「あの人だけ、なんだか輝いて見える…」
多くの人々が集まる集団の中で、ひときわ才能や容姿が優れていて、一人だけ際立って見える人に出会ったことはありませんか?
「鶏群の一鶴(けいぐんのいっかく)」は、まさにそのような、凡人の中に優れた人物が一人混じっている様子を鮮やかに描き出す言葉です。
「鶏群の一鶴」の意味・教訓
「鶏群の一鶴」とは、「多くの平凡な人々(鶏の群れ)の中に、ひときわ優れた人物(一羽の鶴)が混じっていること」のたとえです。
たくさんの鶏の中に、姿かたちの美しい鶴が一羽だけ紛れ込んでいる情景を想像してみてください。鶴の姿は、周囲の鶏とは比べ物にならないほど目立つはずです。
このように、能力、容姿、品格などが、周囲の凡庸な人々とは比べ物にならないほど傑出している人物を称賛する際に用いられます。
「鶏群の一鶴」の語源 – 『晋書』の故事
「鶏群の一鶴」は、中国の歴史書『晋書(しんじょ)』や、逸話集『世説新語(せせつしんご)』に見られる故事に由来します。
「竹林の七賢」の一人として有名な文人・嵇康(けいこう)の子である嵇紹(けいしょう)は、父譲りの才能と立派な風貌を持っていました。
その彼が都(洛陽)を訪れた際、ある人が彼の堂々とした姿を見て感嘆し、別の人(王戎:おうじゅう)にこう語ったとされています。
「昂昂然として、野鶴の鶏群に在るがごとし」
(彼の堂々とした様子は、まるで鶏の群れの中にいる一羽の野鶴のようだ)
この「鶏群に在る野鶴」という表現が元になり、「鶏群の一鶴」という言葉が生まれました。
「鶏群一鶴」との表記の違い
この言葉は、本来の故事に基づく四字熟語としては「鶏群一鶴(けいぐんいっかく)」、または鶴が立つ様子を強調した「鶴立鶏群(かくりつけいぐん)」と表記されます。
日本では、助詞「の」を補い、「一羽の鶴である」ことを強調した「鶏群の一鶴」という形が、ことわざや慣用句として広く定着しています。
使用される場面と例文
「鶏群の一鶴」は、ある集団の中で、一人だけが明らかに(良い意味で)目立っている状況、特にその人物の才能や容姿、品格を高く評価し、称賛する文脈で使われます。
例文
- 「新入生の彼は、上級生チームの中でも「鶏群の一鶴」とも言える才能の持ち主だ。」
- 「彼女の企画力は、同期入社の社員たちの中で「鶏群の一鶴」であり、すぐに頭角を現した。」
- 「多くの凡作が並ぶ展示会の中で、彼の作品だけが「鶏群の一鶴」のごとく輝いて見えた。」
類義語・言い換え表現
「鶏群の一鶴」と同様に、「集団の中でひときわ優れている」という意味を持つ言葉を紹介します。
- 鶴立鶏群(かくりつけいぐん):
「鶏群の一鶴」の元となった四字熟語。意味は同じ。 - 出類抜萃(しゅつるいばっすい):
才能や能力が、同類(仲間)の中から飛び抜けて優れていること。 - 白眉(はくび):
多くの中で最も優れているものや人のこと。中国の故事に由来します。
関連語 – 似ている言葉との違い
「鶏群の一鶴」と似た状況で使われがちな言葉に「掃き溜めに鶴」や「玉石混淆」がありますが、これらはニュアンスが異なります。
- 掃き溜めに鶴(はきだめにつる):
「汚く価値のない場所(掃き溜め)」に、場違いなほど美しく優れたもの(鶴)が現れること。
※「鶏群の一鶴」の「鶏群(平凡な集団)」と異なり、こちらは「汚い・卑しい環境」という明確なマイナスの評価を含み、その落差の激しさに焦点が当たります。 - 玉石混淆(ぎょくせきこんこう):
「価値のあるもの(玉)」と「価値のないもの(石)」が、区別されずにごちゃ混ぜになっている状態。
※「一人が際立っている」こと(鶏群の一鶴)ではなく、良いものも悪いものも「混在している状態そのもの」を指す言葉です。
対義語
「鶏群の一鶴」(一人が飛び抜けている)とは正反対の、「集団の中に差がなく、みな平凡である」という意味を持つ言葉が対義語となります。
- 団栗の背比べ(どんぐりのせいくらべ):
どれも似たり寄ったりで、特に優れたものがないこと。 - 五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ):
わずかな違いはあっても、本質的には大差がない(特に良くない)こと。 - 凡夫俗子(ぼんぷぞくし):
平凡で、ありふれた人々。(※これは「鶏群の一鶴」の「鶏」の部分を指す言葉です)
英語での類似表現
「鶏群の一鶴」の「凡人の中の優れた人」というニュアンスに近い英語表現を紹介します。
A giant among pygmies
- 直訳:「小人(ピグミー)の中の巨人」
- 意味:「凡人の中の傑出した人物」という、「鶏群の一鶴」と非常によく似たニュアンスで使われます。
To stand head and shoulders above (the rest)
- 直訳:「(他の人々より)頭と肩が一つ分抜きん出ている」
- 意味:能力や才能が他者より明らかに優れていることを示す、一般的な表現です。
使用上の注意点 – 周囲への配慮
「鶏群の一鶴」は、非常に高い称賛の言葉ですが、使う相手と状況に細心の注意が必要です。
この言葉は、「一人の優れた人(鶴)」を褒めると同時に、「それ以外の多くの人々を平凡(鶏)」と見なす意味合いを強く含んでいます。
そのため、その「鶏」とされる集団の人々の前で使うと、「あなたたちは凡人だが、彼だけは別格だ」と言っているのと同じになり、非常に失礼にあたる可能性があります。
本人を褒める場合でも、第三者の前ではなく、個別に伝えるか、周囲への敬意を忘れないように使うべきデリケートな言葉です。
まとめ – 「鶏群の一鶴」から学ぶ知恵
「鶏群の一鶴」は、集団の中で輝く才能を「鶴」にたとえた、非常に分かりやすく、そして最大級の賛辞の一つです。
自分がそう評されるよう努力するのも素晴らしいことですが、もし他者をそのように評する場合には、その言葉が周囲にどう受け取られるかを考える配慮も忘れたくないものですね。





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