過去に必死に練習し、体に染み込ませた技術や感覚。
時間が経ち、「もうできないかもしれない」と不安に思いつつも、いざ向き合ってみると意外なほどスムーズに体が動いた——そんな経験を表すのが、「昔取った杵柄」(むかしとったきねづか)という言葉です。
意味
「昔取った杵柄」とは、若い頃に身につけて今でも衰えていない腕前や技術のことです。
単なる昔の自慢話ではなく、かつて鍛えたおかげで現在もその能力を発揮できるという、実用的なニュアンスを持っています。体が覚えている技能を指して使う言葉です。
なお、「杵柄」を「きねがら」と読むのは誤りで、正しくは「きねづか」です。
語源・由来

日本の伝統行事である餅つきに由来します。
「杵柄」とは、餅をつく道具である杵(きね)の、手で握る柄(え)の部分のことです。
餅つきは力だけでなく、臼を的確に捉えるコントロールや、合いの手との呼吸など高度な技術が求められます。
若い頃に杵を振るって活躍した人は、年を取ってから久しぶりに握ってもそのコツを忘れておらず見事な餅つきを披露できる——そんな光景から、一度体に染み込んだ技術は忘れないという意味で使われるようになりました。
使い方・例文
「昔取った杵柄」は、久しぶりに何かを行った際にその腕前が錆びついていないことを示したり、ベテランの技術を称賛したりする場面で使われます。
自分のことについて使う場合は、謙遜を含みつつ「まだやれますよ」という自信をのぞかせる表現になります。
- 手作りした本棚の仕上がりは、まさに昔取った杵柄だ。
- 昔取った杵柄で、見事なピアノの演奏を披露した。
- 経理部時代に昔取った杵柄で、瞬時に計算を終えた。
類義語・関連語
「昔取った杵柄」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 老いたる馬は道を忘れず(おいたるうまはみちをわすれず):
経験豊かな人は、判断を誤らないというたとえ。「昔取った杵柄」は技術や技能に焦点を当てますが、こちらは知恵や判断力に焦点を当てる傾向があります。 - 亀の甲より年の功(かめのこうよりとしのこう):
年長者の経験や知恵は尊いものであるということ。 - 百戦錬磨(ひゃくせんれんま):
多くの実戦で鍛えられ、経験豊富で処理能力が高いこと。 - 自家薬籠中の物(じかやくろうちゅうのもの):
自分の薬箱の中にある薬のように、いつでも自由に使いこなせる技術や知識のこと。 - 堂に入った(どうにいった):
学問や技芸が優れていて、身についている様子。
対義語
「昔取った杵柄」とは対照的に、能力が衰えたり未熟であったりすることを表す言葉は以下の通りです。
- 焼きが回る(やきがまわる):
年を取ったりして、以前のような鋭さや能力がなくなり、腕が落ちること。刃物の焼き入れが甘くなることに由来します。 - 駆け出し(かけだし):
その仕事を始めたばかりで、経験や技術が未熟な人のこと。
英語表現
「昔取った杵柄」を英語で表現する場合、以下のようなフレーズが適しています。
It’s like riding a bicycle.
直訳:自転車に乗るようなものだ
意味:一度覚えたら忘れない
自転車は一度乗り方を覚えると数年乗らなくても乗れることから、体が覚えている技術を指す際によく使われる慣用句です。
- 例文:
You’ll remember how to ski. It’s like riding a bicycle.
スキーのやり方は思い出すよ。昔取った杵柄さ。
an old hand
直訳:古い手
意味:ベテラン、熟練者
特定の分野で長く経験を積んだ人を指します。
- 例文:
He is an old hand at negotiation.
彼は交渉ごとなら昔取った杵柄だ。
豆知識:杵の形、二つの歴史
現在の餅つきでよく見かける杵はハンマーのような形(横杵)ですが、歴史はより古い形の竪杵(たてぎね)の方が長く、弥生時代の遺跡からも出土しています。
竪杵は棒の中央を細く削って握りやすくした棒状の道具で、正確に臼を捉える技術が必要です。
横杵は後から普及したとされており、どちらにせよ一朝一夕には身につかない職人技が求められます。
また、「昔取った杵柄」は「上方(京都)いろはかるた」の「む」の札にも採用されており、古くから庶民の生活に根付いた言葉であることがわかります。
まとめ
かつて鍛えた技術は、時間が経って記憶の底に眠ることはあっても、いざというときに体がしっかりと思い出してくれる。
「昔取った杵柄」は、そんな経験の確かさと、積み重ねることの意味を教えてくれる言葉です。








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