大きな目標を立てたものの、実行に移すのが難しいと感じたことはありませんか? あるいは、他人の計画を聞いて「口で言うのは簡単だ」と思ったこともあるかもしれません。
このような状況にふさわしいことわざが「言うは易く行うは難し」です。
この言葉が持つ深い意味や背景、日常生活での具体的な使い方、似た言葉や反対の言葉、さらには英語での表現などを解説します。
「言うは易く行うは難し」の意味・教訓
「言うは易く行うは難し」とは、「口で計画や理論を述べることは簡単だが、それを実際に実行し、成し遂げることは非常に困難である」という意味のことわざです。
言葉の核心は、「言う」ことの容易さと、「行う」ことの困難さの対比にあります。
単に行動が難しいというだけでなく、行動を伴わない口先だけの評論や計画を戒め、実際の行動や実践がいかに価値があり、尊いものであるかを説く教訓を含んでいます。
「言うは易く行うは難し」の語源
このことわざの由来として有力なのは、中国の前漢時代(紀元前1世紀)に編纂された『塩鉄論(えんてつろん)』という書物にある一節です。
その中の「非鞅篇(ひおうへん)」に「言之易、行之難(これをいうはやすく、これをおこなうはかたし)」とあり、これが直接的な語源とされています。
日本でも古くから同様の考え方は存在し、言葉の通り、計画と実行の難しさという普遍的な真理を表す言葉として定着しています。
使用される場面と例文
「言うは易く行うは難し」は、主に3つの場面で使われます。
- 他人が語る壮大な計画や理想論に対して、その実行の難しさを指摘するとき。(やや批判的・牽制的なニュアンス)
- 自分自身が立てた計画や目標を実行しようとして、その困難さに直面したとき。(自戒や実感として)
- 行動や実践の価値を説く、一般的な教訓として。
例文
- 「新規プロジェクトの計画は立派だが、「言うは易く行うは難し」で、実現には多くの課題が山積みだ。」
- 「毎日1時間勉強すると決めたものの、三日坊主で終わってしまった。まさに「言うは易く行うは難し」だ。」
- 「彼が口にした改革案は理想的だが、現場の抵抗を考えると「言うは易く行うは難し」だろう。」
- 「口先ばかりで行動が伴わない人を批判していたが、いざ自分が実行する立場になると「言うは易く行うは難し」を痛感している。」
類義語・言い換え表現
「言うは易く行うは難し」と似た意味を持つ言葉を紹介します。
- 机上の空論(きじょうのくうろん):
頭の中だけで考えた、実際には役に立たない理論や計画。 - 絵に描いた餅(えにかいたもち):
計画や物事が現実的でなく、何の役にも立たないことのたとえ。 - 口では大阪の城も建つ(くちではおおさかのしろもたつ):
口先だけなら、大阪城を建てるような非現実的なことでも言えてしまうこと。
「言うは易し」が「行うことの困難さ」に焦点を当てるのに対し、こちらは「言うことの非現実性・大げささ」に焦点があります。
対義語
「言うは易く行うは難し」と反対の意味を持つ言葉です。
- 不言実行(ふげんじっこう):
あれこれと口に出さず、黙って実行すること。「言う」ことよりも「行う」ことを重んじる姿勢が、「言う」ことの容易さとは対照的です。 - 有言実行(ゆうげんじっこう):
口に出したこと(公言したこと)を、必ず実行すること。「言う」ことと「行う」ことが一致しており、「言うは易し」とは逆の状態を示します。 - 行うは易く言うは難し:
実行するのは簡単だが、それを言葉で説明するのはかえって難しい、という意味。
職人技や感覚的な作業などに関して使われることがありますが、一般的なことわざではありません。
英語での類似表現
「言うは易く行うは難し」に近い意味を持つ英語表現です。
Easier said than done.
- 意味:「言うは易く行うは難し」。最も直接的で、日常会話でも頻繁に使われる表現です。
- 例文:
Getting everyone to agree is easier said than done.
(全員の同意を得るなんて、言うは易く行うは難しだよ。)
Saying is one thing and doing is another.
- 意味:言うことと行うことは別物である。
- ニュアンス:「言う」と「行う」が全く異なる行為であることを強調する表現です。
Actions speak louder than words.
- 意味:行動は言葉よりも雄弁である。
- ニュアンス:「行うは難し」という困難さよりも、「言う」ことより「行う(行動)」ことの方が重要である、という価値観に焦点を当てたことわざです。
関連する概念 – 心理学から見る「計画錯誤」
このことわざが示す「言う(計画)」と「行う(実行)」のギャップは、現代の心理学でも研究されています。
- 計画錯誤(Planning Fallacy):
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱した認知バイアス(思考の偏り)の一つです。
人は、あるタスクを完了するために必要な時間やリソースを「過小評価」してしまう傾向があります。
これは、過去の経験や潜在的な障害を考慮せず、楽観的に計画を立ててしまうためです。
「言うは易く(=計画は楽観的)」、「行うは難し(=実行は困難)」が起こる心理的な背景の一つと言えます。

使用上の注意点
「言うは易く行うは難し」は、使う場面に注意が必要な言葉です。
特に、他人が意欲的に語る計画や夢に対して使うと、相手のやる気を削いだり、冷笑的・批判的、あるいは上から目線な印象を与えたりする可能性があります。
相手を励ますつもりで「大変だろうが頑張れ」という意図で使ったとしても、皮肉として受け取られる危険性があります。
他人に向けて使う場合は、その場の雰囲気や相手との関係性をよく考慮する必要があります。
一方、自分自身の経験や反省として「自戒」を込めて使う場合には、特に問題ありません。
まとめ – 「言うは易く行うは難し」から学ぶ知恵
「言うは易く行うは難し」は、計画や発言の「容易さ」と、それを実行に移す「困難さ」を鋭く指摘することわざです。
私たちはつい楽観的に計画を立てたり、他人の行動を安易に批評したりしがちです。しかし、実際に物事を成し遂げるためには、地道な努力や多くの障害を乗り越える力が必要です。
この言葉は、口先だけの評論家になることを戒めるとともに、行動することの尊さを教えてくれます。計画(言う)と実行(行う)のギャップを常に意識し、着実な一歩を踏み出すことの大切さを示しているのですね。



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