安居楽業

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四字熟語 故事成語
安居楽業
(あんきょらくぎょう)

9文字の言葉」から始まる言葉

「平和」という言葉から、皆さんは何をイメージしますか。
戦争がないこと、犯罪が少ないこと、もちろんそれも重要です。
しかし、そこに住む私たちが日々の生活に満足し、生きがいを持って働けているかどうかも、平和を測る大切な物差しではないでしょうか。

そんな、心満たされる理想的な暮らしや社会のあり方を指す言葉として、「安居楽業」(あんきょらくぎょう)があります。

意味

「安居楽業」とは、現在の住まいや地位に満足し、自分の仕事を楽しんで熱心に励むことです。
転じて、世の中がよく治まっていて平和であり、人々が安心して生活できている状態を指します。

  • 安居(あんきょ):その場所に落ち着いて住むこと。自分の置かれた境遇に不満がなく、心が安らいでいる状態。
  • 楽業(らくぎょう):自分の生業(仕事)を楽しみ、愉快に働くこと。

単に「安全だ」というだけでなく、人々が精神的に満たされ、それぞれの役割に喜びを見出しているという、非常にポジティブな社会状態を表す言葉です。

語源・由来

「安居楽業」の由来は、古代中国の歴史書や思想書にあります。

特に有名なのは、思想書『老子』や歴史書『漢書』貨殖伝(かしょくでん)に見られる記述です。
そこには、理想的な治世の姿として「その居に安んじ、その俗を楽しむ(安其居、楽其俗)」と記されています。

これは、「人々が自分の住処に満足し、その土地の風俗や習慣を楽しんで暮らしている」という意味です。

本来の記述は「俗(習慣・暮らし)」を楽しむとされていましたが、生活の基盤である「仕事」が安定してこそ暮らしも楽しめることから、後世において「俗」が「業(仕事)」という文字に置き換わり、「安居楽業」という四字熟語として定着しました。

為政者が無理な干渉をせず、民衆がありのままに、仕事に喜びを感じて暮らせる世界こそが理想郷であるという教えが込められています。

使い方・例文

「安居楽業」は、個人の生活が充実している様子を表す場合と、社会全体が平和であることを称える文脈の双方で使われます。

現代日本では、定年退職後の穏やかな暮らしや、争いごとのない地域社会、あるいはストレスなく働ける良好な職場環境などを表現する際に適しています。
日常会話で頻繁に使う言葉ではありませんが、スピーチや文章の中で「理想の状態」を示す格調高い表現として重宝します。

例文

  • 長年勤めた会社を定年退職し、今は故郷で畑を耕しながら「安居楽業」の日々を送っている。
  • 国民が「安居楽業」できる社会を築くことこそが、政治家に課せられた最大の使命だ。
  • 転職した新しい職場は人間関係も良く、まさに「安居楽業」の境地で仕事に打ち込めている。

誤用・注意点

基本的にはポジティブな意味で使われますが、以下の点に注意が必要です。

  • 現状維持への皮肉として使わない
    「安居」という言葉の響きから、「現状に安住して向上心がない」というニュアンスで使うのは誤りです。あくまで「精神的に満たされ、意欲的に生活している」という良い意味で使います。
  • 「楽業」の読み方
    「がくぎょう」ではなく「らくぎょう」と読みます。「学業(がくぎょう)」と混同しないよう注意しましょう。

類義語・関連語

「安居楽業」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 鼓腹撃壌(こふくげきじょう):
    人々が満腹して腹を鼓(つづみ)のように打ち鳴らし、足で地面を叩いて拍子をとる様子。古代中国の聖天子・堯(ぎょう)の時代、老人が太平の世を謳歌していた故事に由来します。
  • 天下泰平(てんかたいへい):
    世の中が平和で、争いごとがなく穏やかなこと。
  • 含哺鼓腹(がんぽこふく):
    口に食べ物をほおばり、腹を叩いて楽しむこと。衣食住が満ち足りて平和な様子を指します。
  • 安穏無事(あんのんぶじ):
    何事もなく穏やかで平和なこと。

対義語

「安居楽業」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。

  • 内憂外患(ないゆうがいかん):
    国内にも国外にも心配事が多く、苦しい状況のこと。
  • 戦々恐々(せんせんきょうきょう):
    恐れおののき、びくびくしている様子。安心して暮らせない心理状態を表します。

英語表現

「安居楽業」を英語で表現する場合、平和に暮らし、楽しく働くというニュアンスを含めます。

live in peace and work happily

  • 意味:「平和に暮らし、楽しく働く」
  • 解説:四字熟語の意味をそのまま説明的に訳した表現です。
  • 例文:
    The people live in peace and work happily under the new king.
    (新しい王の下で、人々は安居楽業している。)

peace and prosperity

  • 意味:「平和と繁栄」
  • 解説:社会全体が良い状態にあることを端的に表す定型フレーズです。
  • 例文:
    We wish for peace and prosperity for our country.
    (私たちは国の安居楽業(平和と繁栄)を願っている。)

理想的な統治のバロメーター

この言葉は、単に「のんびり暮らす」という意味以上に、「政治や組織の質」を評価するバロメーターとしての側面を持っています。

出典である『漢書』や『老子』の時代において、民衆が「安居(安心して住む)」できるかどうかは、重税や過度な労役、そして戦争がないことの証明でした。
また、「楽業(仕事を楽しむ)」ことができるのは、生活基盤が安定し、収奪される恐れがないからです。

現代においても、ワークライフバランスや心理的安全性といった言葉が重視されるように、人々が安心してそれぞれの役割に没頭できる環境作りは、組織や社会のリーダーに求められる永遠のテーマと言えるでしょう。

まとめ

「安居楽業」とは、不安のない環境で生活し、喜びを持って仕事に励むという、人間にとって最も基本的かつ理想的な幸福の形です。

社会全体の平和を願うときだけでなく、自分自身のライフスタイルを見つめ直すときにも、「今は安居楽業と言えるだろうか?」と問いかけてみるのも良いかもしれません。心身ともに満たされた生活を目指すための、指針となる言葉です。

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