意味
「鰐の空涙(わにのそらなみだ)」とは、内心では少しも悲しんでいないのに、哀れみがあるように装って流す嘘の涙のことです。
単なる「嘘泣き」以上に、相手を油断させたり騙したりしようとする「悪意」や「冷酷さ」が含まれる表現です。偽善者がその正体を隠すために見せる、演技の涙を指して使われます。
- 鰐(わに):爬虫類のワニ。
- 空涙(そらなみだ):悲しくもないのに流す嘘の涙。
語源・由来
「鰐の空涙」の由来は、西洋に古くから伝わる「ワニは人間を捕らえて食べる際、涙を流して悔やみ悲しむふりをする」という伝説にあります。
この伝説は、古代ローマの博物学者プリニウスの著書『博物誌』や、中世ヨーロッパの旅行記などを通じて広まりました。
そこから転じて、「冷酷な性質を持つ者が、獲物(カモ)を前にして流す欺瞞(ぎまん)の涙」=「偽善者の涙」という意味で使われるようになりました。
日本古来のことわざではなく、英語の「crocodile tears(クロコダイルの涙)」が翻訳され、明治時代以降に定着した表現です。
使い方・例文
「鰐の空涙」は、政治家のパフォーマンス、打算的な人間関係、ライバルを蹴落とした後の同情など、相手の涙が「演技」であると断じる場面で使われます。
- 長年の商売敵が倒産したと聞いて、彼が同情して見せたのは鰐の空涙に過ぎない。
- 会見で涙を拭う議員の姿に、世間はまた鰐の空涙だと冷ややかな目を向けた。
- 普段は厳しい継母が、父の前でだけ私を心配して泣くのは、まさに鰐の空涙だ。
類義語・関連語
「鰐の空涙」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 空涙(そらなみだ):
悲しくもないのに嘘泣きすること。現代では主に「嘘泣き」の意味で使われます。 - 嘘泣き(うそなき):
演技で泣くこと。子供が気を引くために行う場合など、悪意が薄い場合にも使われます。 - 口蜜腹剣(こうみつふっけん):
口では甘いことを言いながら、腹の中では剣のように鋭い害意を抱いていること。 - 笑中に刀あり(しょうちゅうにかたなあり):
笑顔の裏に恐ろしい殺意や悪意を隠していること。 - 猫被り(ねこかぶり):
本性を隠して、おとなしそうに見せること。→猫を被る
対義語
「鰐の空涙」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 血涙(けつるい):
血の涙が出るほどに、激しい悲しみや怒り、無念を感じて流す涙のこと。真実の感情の極致。 - 鬼の目にも涙(おにのめにもなみだ):
無慈悲で冷酷な人でも、時には情にほだされて涙を流すということ。
「ワニ」は嘘の涙ですが、「鬼」は(普段は怖いけれど)本当の涙を流すという点で対照的です。
英語表現
「鰐の空涙」を英語で表現する場合、語源そのものである以下のフレーズを使います。
crocodile tears
直訳は「ワニの涙」で、「嘘泣き、偽善的な涙」を表す表現。日本語と同様、悲しんでいるふりをして相手を騙そうとする際や、偽りの反省を示す際に使われる。
Don’t be fooled by his crocodile tears.
(彼の空涙に騙されてはいけない。)
ワニが食事中に涙を流す仕組み
伝説では「獲物を憐れんで泣く」とされるワニですが、実際にワニが食事中に涙を流すことがあるというのは、現代の生物学でも確認されています。
もちろん、これは悲しいからではありません。
ワニが食事の際に発する荒い息づかい(フーッという音)が副鼻腔を刺激し、涙腺から反射的に涙が押し出されてしまうのです。
また、長時間水上に目を出している際に、目の乾燥を防ぐための生理現象とも言われています。
つまり、ワニにとっては単なる「身体の仕組み」ですが、それを見た人間が「食べている相手を想って泣いているようだ」と解釈したことが、この言葉の始まりだとされています。









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