「あの人、健康の専門家なのに自分の体調はボロボロだ…」
「すごく腕の良い大工さんなのに、自宅は雨漏りしているらしい…」
このように、ある分野の専門家が、他人のためにはその技術や知識を存分に発揮する一方で、自分自身のこととなると全く手が回っていない、という話を聞いたことはありませんか?
「髪結いの乱れ髪(かみゆいのみだれがみ)」は、まさにそのような状況を表すことわざです。
「髪結いの乱れ髪」の意味・教訓
「髪結いの乱れ髪」とは、「他人のためにはその専門技術を使うのに、自分自身のことには手が回らないこと」のたとえです。
また、そこから転じて、「理屈はよく分かっているのに、自分では実行しないこと」をも指すようになりました。
この言葉の核心は、その職業の人が怠けているわけではなく、むしろ「他人(顧客)の対応に追われすぎるあまり、自分自身のことをする余裕がなくなってしまっている」という皮肉や一種のユーモアを含んだ点にあります。
「髪結いの乱れ髪」の語源 – 職業の姿から
このことわざの語源は、言葉通りの情景に由来します。
「髪結い」とは、江戸時代から明治時代にかけて、他人の髪を結って整えることを職業としていた人(現在の理容師・美容師に近い職業)のことです。
その髪結いが、お客様の髪はきれいに結い上げるのに、自分自身の髪は手入れが行き届かず、乱れたままになっている。この「専門家なのに自分自身のことはおろそか」という分かりやすい情景から、このことわざが生まれました。
「髪結いの乱れ髪」の別名
「髪結いの乱れ髪」は、「髪結い髪結わず(かみゆいかみゆわず)」とも言います。意味は全く同じです。
使用される場面と例文
このことわざは、「専門家が自分の専門分野で、自分自身のことをおろそかにしている」場面で使われます。
現代で言えば、美容師、医師、大工、デザイナー、コンサルタント、教師など、あらゆる専門職に当てはめて使うことができます。
例文
- 「彼は有名なファイナンシャル・プランナーなのに、自分の老後資金の準備が全くできていないらしい。まさに「髪結いの乱れ髪」だ。」
- 「あの敏腕コンサルタント、クライアントの業務効率化は進めるが、自分のチームはいつも残業続きだ。「髪結いの乱れ髪」とはこのことだ。」
- 「いつも生徒には『早寝早起きが大事だ』と言っている教師が、夜更かしばかりしている。「髪結いの乱れ髪」もいいところだ。」
類義語・言い換え表現
「髪結いの乱れ髪」とほぼ同じ意味を持つことわざは、職業を変えた形で数多く存在します。
- 医者の不養生(いしゃのふようじょう):
他人の健康管理には厳しい医者が、自分自身の健康には無頓着なこと。 - 紺屋の白袴(こうやのしろばかま):
染物屋(紺屋)が、他人の袴は染めるが、自分は染めていない白い袴をはいていること。 - 大工の掘っ建て(だいくのほったて):
立派な家を建てる大工が、自分は粗末な掘っ建て小屋に住んでいること。 - 易者身の上知らず(えきしゃみのうえしらず):
他人の運勢は占う易者が、自分の身の上は分からないこと。
これらはすべて、職業が異なるだけで「他人のために忙しく、自分のことは後回し」という同じ教訓を示しています。
英語での類似表現
「髪結いの乱れ髪」やその類語(紺屋の白袴など)と非常によく似た発想のことわざが英語にも存在します。
The shoemaker’s children go barefoot.
- 直訳:「靴屋の子供は裸足(はだし)で行く。」
- 意味:靴屋は他人のためには靴を作るが、自分の子供の靴を作る時間がない、という状況を表します。「紺屋の白袴」や「髪結いの乱れ髪」に最も近い表現の一つです。
The tailor’s wife is worst clad.
- 直訳:「仕立て屋の妻は、一番ひどい身なりをしている。」
- 意味:(同上)仕立て屋が忙しく、自分の妻の服にまで手が回らないことを指します。
まとめ – 「髪結いの乱れ髪」から学ぶ知恵
「髪結いの乱れ髪」は、専門家が陥りがちな「あるある」を面白おかしく表現した言葉です。
他人を助けること、仕事に邁進することは尊いことですが、それに夢中になるあまり、自分自身(や家族)のケアを忘れてしまってはいないか、と問いかけてくれます。
忙しい時こそ、自分自身の「髪の乱れ」にも目を向ける余裕を持ちたいものですね。



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