他人の成功や幸福を素直に喜べず、心がざわついてしまう。
あるいは、大切な人の愛情が自分以外に向くことに不安を感じる。
そんな「嫉妬」は、古今東西、人間が最も扱いに手を焼いてきた感情の一つです。
日本語には、こうした嫉妬の激しさや、他人のものが良く見えてしまう心理、そして嫉妬が引き起こす災いへの戒めなど、多種多様な表現が存在します。
複雑な人間心理を鮮やかに映し出した「嫉妬」にまつわる表現を、目的別に紹介します。
羨望と心理:他人のものが良く見える
自分と他人を比較してしまい、羨ましく思う気持ちを表す言葉です。
- 隣の芝生は青い(となりのしばふはあおい):
英語のことわざ「The grass is always greener」を訳した表現とされる。
他人の持ち物や環境は、自分のものより実際以上に良く見えてしまう心理を表す。 - 隣の花は赤い(となりのはなはあかい):
「隣の芝生は青い」と同じ発想を持つ和語的な表現。
他人の家に咲く花は自分の家のものより美しく映るという、ないものねだりの心理を表す。 - 無い物ねだり(ないものねだり):
自分の手元にないものを、無理に欲しがったりねだったりすること。
恋愛・独占欲:やきもち
相手の愛情が自分以外に向くことを恐れ、独占したいという思いから生じる嫉妬です。
- 焼き餅を焼く(やきもちをやく):
嫉妬すること。恋人など親しい相手の気持ちが他へ向くことを妬む様子を表す。
「焼き餅」は、嫉妬する意の「焼く」に「餅」を添えていった語。 - 嫉妬の炎を燃やす(しっとのほのおをもやす):
怒りや憎しみに近い感情を「炎」にたとえた表現。
人を妬む気持ちが理性を超えて燃え上がり、すべてを焼き尽くしかねない激しさを表す。
才能への反発:成功者を疎む
自分より能力が高い人や、頭角を現している人に対して抱く嫉妬心です。
- 出る杭は打たれる(でるくいはうたれる):
並んだ杭の一本だけ高いと打たれて揃えられる様子にたとえた言葉。
才能があって目立つ者ほど、周囲から嫉妬され足を引っ張られやすい現実を表す。 - 人を呪わば穴二つ(ひとをのろわばあなふたつ):
人を呪って殺そうとすれば、その報いで自分も死ぬことになり、相手と自分の二つの墓穴が要るという意。
他人を陥れようとすれば、自分にも同じ災いが返るという戒め。
嫉妬の表情と行動:醜く歪む心
嫉妬に狂った際の様子や、その感情から生じる行動を表す言葉です。
- 目が三角になる(めがさんかくになる):
普段は丸みを帯びた目が、怒りや嫉妬によって吊り上がり角ばって見える形状の変化を表した言葉。
感情的になった際の険しい表情を指す。 - 歯ぎしりする(はぎしりする):
怒りや悔しさから、歯をかみしめて音を立てること。
ひどく悔しがったり妬ましく思ったりする気持ちを必死にこらえる様子を表す。 - 猜疑心(さいぎしん):
「猜」はそねむ・うたがう意の字で、「疑」と重ねて人を疑う気持ちを表す。
相手の言動に裏があるのではと信じきれない心理。
仏教の視点:煩悩としての嫉妬
仏教において、嫉妬は自分自身の心を濁らせ、苦しみを生み出す煩悩(心の汚れ)の一つとされています。
- 喜無量心(きむりょうしん):
嫉妬を克服するための知恵。他人の幸せを、まるで自分のことのように心から喜ぶ態度。
この心を養うことが、嫉妬という呪縛から逃れる道とされる。 - 嫉(しつ):
他人の繁栄や幸福を目の当たりにした際、それを喜ぶことができず、心に不快感や憎しみを抱くこと。
他人の成功を「自分の損」のように感じてしまう歪んだ心理。 - 慳(けん):
自分の持つ地位や財産などを他人に分かち合うのを惜しむ心。
他人が利益を得るのを妨げようとする嫉妬心と深く結びついている。 - 随煩悩(ずいぼんのう):
嫉妬は、怒り(瞋:しん)から派生する「随煩悩」に分類される。
他人を妬む心は攻撃性へと転じやすく、自分自身の安らぎを奪い去る毒とされる。









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