強力な権力を持つ親戚がいると分かった途端、それまでの腰の低さが嘘のように強気になる。
あるいは、上司との親密さを武器に、同僚に対して傲慢な態度を取る。
自分自身にはそれほどの実力がないにもかかわらず、後ろ盾の威光を背景にして威張り散らす。
周囲からは冷ややかな目で見られていることにも気づかず、虚勢を張るその姿を、
「虎の威を借る狐」(とらのいをかるきつね)と言います。
意味・教訓
「虎の威を借る狐」とは、他人の権力や権威を背景にして威張る小人物のことです。
実力のない者が、有力者の力を借りて周囲を威圧する様子を揶揄(やゆ)する際に使われます。
この言葉には、自分の実力を過信せず、借り物の力で人を動かそうとすることの浅ましさや、いつかその化けの皮が剥がれることへの警告が含まれています。
語源・由来
「虎の威を借る狐」の由来は、中国の戦国時代の逸話をまとめた『戦国策』(楚策)に記された故事にあります。
虎に捕まった狐が「自分は天帝から百獣の王に任じられた。疑うなら後ろをついてこい」と言い、虎を連れて森を歩きました。
動物たちが逃げ出したのは背後の虎を恐れたからですが、虎は自分を恐れているとは気づかず、狐の威勢に騙されてしまいました。
この物語から、「強者の力を自分のもののように見せかけて利用すること」を指すようになりました。
「江戸いろはかるた」の読み札として採用されたことで、日本でも広く定着しました。
使い方・例文
「虎の威を借る狐」は、特定の後ろ盾があることで態度が急変する人や、組織の看板を自分の実力だと勘違いしている人を批判する文脈で使われます。
例文
- 部長のお気に入りであることを鼻にかけて命令してくる彼は、まさに「虎の威を借る狐」だ。
- 親の財力を背景に威張っているようでは、虎の威を借る狐と笑われても仕方がない。
- 「虎の威を借る狐のような真似はせず、自分の腕一本で勝負したい」と彼は語った。
- 取引先の偉い人と知り合いだというだけで強気になる姿は、虎の威を借る狐そのものだ。
文学作品・メディアでの使用例
『戦国策』(劉向 編)
「虎の威を借る狐」という言葉の語源となった、最も有名な古典的エピソードです。
虎、以為(おも)えらく、獣の己を畏(おそ)れて逃ぐるなりと。故に、「虎の威を借る狐」と言うなり。
(現代語訳:虎は、獣たちが自分を恐れて逃げたのだと思った。ゆえに、これを虎の威を借る狐と言うのである。)
類義語・関連語
「虎の威を借る狐」と似た意味を持つ言葉には、権力を背景にする様子や、他人の力を利用することに焦点を当てたものがあります。
- 狐仮虎威(こかこい):
「虎の威を借る狐」をそのまま四字熟語にしたもの。 - 笠に着る(かさにきる):
権力者などの後ろ盾を頼みにして、威張った態度を取ること。 - 人の褌で相撲を取る:
他人の物や力を利用して、自分の目的を果たしたり利益を得たりすること。 - 尻馬に乗る(しりうまにのる):
分別のないまま、他人の言動に便乗して物事を行うこと。
対義語
「虎の威を借る狐」とは対照的な意味を持つ言葉は、他人に頼らず自分の力で立つことを強調する表現が中心となります。
- 独立独歩:
他人に頼らず、自分の信じる道を自分の力で進むこと。 - 自力更生(じりきこうせい):
他人の助けを借りず、自分自身の力だけで立ち直り、生活を切り開くこと。
英語表現
「虎の威を借る狐」を英語で表現する場合、イソップ寓話に由来する言い回しや、他人の威光を利用することを指す表現が使われます。
An ass in a lion’s skin
- 意味:「獅子の皮を被ったロバ」
- 解説:イソップ寓話に登場する、ライオンの皮を被って他の動物を脅かしたロバの話に由来します。実力がないのに強者のふりをするという点で、非常に近いニュアンスです。
- 例文:
He acts tough, but he’s just an ass in a lion’s skin.
(彼は強がっているが、単なる獅子の皮を被ったロバだ。)
Borrowed plumes
- 意味:「借り物の羽(で着飾る)」
- 解説:他人の功績や権威を自分のもののように見せかけて自慢することを指します。
- 例文:
She is strutting around in borrowed plumes of her father’s success.
(彼女は父親の成功という借り物の羽で威張っている。)
知っておきたい豆知識
この故事に登場する狐は、非常に知能が高いキャラクターとして描かれています。
単に威張るだけでなく、死の淵にありながら「私は天帝に遣わされた」という大胆な嘘をつき、さらにそれを証明するために「虎を先導する」のではなく「虎を後ろに従わせる」という心理戦を仕掛けています。
現代では否定的な意味で使われますが、古典の文脈では、絶体絶命のピンチを「知恵」で切り抜けた狐の機転の鮮やかさという側面も読み取ることができます。
もっとも、私たちが日常生活でこの言葉を使う際は、あくまで「実力不相応に威張る不届き者」への皮肉として機能します。
まとめ
「虎の威を借る狐」は、他人の力を自分の実力だと勘違いして威張る愚かさを教えてくれる言葉です。
誰かの後ろ盾を得ることは、時には大きな力になりますが、それだけに頼っていては自分自身の成長は望めません。
周囲から信頼されるのは、借り物の「威光」ではなく、あなた自身の誠実さや積み上げた実力であるはず。
この言葉を、自分の足でしっかりと立つことの大切さを再確認するための指針にしたいものですね。








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