意味
「大工の掘っ建て」とは、専門家が他人のためには立派な仕事をするが、自分のことには手が回らずおろそかになっているという意味です。
この言葉の核心は、技術や知識を持ち合わせているはずの本人が、その恩恵を最も受けていないという矛盾した状況にあります。
語源・由来
「大工の掘っ建て」の由来は、職人の生活風景を描写した言葉にあります。
「掘っ建て」とは、礎石(土台となる石)を置かず、地面に穴を掘って直接柱を立てただけの「掘っ建て小屋」を指します。
他人のためには何十年も保つ堅牢な家を建てる大工が、自分は仮住まいのような粗末な小屋に住んでいる。
この鮮やかな対比が、言葉の語源となりました。
使い方・例文
「大工の掘っ建て」は、特定の分野のプロが、プライベートや自社の管理においてその専門性を活かせていない文脈で使われます。
例文
- 料理研究家の夕飯が毎日インスタントラーメンなのは、大工の掘っ建てだ。
- 美容師の息子の髪がいつも伸び放題なのは、まさに大工の掘っ建てといえる。
- 整理収納アドバイザーの自宅が散らかっている。まさに大工の掘っ建てだ。
類義語・関連語
「大工の掘っ建て」と似た意味を持つ言葉には、職業を変えた表現がいくつもあります。いずれも「専門家が自分のことを後回しにする」という共通の構造を持っています。
- 医者の不養生(いしゃのふようじょう):
他人に健康を説く医者が、自分自身は不摂生をしていること。 - 紺屋の白袴(こうやのしろばかま):
他人の服を染める染物屋が、自分は染めていない白い袴をはいていること。 - 髪結いの乱れ髪(かみゆいのみだれがみ):
他人の髪を整える髪結いが、自分の髪は乱れたままにしていること。 - 易者身の上知らず(えきしゃみのうえしらず):
他人の運勢を占う易者が、自分の将来のことは全くわかっていないこと。 - 坊主の不信心(ぼうずのふしんじん):
立派な教義を説く僧侶が、自分自身は信仰心を持っていないこと。
英語表現
「大工の掘っ建て」を英語で表現する場合、職業こそ異なりますが、西洋でも全く同じ発想の格言が使われています。
The shoemaker’s children go barefoot
「靴屋の子供は裸足(はだし)で歩く」
靴屋は他人の靴を直すのに忙しく、自分の子供の靴を作る暇がないという、日本語の「大工の掘っ建て」と全く同じニュアンスの定型句です。
The shoemaker’s children go barefoot.
(靴屋の子供は裸足で歩くものだ。)
The tailor’s wife is worst clad
「仕立て屋の妻は、最も粗末な服を着ている」
優れた技術を持つ夫を持ちながら、その技術が身近な家族に還元されていない皮肉を表します。
柱を土に埋める建て方
掘っ建てとは、地面に穴を掘って柱をそのまま埋める建て方です。
弥生時代の高床の倉や住居はこの方式で、日本の建物の作り方として長く使われてきました。
柱の根元が土に接しているため腐りやすく、建て替えが前提になります。
柱を石の上に載せる礎石建ては仏教とともに伝わり、6世紀末以降の寺院や役所の主要な建物に採られました。
掘っ建てと礎石は、そのまま建物の寿命の違いになります。










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