夜中にふと口笛を吹きそうになって「蛇が出るからやめよう」と思ったり、大切な試験の前にカツ丼を食べて「勝つ」と願掛けをしたり。
私たちは普段、科学的な根拠とは別に、古くからの言い伝えや縁起を気にして生活しているものです。
こうした心の動きや、生活に根付いた不思議な習慣を表す言葉は数多く存在します。
ここでは、「迷信」(めいしん)や縁起、俗信にまつわることわざ・四字熟語・慣用句を、その意味や背景ごとに整理してご紹介します。
- 信仰・心のありよう
- 鰯の頭も信心から(いわしのあたのもしんじんから)
- 幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな)
- 触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)
- 疑心暗鬼(ぎしんあんき)
- くわばらくわばら
- 縁起・吉兆
- 生活の戒め・タブー(禁忌)
- 自然・予兆(観天望気)
- 英語表現
- 迷信との付き合い方
- まとめ
信仰・心のありよう
信じる心や、恐怖心が生み出す幻影など、人間の心理を突いた言葉です。
鰯の頭も信心から(いわしのあたのもしんじんから)
つまらないものでも、信じて崇めればありがたいものに見えるということ。
また、信仰心の不思議さや、頑固に信じ込む人を揶揄する際にも使われます。
節分に魔除けとして鰯の頭を柊(ひいらぎ)の枝に刺して戸口に飾る習慣があり、そのような独特の臭気があるものでさえ、信仰の対象になり得ることから生まれました。
幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな)
恐ろしいと思って見ると、何でもない枯れススキさえも幽霊に見えてしまうということ。
恐怖心や疑いの心があると、ありもしないものに怯えてしまう心理を的確に表しています。
実際に確かめてみれば、案外つまらないものだったという場合によく使われます。
触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)
関わり合いさえ持たなければ、災いを招くことはないということ。
本来は「神様のような畏れ多い存在には、下手に手出しをせず敬うべきだ」という意味合いでしたが、現在では面倒なことや厄介な人には関わらないほうが賢明だ、という処世術として使われます。
疑心暗鬼(ぎしんあんき)
疑う心があると、存在しない鬼の姿まで見えてしまうということ。
「疑心暗鬼を生ず」の略で、疑いの念が強くなると、何でもないことまで恐ろしく感じたり、疑わしく思えたりする心理状態を指します。「暗鬼」は暗闇の中にいる亡霊のことです。
くわばらくわばら
雷が鳴った時や、災難を避けるために唱えるおまじない。
平安時代の貴族・菅原道真の領地であった「桑原(くわばら)」には、なぜか一度も雷が落ちなかったという伝説に由来します。
雷神となった道真が、自分の領地だけは避けたと信じられたことから広まりました。
縁起・吉兆
幸運を招くための行動や、良いことが起こる前触れ(吉兆)に関する言葉です。
笑う門には福来たる
いつも笑い声が絶えない明るい家には、自然と幸福が訪れるということ。
悲しいことや苦しいことがあっても、希望を持って明るく過ごそうというポジティブな迷信、あるいは生活の知恵とも言えます。「門(かど)」は家の入り口、転じて家庭や家族を指します。
残り物には福がある
人が取り残したものや、最後に残ったものの中にこそ、思いがけない幸運が含まれているということ。
遠慮して最後になった人を慰めたり、欲張らないことの徳を説いたりする場面で使われます。
縁起を担ぐ
良いことが起こるように、または悪いことが起こらないように、以前に良い結果が出たときと同じ行動をとったり、タブーを避けたりすること。
元々は「御幣(ごへい)を担ぐ」と言われ、神祭りの道具を担ぐことの重々しさや、縁起を気にする様子から転じたとされています。
茶柱が立つ
お茶を淹れた際、茶の茎が湯の中で垂直に浮くこと。吉事が起こる前兆とされる有名な吉兆です。
茶柱が立つこと自体が珍しい現象であるため、それを見られただけで幸運だという意味合いが含まれています。人に話すと運が逃げるとも言われます。
一富士二鷹三茄子
初夢に見ると縁起が良いとされるものの順番。
江戸時代、駿河国(現在の静岡県)の名物を挙げたとも、徳川家康が好んだものを挙げたとも言われます。
一般的にはここまでですが、続きとして「四扇(しおうぎ)、五煙草(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)」という言葉もあり、末広がりや祭り事(扇)、祝い事(煙草)、毛がない=怪我ない(座頭)などの意味が込められています。
生活の戒め・タブー(禁忌)
古くから伝わる「してはいけないこと」には、行儀作法や衛生面、あるいは死を連想させることを避けるための戒めが多くあります。
夜に爪を切ると親の死に目に会えない
夜に爪を切ってはいけないという有名な俗信。
昔は電気などの照明がなく、夜に刃物を使うと怪我をしやすかったことや、「夜爪(よづめ)」が「世詰め(短命)」に通じるという語呂合わせから、親より先に死んでしまう(親の死に目に会えない)と言い含めたとされています。
霊柩車を見ると親指を隠す
葬列や霊柩車に出会ったときは、親指を握り込んで隠さなければならないという言い伝え。
親指は「親」に通じるため、死の穢れ(けがれ)や霊的な影響が親に及ばないように守るための作法とされています。
雛人形をしまい忘れると婚期が遅れる
ひな祭りが終わったら、すぐに雛人形を片付けなければならないという戒め。
「片付けができないようでは良いお嫁さんになれない」というしつけの意味や、人形(身代わり)に引き受けてもらった厄をいつまでも家に置いておくべきではない、という考え方が由来しています。
食べてすぐ寝ると牛になる
食後すぐに横になると行儀が悪い、という意味の戒め。
実際には食後すぐに体を休めることは消化を助けるため、健康面では必ずしも悪くないとされますが、だらしない態度を諌めるために子供によく使われる言葉です。
夜に口笛を吹くと蛇が出る
夜に口笛を吹いてはいけないという戒め。
「蛇」は恐ろしいものの象徴ですが、実際には「近所迷惑になる」「人買いなどの不審者を呼び寄せる」といった防犯やマナーの意味合いが強かったと考えられています。「泥棒が来る」と言う地域もあります。
秋茄子は嫁に食わすな
秋に採れる茄子は美味しいので、憎らしい嫁には食べさせるなという意味(姑の意地悪説)。
一方で、茄子は体を冷やす作用があるため、子供を産む嫁の体を気遣って控えるように言った(優しさ説)や、種が少ないので子宝に恵まれないことを連想させるから(縁起説)など、諸説あります。
北枕
死者を寝かせる際、頭を北に向ける作法があることから、生きている人が北へ頭を向けて寝ることは縁起が悪いとされる俗信。
ただし、風水や健康の観点からは「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」に適しており、地球の磁場の関係で安眠できるとし、むしろ体に良いとする説もあります。
嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる
嘘をついてはいけないという子供への戒め。
地獄の王である閻魔(えんま)大王は、死者の生前の行いを裁く際、嘘をついた者の舌を釘抜きで抜くという俗信から来ています。
自然・予兆(観天望気)
動物の行動などから天気を占う言い伝えです。
猫が顔を洗うと雨
猫が顔を洗うような仕草をすると、近いうちに雨が降るという言い伝え。
湿気が高まると猫のヒゲや皮膚が敏感になり、顔をこする動作が増えるという説や、気圧の変化を感じ取っているという説があり、あながち単なる迷信とは言い切れない側面があります。
雷が鳴ったらへそを隠せ
雷が鳴ると、雷神にへそを取られるから隠しなさいという戒め。
急な雷雨の際は気温が下がることが多いため、お腹を出していると冷えてしまうのを防ぐため、子供にお腹を隠させるための知恵が含まれています。
英語表現
「迷信」を英語で表現する場合、superstition が一般的です。
knock on wood
- 意味:「くわばらくわばら」「魔除けのおまじない」
- 解説:自慢話や幸運な話をした直後に、その運が逃げないように、またはバチが当たらないように「木製品をコツコツ叩く(knock on wood)」という迷信的な動作と共に使われます。イギリス英語では touch wood と言います。
- 例文:
I’ve never been sick in my life, knock on wood.
(私はこれまで一度も病気をしたことがないよ、運が逃げませんように。)
Break a leg!
- 意味:「頑張れ!」「成功を祈る」
- 解説:舞台に出る前の役者に対して使われるフレーズです。「Good luck(幸運を)」と言うと逆に不運を招くという迷信から、あえて悪い言葉(足を折れ)をかけることで逆夢とし、成功を祈る習慣があります。
- 例文:
You have a performance tonight? Break a leg!
(今夜公演があるんだって? 頑張ってこいよ!)
迷信との付き合い方
地域や時代によって、迷信や俗信の中身は大きく異なります。現代では科学的根拠がないとされるものでも、その背景には「衛生面での注意」や「行儀作法のしつけ」、「厳しい自然を生き抜くための観察眼」が隠されていることが少なくありません。
例えば「夜に爪を切るな」は、暗い中で刃物を使う危険性を戒めたものですし、「北枕」は仏教的な敬意の表れでもあります。
単に「非科学的だ」と切り捨てるのではなく、昔の人の願いや生活の知恵として捉え直してみると、言葉の味わいがより深まることでしょう。
まとめ
「迷信」にまつわる言葉は、人間の弱さや不安、そしてより良く生きたいという願いから生まれたものです。
「鰯の頭も信心から」のように心のありようを説くものもあれば、「霊柩車を見ると親指を隠す」のように死への恐れを和らげるためのおまじないもあります。
これらを知っておくことで、日常のふとした出来事に意味を感じたり、先人の知恵を生活に活かしたりするきっかけになることでしょう。







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