忙しくて手が回らないとき、ふと目の前に暇そうにしている人がいると、つい「ちょっとこれお願い」と声をかけたくなるものです。
そんな切羽詰まった人間の心理と生活の知恵を表したのが、
「立っている者は親でも使え」(たっているものはおやでもつかえ)です。
意味・教訓
「立っている者は親でも使え」は、急ぎの用事があるときや非常に忙しいときは、たとえ親であっても遠慮せずに手伝ってもらうべきだという意味です。
転じて、切羽詰まった状況では身近にいる人や利用できるものは何でも使って急場をしのげという教訓を含んでいます。
本来は敬うべき存在である親を「使う」という極端な例を挙げることで、事態の切迫感と、なりふり構っていられない必死さを強調しています。
語源・由来
「立っている者は親でも使え」の由来は、昔の農村社会における農繁期の切実な労働環境にあります。
かつての社会では、子が親に用事を言いつけることは大変な不作法とされてきました。
しかし、田植えや稲刈りなど休む間もないほど忙しい時期には、座って休んでいる人にわざわざ頼むよりも、たまたま立っている身近な人に頼む方が合理的です。
緊急時には身分や上下関係といった建前よりも、目の前の実利や効率を優先せよという、庶民のたくましい生活感覚から生まれた言葉です。
使い方・例文
「立っている者は親でも使え」は、非常に忙しくて人手が欲しい状況で、たまたま近くにいた人に用事を頼む場面や、その忙しさを言い訳する場面で使われます。
- 準備が終わらないから立っている者は親でも使えの精神で手伝ってほしい。
- まさに立っている者は親でも使えの状況で、友人にまで荷運びを頼んだ。
- 師走は立っている者は親でも使えというほど店が混雑する。
類義語・関連語
「立っている者は親でも使え」と似た意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 居仏が立ち仏を使う(いぼとけがたちぼとけをつかう):
座っている人が、たまたま立っている身近な人に用事を頼むこと。 - 立って居れば仏でも使う(たっていればほとけでもつかう):
親と同様に尊い存在である仏様であっても遠慮せず頼るべきだという同義の言葉。 - 猫の手も借りたい(ねこのてもかりたい):
非常に忙しく、誰でもいいから手伝ってほしい様子。 - 容れ物と人はある物使え(いれものとひとはあるものつかえ):
容器も人間も、必要なときには手近にあるものをうまく利用せよという教訓。
英語表現
「立っている者は親でも使え」を英語で表現する場合、以下の定型的な言い回しが近しいニュアンスを持ちます。
All is fish that comes to the net.
意味:網に入るものはすべて魚だ(手に入るものはすべて利用するべきだという例え)
- 例文:
We need everyone’s help. All is fish that comes to the net.
みんなの助けが必要だ。使えるものは何でも使おう。
Any port in a storm.
意味:嵐の時の港ならどこでもいい(困難な状況ではどんな助けでも受け入れるということ)
- 例文:
I didn’t want to ask him, but it’s any port in a storm.
彼には頼りたくなかったが、背に腹は代えられない状況だった。
Many hands make light work.
意味:手が多くなれば仕事は軽くなる(大勢で協力すれば仕事が早く終わるということ)
- 例文:
Call the others. Many hands make light work.
他の人を呼んで。大勢でやれば早く終わるよ。
上司に使ったら大惨事? 現代社会での「正しい」使いどころ
現代社会においてこの言葉を文字通りに実践する場合は、少し注意が必要です。
ビジネスシーンで、たまたま手が空いて立っているからといって、上司や先輩に用事をお願いするのは、当然ながら大変失礼にあたります。
この言葉はあくまで「自分が忙しさをアピールするための言い訳」や「親しい間柄でのユーモア」として使うのが無難です。
一方で、チームワークという視点で見れば、「手の空いている人が率先して動く」という適材適所の合理的精神でもあります。
遠慮しすぎて一人で抱え込むよりも、緊急時には身近なリソースを最大限に活用する柔軟さが、いつの時代も求められていると言えるでしょう。








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