メールを送った直後に「あ、これも伝えておかなければ」と追加の連絡を入れたり、片付けを始めたもののあちこちに目移りして作業が細切れになったり。
一度にスッキリと終わらせることができず、ダラダラと続いてしまうもどかしさは、多くの人が抱く感情でしょう。
このように、物事が一気に完了せず、断続的に繰り返される様子を、
「五月雨式」(さみだれしき)と言います。
一見すると非効率な印象を与える言葉ですが、その背景には日本の情緒豊かな季節の風景が隠されています。
言葉の成り立ちを知ることで、日常のちょっとした不手際も、少し違った視点で見えてくるかもしれません。
意味・教訓
「五月雨式」とは、物事が一度で終わらず、途切れながらも何度も続くことを意味します。
集中して一気に片付けるのではなく、断続的にだらだらと物事が行われる様子を指す言葉です。
単に「長い」ことを表すのではなく、「降っては止み、止んでは降る」という繰り返しのニュアンスが核心となります。
語源・由来
「五月雨式」の語源は、陰暦5月(現在の6月から7月ごろ)に降る長雨、すなわち「梅雨(つゆ)」の降り方にあります。
この時期の雨は、夏の夕立のように激しく降ってすぐに晴れ上がるものではありません。
しとしとと降り始めたかと思えば一度止み、忘れた頃にまた降り出すといった、非常にしつこく断続的な降り方をします。
この「なかなかスッキリと終わらない雨の様子」を、仕事の連絡や物事の進め方になぞらえて表現するようになりました。
なお、「さみだれ」の「さ」は田植えを意味する古語であり、「みだれ」は「水垂れ(みずたれ)」が変化したものという説が有力です。
古来、農耕に欠かせない恵みの雨であった「五月雨」が、時代を経て「物事が捗らない様子」の比喩として定着した点は興味深い文化の変遷と言えます。
使い方・例文
「五月雨式」は、相手に対して「一度にまとめられず手間をかけさせてしまう」という申し訳なさを伝える文脈でよく使われます。
基本的には、自分自身の段取りの悪さを自覚している場面に適した言葉です。
ビジネスでのメール連絡だけでなく、家庭内での家事や学校での学習など、生活のあらゆるシーンで見られる「細切れの作業」を表現するのに重宝します。
例文
- 資料の不備を「五月雨式」に訂正してしまい、ご迷惑をおかけしました。
- 「五月雨式に注文を追加してごめんね」と母が買い物中の私に電話してきた。
- 部屋の掃除を「五月雨式」に進めているため、なかなか全体が綺麗にならない。
- 夏休みの宿題を「五月雨式」に片付けていたら、結局最終日まで残ってしまった。
誤用・注意点
「五月雨式」を用いる際、相手への敬意という点で注意が必要です。
この言葉には「計画性がなく、ダラダラしている」という否定的なニュアンスが含まれています。
そのため、目上の人や顧客に対して「五月雨式に報告してください」と指示を出すのは非常に失礼です。
「何度も手間をかけて持ってこい」と命じているように受け取られかねません。
あくまで「自分の非効率さ」を詫びる際に、「五月雨式で恐縮ですが」といった形で添えるのが正しいマナーです。
また、「五月雨」という漢字から、単に「5月の雨」を指すと誤解されることがありますが、本来は「梅雨(つゆ)」を指す言葉であることも覚えておくと役立ちます。
類義語・関連語
「五月雨式」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 逐次(ちくじ):
順序を追って次々に行うこと。「五月雨式」が非計画的なニュアンスを持つのに対し、こちらは計画的に「一つずつ着実に進める」というポジティブな文脈で使われることが多い言葉です。 - 断続的(だんぞくてき):
絶え間なく続くのではなく、切れたり続いたりすること。感情的な色付けがなく、現象そのものを客観的に表す言葉として使い分けられます。 - 波状(はじょう):
波が打ち寄せるように、何度も繰り返されること。主に「波状攻撃」のように、強い勢いを持って反復される状況を指します。 - 小出し(こだし):
一度に出さず、少しずつ出すこと。意図的に情報を制限したり、出し惜しみしたりする際によく使われます。
対義語
「五月雨式」とは対照的な、一気に完結させる意味を持つ言葉を紹介します。
- 一括(いっかつ):
バラバラのものを一つにまとめること。 - 一気呵成(いっきかせい):
中断することなく、一呼吸のうちに最後まで一気にやり遂げること。 - 一斉(いっせい):
多くのものが一度に同じ動作を行うこと。
英語表現
「五月雨式」を英語で表現する場合、ネイティブが日常的に使用する以下の定型表現が適切です。
piecemeal
- 意味:「断片的な」「少しずつの」
- 解説:一度に全てを終わらせるのではなく、不規則に少しずつ物事が進む様子を表す最も標準的な単語です。
- 例文:I’m sorry for sending the information piecemeal.
(五月雨式に情報を送ってしまい申し訳ありません。)
in dribs and drabs
- 意味:「ポタポタと少しずつ」「細切れに」
- 解説:蛇口から水が垂れるようなイメージで、物事が少しずつ、不定期に届く状況を表す口語表現です。
- 例文:
The guests arrived in dribs and drabs.
(客が五月雨式にやってきた。)
知っておきたい豆知識
「五月雨式」の由来である五月雨は、俳句の世界では「夏」の季語です。
有名な松尾芭蕉の句に「五月雨を あつめて早し 最上川」というものがありますが、ここでは「降ったり止んだり」というよりも、降り続いた雨によって増水し、激しく流れる川の勢いが強調されています。
一方で、私たちが日常で使う「五月雨式」という言葉は、雨そのものの勢いよりも、その「しつこさ」や「切れの悪さ」に焦点を当てています。
一つの自然現象から、「勢い」を感じ取る感性と「停滞」を感じ取る感性の両方が育まれてきたのは、日本人の繊細な観察眼の表れかもしれません。
まとめ
「五月雨式」は、自然界の長雨の様子を借りて、私たちの不完全な段取りや避けられない作業の遅滞を表現する言葉です。
「一度にまとめられない」という状況は、現代のスピード社会では欠点とみなされがちです。
しかし、この言葉を添えてお詫びを伝えることで、自らの至らなさを謙虚に認めつつ、誠実に対応しようとする姿勢を示すことができます。
言葉の由来にある雨上がりの風景を思い浮かべれば、焦る気持ちも少しは和らぐことでしょう。







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