明らかに事情を知っているはずなのに、すまして「私は何も知りません」という態度をとる人。
あるいは、都合の悪い話題になると急に聞こえないふりをしてやり過ごそうとする様子。
そのような、とぼけて事実を隠そうとする態度を指す言葉が、「知らぬ顔の半兵衛」(しらぬかおのはんべえ)です。
単に嘘をつくというよりも、どこか「食えない人物」「世慣れた態度」というニュアンスを含むこの言葉。
なぜ「半兵衛」という名前が出てくるのか、その由来と正しい使い方を解説します。
意味
「知らぬ顔の半兵衛」とは、本当はよく知っているのに、知らないふりをしてすますこと、またはその人を指します。
- 知らぬ顔:知らないという表情や態度。
- 半兵衛:戦国時代の武将、竹中半兵衛(たけなかはんべえ)の名前にかけた語呂合わせ。
ただ単に「知らない」と嘘をつくのとは少し違い、「あえて関わり合いにならないように、とぼけてその場をやり過ごす」という処世術のようなニュアンスが含まれることがあります。
周囲から見れば「あの人は知っているはずなのに、うまくとぼけているな」と見透かされている状況でよく使われます。
語源・由来
「知らぬ顔の半兵衛」の由来には諸説ありますが、戦国時代の天才軍師、竹中半兵衛重治(たけなかはんべえしげはる)にちなんでいるという説が最も有名です。
1. 竹中半兵衛の知略説
豊臣秀吉に仕えた竹中半兵衛は、非常に知略に優れた人物でした。
彼は余計な波風を立てないため、あるいは重要な機密を守るために、「たとえ事実を知っていても、あえて知らないふりをする」という高度な駆け引きを用いたと言われています。
その冷静沈着で食えない態度から、とぼけることを「半兵衛」と言うようになったとする説です。
2. 単なる語呂合わせ説
江戸時代の人々は、言葉のリズムや語呂合わせ(地口)を好みました。
「しらぬ(知らぬ)」という言葉に、当時有名だった「はんべえ(半兵衛)」という名前を付け足すことで、リズム良く言っただけの言葉遊びであるという説も有力です。
(例:「驚き桃の木山椒の木」のように、意味よりもリズムを重視したもの)
いずれにせよ、特定の「半兵衛さん」という人物がいたから生まれた言葉というよりは、歴史上の有名人のイメージや名前の響きを借りて定着した慣用句と言えます。
使い方・例文
現代の会話では、都合の悪いことや面倒な責任を回避するために「とぼける人」を指して使われます。
少し皮肉を込めて批判的に使うこともあれば、その人の「抜け目のなさ」を表現することもあります。
例文
- 会議でミスの責任を問われたが、彼は最後まで「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んだ。
- 噂好きの彼女のことだから真相を知っているはずだが、聞いても「知らぬ顔の半兵衛」を通している。
- 余計なトラブルに巻き込まれたくないので、ここは一つ、「知らぬ顔の半兵衛」でやり過ごそう。
類義語・関連語
「知らぬ顔の半兵衛」と似た意味を持つ言葉には、しらを切る態度を表す表現がいくつかあります。
- 知らぬ存ぜぬ(しらぬぞんぜぬ):
「知らない、思ったこともない」と、事実を知っているのに関係がないと言い張ること。 - 空嘯く(そらうそぶく):
知っているのに知らないふりをしたり、とぼけて大きなことを言ったりすること。 - 頬被り(ほおかむり):
手ぬぐいで頬を隠すように、知っていながら知らないふりをすること。 - 白を切る(しらをきる):
知っているのに知らないふりをすること。「しらばくれる」も同義。 - かまとと:
知っているのに、わざと世間知らずのふりをしてかわいらしく見せること。(主に女性に対して使われる)
対義語
「知らぬ顔の半兵衛」とは対照的に、知っていることを正直に話したり、積極的に関わろうとする態度を表す言葉です。
- 洗いざらい(あらいざらい):
隠していることを残らず出し尽くすこと。「洗いざらい話す」のように使う。 - 正直(しょうじき):
心が正しく素直で、偽りがないこと。
英語表現
「知らぬ顔の半兵衛」を英語で表現する場合、状況に応じて「とぼける」や「知らないふり」といったフレーズを使います。
play dumb
- 意味:「馬鹿なふりをする」「とぼける」
- 解説:知っているのに理解していないふりをする、という日常会話で最もよく使われる表現です。
- 例文:
Don’t play dumb with me.
(知らぬ顔の半兵衛はやめてくれ。/とぼけるな。)
feign ignorance
- 意味:「無知を装う」
- 解説:”feign”は「装う」という意味の硬い表現。公式な場や文章で「知らないふりをする」と表現する場合に適しています。
- 例文:
He feigned ignorance about the incident.
(彼はその事件について知らぬ顔の半兵衛を決め込んだ。)
豆知識
「半兵衛」はなぜ人気?
江戸時代の言葉遊びには、この「知らぬ顔の半兵衛」以外にも、人名を使ったものが数多く存在しました。
- 恐れ入谷の鬼子母神(おそれいりやのきしもじん):
「恐れ入りました」に地名の「入谷」と「鬼子母神」をかけたもの。 - 嘘を築地の御門跡(うそをつきじのごもんぜき):
「嘘をつく」に地名の「築地」と「本願寺(御門跡)」をかけたもの。
「半兵衛」が選ばれたのは、やはり竹中半兵衛の知名度が高かったことや、「はんべえ」という響きが「しらぬ」という言葉のあとに収まりが良かったからでしょう。
昔の人は、深刻な場面でもこうした言葉遊びを使って、会話の空気を和らげる知恵を持っていたのかもしれません。
まとめ
「知らぬ顔の半兵衛」は、単なる「無視」や「嘘」ではなく、戦国の軍師・竹中半兵衛のイメージからくる「食えない賢さ」や、江戸っ子の「言葉遊び」の精神を含んだ言葉です。
面倒なことに巻き込まれないための処世術として有効な場合もありますが、あまり使いすぎると「信用できない人」「無責任な人」というレッテルを貼られてしまうかもしれません。
使いどころには、半兵衛のような慎重な判断が必要だと言えるでしょう。







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