、唐の詩人・于武陵(うぶりょう)が詠んだ『勧酒』(かんしゅ)という詩の一節にさかのぼります。
その詩の中に登場する「花発多風雨、人生足別離」という表現が語源です。
花が咲けば、それを散らす風雨がやってくる。人生もまた、別れに満ちている——満開の花を容赦なく散らす嵐の姿を、ままならない人の世の運命と重ね合わせた一節です。
絶頂には必ず邪魔が入るという自然の摂理を詠ったこの言葉は、やがて前半部分だけが独り歩きするように日本へ伝わり、「良い状況には災難がつきもの」という教訓として広く定着しました。
その根底には、美しいものはいつまでも続かないという、東洋的な無常観が静かに流れています。
もともとは友との別れを惜しむ詩の文脈で生まれた言葉でしたが、日本では次第に意味が広がり、成功や幸福のさなかに思わぬ冷や水を浴びせられるような場面全般を指すようになりました。
花を愛でる文化を持つ日本人にとって、嵐で花が散る光景は、期待が崩れ落ちる落胆を表すのにこれ以上ない比喩だったのでしょう。
使い方・例文
「花に嵐」は、幸福な状況に水が差された際や、好調なときほど気を引き締めるべきだという文脈で使われます。
日常のささいな不運から人生の岐路まで、幅広い場面で用いられます。
例文
- 内定直後の会社倒産。まさに「花に嵐」だ。
- 快勝目前の雨天中止。「花に嵐」の結末となった。
- 念願の開店日に大雪とは、まさに「花に嵐」だ。
文学作品での使用例
『厄除け詩集』(井伏鱒二)
于武陵の漢詩「勧酒」を、作家の井伏鱒二が日本語に訳したものです。
その結びの一節は、別れの切なさと人生の無常を象徴する言葉として非常に有名です。
花に嵐のたとえもあるさ
サヨナラだけが人生だ
類義語・関連語
「花に嵐」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 月に叢雲(つきにむらくも):
良いことには、とかく邪魔が入りやすいこと。 - 好事魔多し(こうじまおおし):
良い出来事には、災難がついて回りやすいということ。 - 寸善尺魔(すんぜんしゃくま):
良いことはわずかだが、それを妨げる悪いことは非常に多いこと。
対義語
「花に嵐」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
英語表現
「花に嵐」を英語で表現する場合、以下のような定型表現があります。
Every rose has its thorn.
「どんなバラにも棘がある」
美しいものや喜びには、必ず苦しみや欠点が伴うという意味で最も一般的に使われます。
- 例文:
Always remember that every rose has its thorn.
(どんな喜びにも苦労はつきものだと忘れないでください。)
Light is not without shadow.
「光に影はつきものだ」
明るい場所には必ず影があるように、良いことには必ず悪い側面や邪魔が入るという意味です。
- 例文:
Even in success, light is not without shadow.
(成功の中でも、光に影はつきものだ。)
まとめ
美しい花が嵐に散らされる光景は、古くから日本人の無常観を象徴してきました。
物事が絶好調なときほど、私たちはつい足元への注意を怠ってしまうものです。
「花に嵐」という言葉は、不運を嘆くためだけにあるのではありません。
幸せな瞬間をより大切にし、万が一の備えを忘れないようにという、先人からの穏やかな警告と言えるかもしれません。
この言葉を心に留めておくことで、思わぬ変化にも動じない、しなやかな強さを持つことができるようになることでしょう。








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