新しいことを始めようとするとき、何の準備もなしにいきなり挑戦して、うまくいかなかった経験はありませんか。あるいは、専門家のようなことを、学んだこともない人ができるわけがない、と感じる場面もあるでしょう。
「習わぬ経は読めぬ」ということわざは、まさにそのような状況で、学習や準備の必要性を説く言葉です。
「習わぬ経は読めぬ」の意味・教訓
「習わぬ経は読めぬ(ならわぬきょうはよめぬ)」とは、どれほど才能がある人でも、学んだり教わったり、あるいは練習したりしなければ、そのことを実際に行うことはできない、という意味のことわざです。
物事を成し遂げるためには、必ず事前の学習や訓練、準備が必要であるという、基本的な道理を示しています。才能や素質だけで物事ができるわけではない、という戒めや教訓として使われます。
「習わぬ経は読めぬ」の語源
このことわざの直接的な語源は、文字通り「お経」にあります。
「経」とは仏教の経典(お経)のことです。お経は独特の節回しや難解な言葉で書かれているため、専門の僧侶であっても、きちんと師から習い、読み方を学ばなければ正しく読む(唱える)ことはできません。
この事実から転じて、仏教の修行に限らず、あらゆる専門的な技術や知識について「学ばなければ実行できない」という意味で使われるようになりました。
使用される場面
専門的な知識や技術が必要な場面で、それらを学んだことのない人が挑戦しようとしたり、知ったかぶりをしたりするのを諌めるときに使われます。また、基礎的な学習や訓練の大切さを説く際にも用いられます。
例文
- 「彼にいきなり専門的な交渉を任せるのは無理だ。習わぬ経は読めぬというだろう。」
- 「いくらセンスが良くても、基本的な楽譜の読み方を学ばなければ、ピアノは弾けないよ。習わぬ経は読めぬだからね。」
- 「あの新人は、習わぬ経は読めぬも道理、ろくに研修も受けずに現場に出されたらしい。」
- 「習わぬ経は読めぬと言うように、まずは基礎知識をしっかり身につけることが肝心だ。」
類義語・言い換え表現
学習や知識の重要性を示す、似た意味の言葉です。
- 知は力なり(ちはちからなり):
知識を持つこと自体が、物事を成し遂げる力になるということ。 - 習うが一生(ならうがいっしょう):
人は一生学び続けなければならないということ。学習の継続的な必要性を示します。 - 暗闇の鉄砲(くらやみのてっぽう):
あてずっぽうに物事をすること。学習や準備なしに行動する愚かさを指す点で、本ことわざの裏返しと言えます。
対義語
「習わぬ経は読めぬ」とは反対に、学習や理論よりも、実践や経験、才能の重要性を示す言葉です。
- 習うより慣れよ(ならうよりなれよ):
知識として教わるよりも、実際に経験を積むほうが上達への近道であるということ。「習う」ことより「慣れる」ことを重視する点で、まさに対照的な表現です。 - 門前の小僧習わぬ経を読む(もんぜんのこぞうならわぬきょうをよむ):
普段から見聞きしていれば、特に習わなくても自然とできるようになるというたとえ。「習わぬ経は読めぬ」とほぼ同じ言葉を使いながら、正反対の意味を持つ非常に興味深いことわざです。 - 経験は最良の教師(けいけんはさいりょうのきょうし):
何よりも経験から学ぶことが大切であるということ。
英語での類似表現
「習わぬ経は読めぬ」の「学ばなければ実行できない」というニュアンスに近い英語表現です。
You can’t run before you can walk. (Learn to walk before you run.)
- 直訳:「歩けるようになる前に走ることはできない。(走る前に歩くことを学べ。)」
- 意味:「物事には順序があり、基礎を飛ばして応用はできない」
- 解説:基本的なステップ(歩くこと=習うこと)をマスターしなければ、高度なこと(走ること=実行)はできない、という意味で、「習わぬ経は読めぬ」が示す学習の必要性と共通します。
- 例文:
Don’t try to tackle the advanced topics yet. You can’t run before you can walk.
(まだ応用トピックに取り組もうとしないで。習わぬ経は読めぬだよ(歩く前に走れないよ)。)
Knowledge precedes skill.
- 意味:「知識は技術に先行する」
- 解説:何かを上手く行う「技術(Skill)」を身につけるには、まずそれに関する「知識(Knowledge)」、つまり学習が必要であるという、直接的な表現です。
- 例文:
In medicine, knowledge precedes skill. You must study before you can practice.
(医学において、知識は技術に先行する。実践する前に、まず勉強しなければならない。)
まとめ – 「習わぬ経は読めぬ」が示す学習の第一歩
「習わぬ経は読めぬ」は、何事も基礎となる学習や訓練なしには成し得ない、という普遍的な真実を教えてくれることわざです。
対義語として「習うより慣れよ」や「門前の小僧習わぬ経を読む」があるように、実践や環境の中で自然と身につくことも確かに多くあります。
しかし、それら実践や経験(慣れ)が本当に活きてくるのは、やはり土台となる知識や基本(習う)があってこそです。新しい分野に挑戦するとき、まずは基本を学ぶ謙虚な姿勢が大切であることを、この言葉は示しています。


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