ほんの少し優しくしただけなのに、いつまでも懐いてくれる。そんな動物のけなげな姿に、心を打たれた経験はないでしょうか。
昔の人は、そんな義理堅い様子を「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」(いぬはみっかかえばさんねんおんをわすれぬ)という言葉で表現しました。
意味
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」とは、受けた恩義は決して忘れてはならないという教えです。
言葉通り、「犬のような動物でさえ、たった三日間世話になっただけで、その恩を三年もの長い間覚えている」という意味から転じて、人間ならばなおさら、受けた恩を疎かにしてはならないという戒めとして使われます。
ここでの「三日」は「ごく短い期間」、「三年」は「非常に長い期間」の象徴です。
わずかな恩であっても、それを長く心に留め、感謝し続けることの大切さを説いています。
語源・由来
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」の由来は、江戸時代に庶民の間で親しまれた「江戸いろはかるた」の読み札として広く知られています。
特定の歴史的事件や偉人の言葉が起源ではありません。古くから犬は人間にとって最も身近なパートナーであり、群れを作りリーダーに従う習性が「忠誠心」や「義理堅さ」の象徴として捉えられていました。
そうした生活の中での実感が、道徳的な教訓と結びつき、ことわざとして定着したと考えられます。
また、「京いろはかるた」や「大坂いろはかるた」にはこの言葉は含まれておらず、江戸(東京)を中心とした地域で特に好まれた表現であることも特徴の一つです。
使い方・例文
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」は、感謝の気持ちを表す際や、義理堅い人を称賛する際によく使われます。
日常会話では、自分が受けた恩を忘れないという決意表明として、あるいは他人の誠実な態度を褒める言葉として機能します。
例文
- 困っていた時に助けてくれた彼のことは一生忘れない。まさに「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」だ。
- 犬は三日飼えば三年恩を忘れぬと言うけれど、うちのポチはオヤツをくれる人なら誰にでも尻尾を振るね。
- 卒業して何年も経つのに、先生への年賀状を欠かさないなんて、彼女は「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」を地で行く人だ。
文学作品・メディアでの使用例
『書かれざる作品』(豊島与志雄)
三日飼はれてその恩を三年忘れない犬と反対に、猫は三年飼はれてその恩を三日にして忘れるといふが、その猫のやうな私は、〜
小説家・豊島与志雄の随筆に登場する一節です。
自身の忘れっぽい性格(あるいは薄情さ)を猫に例える文脈で、対比としてこのことわざが引用されています。
誤用・注意点
目上の人への使用は避ける
本来は「義理堅い」という褒め言葉ですが、相手を「動物(犬)」に例えること自体を失礼だと感じる人もいます。
特に目上の人に対して「部長はまるで犬のように恩を忘れませんね」と言うのは不適切です。
自分自身の心構えとして使うか、親しい間柄や目下の人に対して使うのが無難です。
期間の混同に注意
よくある間違いとして、「三年飼えば三日で忘れる」や「三日飼えば三日で忘れる」など、期間や恩の重さを逆にしてしまうケースがあります。
「短い世話(三日)」で「長い恩(三年)」と覚えましょう。
類義語・関連語
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 結草銜環(けっそうかんかん):
死後も恩を忘れず、霊となって恩返しをしたという中国の二つの故事から。恩返しのたとえ。 - 一飯千金(いっぱんせんきん):
ほんのわずかな恵み(一回の食事)にも、深く感謝して厚くお礼(千金)をすること。 - 犬馬の労(けんばのろう):
主君や他人のために、犬や馬のように力を尽くして働くこと。自分の働きをへりくだって言う言葉。
対義語
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 猫は三年の恩を三日で忘れる(ねこはさんねんのおんをみっかでわすれる):
長期間世話をしても、すぐに恩を忘れてしまうことのたとえ。犬との対比でよく使われます。 - 恩を仇で返す(おんをあだでかえす):
世話になった相手に対して、感謝するどころか害を加えること。 - 飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる):
日頃から世話をして可愛がっていた者から、裏切られたり害を受けたりすること。
英語表現
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」を英語で表現する場合、以下のような言い方があります。
Feed a dog for three days and he will remember your kindness for three years.
- 意味:「犬は三日養えば、あなたの親切を三年覚えているだろう」
- 解説:日本のことわざを直訳的に説明する場合の表現です。
A dog never forgets a kindness.
- 意味:「犬は親切を決して忘れない」
- 解説:よりシンプルに、犬の忠実さを表すフレーズです。英語圏でも犬は忠誠(loyalty)の象徴とされています。
犬と猫の習性の違い
ちなみに、この言葉には対となる「猫」の存在が欠かせません。
昔から「犬は人につき、猫は家につく」と言われるように、犬は飼い主(リーダー)との関係を重視するのに対し、猫は縄張り(場所)の安全を重視する傾向があります。
引っ越しの際、犬は喜んでついてきますが、猫は元の家に帰りたがることがあります。
こうした習性の違いが、人間から見ると「犬は恩(人)を大事にする」「猫は恩(人)を忘れる」と解釈され、このようなことわざが生まれたのでしょう。
まとめ
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」は、犬の忠実さを通して、私たちが忘れがちな「義理」や「感謝」の大切さを教えてくれる言葉です。
誰かに親切にしてもらった時、その場限りで終わらせるのではなく、心の中に留めておく。そんな誠実さを持つことは、信頼関係を築く上で大きな助けになることでしょう。




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