悪いことをした仲間たちが、隠れ家に集まっている。
そこを狙って一気に包囲し、一人も逃さず捕まえる。
そんな光景を目の当たりにしたり、あるいは大掃除などで不要なものを一度にすべて処分してスッキリしたり。
一気に片が付く爽快な状況を、「一網打尽」(いちもうだじん)と言います。
意味・教訓

「一網打尽」とは、一味の者を一度に残らず捕らえることを意味します。
もともとは「一度網を打って、そこにいる魚をすべて捕り尽くす」という漁の様子を表す言葉でした。
そこから転じて、犯罪者の集団や敵対する勢力などを、一度のチャンスで全員捕まえる、あるいは一掃するという意味で使われるようになりました。
この四字熟語は、以下の四つの文字で構成されています。
- 一(いち):一度。
- 網(もう):あみ。
- 打(だ):(網を)打つ。投げる。
- 尽(じん):つくす。残らず。
語源・由来
「一網打尽」の由来は、中国の歴史書である『宋史』の「範純仁(はんじゅんじん)伝」に記された逸話にあります。
北宋の時代、範純仁という政治家が、反対派の策略によって失脚しそうになったことがありました。
彼の政敵たちは、範純仁に関連する人々を一度に全員捕らえて処罰しようと企みます。
その際、首謀者の一人が「これ(範純仁の一派を捕らえること)こそが一網打尽の喜びだ」と豪語したという記録が残っています。
もともとは政敵をあざ笑う言葉として使われましたが、現代では警察が犯人を捕まえる際など、正義の側が目的を達成する場面でも多く使われるようになりました。
使い方・例文
特定の集団や問題を、小分けにせず「一度に」「まとめて」「完全に」処理するような場面で使われます。
ドラマのような緊迫したシーンだけでなく、日常生活の片付けや作業の場面でも活用できる言葉です。
例文
- 警察は数ヶ月にわたる内偵の結果、詐欺グループの拠点を突き止め、「一網打尽」にした。
- 庭の雑草が目立ってきたので、週末に道具を揃えて「一網打尽」に抜き去った。
- 「期末試験まであと一週間だ。苦手な単語をこの単語帳で一網打尽にするぞ」と友人が意気込んでいる。
- 部屋の隅に溜まっていた埃を、最新式の掃除機で一網打尽に吸い取ると気分が良い。
文学作品・メディアでの使用例
『歌行燈』(泉鏡花)
明治から大正にかけて活躍した作家、泉鏡花の代表作の一つです。
能楽を題材にした幻想的な物語の中で、登場人物の台詞や描写としてこの言葉が使われています。
「……そのお祭りへ、土地の浮浪人(ならずもの)が、二十人ばかり、わざと棒を携えて、腕車(くるま)を並べて乗り込みましたのを、巡査が一網打尽に致しまして……」
誤用・注意点
「一網打尽」は、あくまで「捕らえる側(主導権を持つ側)」の視点で使われる言葉です。
そのため、自分が捕らえられる側になったり、負けたりしたときに自嘲的に使うのは一般的ではありません。
また、単に「一つずつ順番に片付ける」ときには使いません。
あくまで「一回の行動で、群れや集団をまとめて」というニュアンスが重要です。
類義語・関連語
「一網打尽」と似た意味を持つ言葉には、徹底的に排除したり、一度に片付けたりするニュアンスのものが含まれます。
- 一気呵成(いっきかせい):
物事を中断せず、一息に仕上げること。 - 一掃(いっそう):
一度に払い去ること。悪いものなどをすっかり取り除くこと。 - 根こそぎ:
残らず全て。根元から抜き取るように徹底的に取り除く様子。 - 一挙悉獲(いっきょしっかく):
一度にすべて捕らえること。一網打尽の同義語として使われる硬い表現。
対義語
「一網打尽」とは対照的な意味を持つ言葉は、一度にまとめずバラバラに行うことや、逃してしまうことを指します。
- 五月雨式(さみだれしき):
一度に終わらせず、断続的にだらだらと続くこと。 - 逐次(ちくじ):
順を追って、次々と。少しずつ段階的に行うこと。 - 取り逃がす:
捕らえるべき対象を、捕まえられずに逃してしまうこと。 - 網の目を潜る(あみのめをくぐる):
法や規制の厳しい監視をうまく避けて通り抜けること。
英語表現
「一網打尽」を英語で表現する場合、一挙に、あるいは一撃で解決するという意味の定型句が使われます。
In one fell swoop
- 意味:「一挙に、一撃で」
- 解説:一度の断固とした行動で、すべてをまとめて終わらせる状況を指します。
- 例文:
The police caught the entire gang in one fell swoop.
(警察はギャングの一味を、一網打尽にした。)
Round up everyone
- 意味:「全員を検挙する、集める」
- 解説:散らばっているものを一つにまとめたり、犯人を一斉に捕らえたりする際によく使われる表現です。
- 例文:
The authorities managed to round up everyone involved in the scandal.
(当局は、不祥事に関与した全員を一網打尽にすることに成功した。)
由来の背景:範純仁という人物
「一網打尽」の語源に登場する範純仁は、実は非常に徳の高い政治家として知られていました。
彼は有名な「先憂後楽」の言葉で知られる範仲淹(はんちゅうえん)の息子です。
彼自身は温厚で誠実な人柄でしたが、そんな彼を疎ましく思った政敵たちが「一網打尽」という言葉を使って彼の一派を排除しようとしました。
つまり、この言葉はもともと「悪いやつらを捕まえた」というポジティブな意味ではなく、「反対勢力をまとめて消してやった」という、権力闘争の冷酷な言葉として誕生したのです。
言葉の背景を知ると、単なる「一掃」という意味以上に、一度にすべてを飲み込む網の恐ろしさを感じさせるかもしれません。
まとめ
「一網打尽」は、漁の網ですべての魚を捕らえる様子から、犯罪者や敵を一挙に捕らえることを意味する言葉となりました。
現代では、警察の検挙シーンだけでなく、溜まった仕事や掃除を一度に片付けるといった前向きな文脈でも使われます。
物事を部分的に残さず、一度に徹底して処理する効率の良さと、それを実行するための準備の大切さを教えてくれる四字熟語と言えます。







コメント