「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがあります。
熱い飲み物を飲んだ時の感覚を思い浮かべると、なんとなく意味が想像できるかもしれませんね。これは、人間の性質のある一面を的確に言い表した言葉です。
この記事では、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の意味やその背景、使い方、そして関連する表現について、分かりやすく解説していきます。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の意味・教訓
このことわざは、どんなに苦しい経験やつらい状況も、その時が過ぎ去ってしまえば、その苦しさをけろりと忘れてしまうという意味です。
熱いものを飲み込む時、喉を通る瞬間は非常に熱く感じますが、飲み込んでしまえば(喉元を過ぎれば)、その熱さの感覚はすぐに薄れて忘れてしまう、という日常的な経験にたとえています。
さらに、この意味から転じて、苦しい時に受けた恩や助けも、状況が楽になったり、時間が経ったりすると、ありがたみを忘れてしまうという意味でも使われます。人間の忘れやすさや、恩知らずな側面を戒める教訓として用いられることが多い言葉です。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の語源 – 苦痛の感覚
このことわざの語源は、文字通り熱いものを飲み込んだ時の感覚に基づいています。
食べ物や飲み物が喉を通る(喉元)瞬間は、その熱さや苦痛を強く感じます。
しかし、その瞬間が過ぎ去ってしまえば、その強烈だった感覚は比較的早く薄れ、忘れられていきます。
この、直接的な身体感覚の経験から、より広く、苦しい経験やつらい状況、あるいは受けた恩なども、時間が経てば忘れてしまいやすいという人間の一般的な性質を指す比喩として使われるようになりました。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」が使われる場面と例文
主に、過去の苦労や失敗の教訓、受けた恩などを忘れてしまう人間の性質を指摘したり、戒めたりする場面で使われます。
- 苦しかった経験を忘れる:災害の恐ろしさや、貧しかった時代の苦労などを、時が経つにつれて忘れてしまうこと。
- 恩を忘れる:困っている時に助けてもらった恩を、状況が良くなると忘れてしまうこと。
- 失敗から学ばない:過去の失敗やつらい経験から教訓を得たはずなのに、しばらくすると同じような過ちを繰り返してしまうこと。
例文
- 「災害への備えを怠るなんて、まさに喉元過ぎれば熱さを忘れるだ。」
- 「あれほど苦しい時に助けてもらったのに、今では知らんぷりとは、喉元過ぎれば熱さを忘れるにもほどがある。」
- 「前の失敗を繰り返さないように、喉元過ぎれば熱さを忘れることのないように、常に教訓を心に刻んでおこう。」
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の類義語・関連語
苦しい時だけ頼ったり、状況が良くなると恩を忘れたりする様子を示す、似た意味のことわざがあります。
- 苦しい時の神頼み:普段は神仏を信じない人でも、苦しい状況になると神や仏に助けを求めること。状況が良くなると忘れる含みを持つ。
- 雨晴れて笠を忘る(あめはれてかさをわする):雨がやむと、雨具である笠のありがたみを忘れてしまうこと。恩を忘れやすいことのたとえ。
- 病治りて医師忘る(やまなおおりていしわする):病気が治ると、世話になった医者の恩を忘れてしまうこと。
- 暑さ忘れて陰忘る(あつさわすれてかげわする):暑い時に世話になった日陰のありがたさを、涼しくなると忘れてしまうこと。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の対義語
直接的な対義語は多くありませんが、受けた恩を忘れないことや、教訓を心に留めておく姿勢を示す言葉が対照的です。
- 恩に着る:受けた恩をありがたく思い、感謝の気持ちを持ち続けること。
- 結草報恩(けっそうほうおん):死んでからでも、受けた恩に報いようとすること。恩を深く心に刻み、決して忘れないことのたとえ。
- 教訓を生かす:過去の経験から学んだ教えを、その後の行動や判断に役立てること。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の英語での類似表現
英語にも、苦しい時の状況や恩を忘れやすい人間の性質を示すことわざがあります。
- Danger past, God forgotten.
意味:危険が去れば、神のことは忘れられる。苦しい時の神頼みに近い意味。 - Vows made in storms are forgotten in calms.
意味:嵐の中で立てた誓いは、凪(なぎ)になれば忘れられる。困難な状況での決意が、状況が良くなると忘れられること。 - Once on shore, we pray no more.
意味:ひとたび岸に着けば、我々はもはや祈らない。船が難破しそうな時に祈っても、助かれば祈るのをやめることから。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」を使う上での注意点
このことわざは、人間の忘れやすい性質、特に苦労や恩に対する忘れやすさを指摘し、戒める意味合いで使われることが多い言葉です。
そのため、他人の行動に対して使う場合は、相手を「恩知らずだ」「教訓を学ばない」と非難するような響きを持つことがあります。相手や状況によっては、直接的な批判と受け取られ、人間関係に影響を与える可能性もあります。
自分自身への戒めとして使うか、あるいは一般的な人間の性質として客観的に述べる際に使うのが、より穏当な使い方と言えるでしょう。
まとめ – 苦しい時の教訓を忘れずに
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」は、熱いものを飲み込んだ時の感覚にたとえ、苦しい経験やつらい状況、そして受けた恩でさえも、時が過ぎれば忘れてしまいがちである、という人間の性質を鋭く指摘したことわざです。
この言葉は、過去の経験から学び、感謝の気持ちを持ち続けることの大切さを私たちに教えてくれます。
苦しい時の気持ちや教訓を忘れずに、将来に生かしていく姿勢を持つための、良い戒めとなる言葉と言えるでしょう。
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