人間到る処青山有り

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ことわざ 故事成語
人間到る処青山有り
(にんげんいたるところせいざんあり)

16文字の言葉」から始まる言葉
人間到る処青山有り 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

新しい土地への引っ越し、進学、あるいは海外赴任。
住み慣れた場所や親しい人々と離れるとき、人は誰しも「自分はこの先、知らない場所でやっていけるだろうか」と心細さを覚えるものです。
しかし、古くから多くの挑戦者たちは、世界を狭く捉える必要はないと説いてきました。
どこへ行っても自分の志を果たす場所は必ずあり、死して骨を埋める場所さえどこにでもあるという覚悟を、
「人間到る処青山有り」(にんげんいたるところせいざんあり)と言います。

意味

「人間到る処青山有り」とは、世の中は広く、どこにでも死んで骨を埋める場所はあるという意味です。
転じて、大きな志を抱いて故郷を出るからには、どこで客死しようとも厭わないという固い決意をあらわします。

この言葉の本来の読み方は「人間(じんかん)到る処青山有り」ですが、現在では一般的に「人間(にんげん)」と読むことが定着しています。

  • 人間(じんかん/にんげん):
    本来の漢語では「人の世」「世間」を指します。
    現代で言う「ヒト(個人)」ではなく、もっと広い社会全体を意味しています。
  • 青山(せいざん):
    青々と草木が茂る山のことですが、ここでは「墓地(骨を埋める場所)」の比喩です。

語源・由来

「人間到る処青山有り」の語源は、幕末の僧侶・釈月性(しゃくげっしょう)が詠んだ漢詩『将に東遊せんとして壁に題す』の一節です。

山口県出身の月性は、尊王攘夷の志を抱いて故郷を離れ、京へ向かおうとしました。
その際、引き止める母に対し、自分の固い覚悟を示すために実家の壁へ詩を書き残したとされています。

「志を立てて故郷を出る以上、成し遂げるまで生きて帰るつもりはない。
故郷の墓に埋葬されることだけが孝行ではなく、世の中は広く、どこにでも骨を埋める場所(青山)はあるのだから」という、悲壮なまでの決意が込められています。

この詩は明治以降、新しい時代を切り拓こうとする若者たちの間で広く愛唱され、座右の銘として定着しました。

使い方・例文

人生の大きな転換期において、退路を断つ覚悟を述べる際や、未知の世界へ踏み出す人の背中を押す文脈で使用されます。

例文

  • 第一志望の大学は遠方だが、「人間到る処青山有り」の精神で親元を離れる決心をした。
  • 彼は海外赴任を命じられた際、「人間到る処青山有りだ」と笑って受け入れ、単身アメリカへ渡った。
  • 起業して失敗するのを恐れる私に、祖父は「人間到る処青山有り。どこでもやり直しはきくものだ」と励ましてくれた。

文学作品での使用例

『草枕』(夏目漱石)
夏目漱石はこの言葉を好み、自身の作品の中で月性の詩とともに「名文」として言及しています。

「人間到る処青山あり」という句を思い出して、その勢で、わざと足の向く方へ、ぶらぶら歩いて行った。
「人間到る処青山有り」

誤用・注意点

この言葉を用いる際に最も注意すべきは、読み方と対象です。

1. 読み方の使い分け
本来の漢詩のルールに基づけば「人間(じんかん)」が正解です。
しかし、現代では「人間(にんげん)」と読むのが一般的であり、どちらを使っても間違いではありません。
専門的な場では「じんかん」を用いると、より正確な知識に基づいている印象を与えられます。

2. 使用する相手への配慮
「死に場所」を連想させる言葉であるため、病床にある人や、高齢の方に対して使うのは適切ではありません。
あくまで「新しい挑戦」や「前向きな門出」を祝う場面で使うのが正解です。

類義語・関連語

「人間到る処青山有り」と似た志や状況を指す言葉を紹介します。

  • 男児志を立てて郷関を出ず(だんじこころざしをたててきょうかんをいず):
    月性の詩の冒頭部分。志を立てて故郷を出るからには、成功するまで生きて帰らないという強い決意。
  • 志ある者は事竟に成る(こころざしあるものはことついになる):
    強い意志を持って努力を続ければ、最後には必ず成功するという教訓。
  • 住めば都(すめばみやこ):
    どんなに不便な土地でも、住み慣れてしまえばそこが一番良い場所に思えるということ。

対義語

「人間到る処青山有り」とは対照的に、故郷への強い執着や、最期は故郷に戻りたいという願いを示す言葉です。

  • 狐死して首を丘に正す(きししてこうべをおかいただす):
    キツネは死ぬとき、自分が住んでいた丘の方へ頭を向けるという言い伝えから、故郷を忘れず、最期は故郷で迎えたいと願うこと。狐死首丘。

英語表現

「人間到る処青山有り」を英語で表現する場合、世界の広さや、勇敢な者にはどこにでも居場所があることを示すフレーズが使われます。

The world is your oyster.

  • 意味:「世界はあなたの思いのままだ」
  • 解説:シェイクスピアの劇中歌が由来。カキの中から真珠を見つけるように、世界中どこにでもチャンスや成功が転がっていることを意味します。
  • 例文:
    Go ahead and take the challenge. The world is your oyster.
    (さあ、挑戦しなさい。世界は君の思いのままだから。)

Everywhere is home to a brave man.

  • 意味:「勇者にとってはどこでも我が家である」
  • 解説:強い意志と勇気を持つ者にとっては、どこの土地であっても安住の地になり得るという、「青山」の概念をより能動的に解釈した表現です。
  • 例文:
    Don’t be afraid to move abroad. Remember, everywhere is home to a brave man.
    (海外へ行くのを恐れないで。勇者にはどこでも我が家があるのだから。)

志士たちが愛した言葉

幕末の志士たちの多くが、この言葉を胸に命を懸けて全国を駆け巡りました。
特に、明治維新を成し遂げた長州(山口県)の若者たちにとって、同郷の僧・月性が遺したこの詩は、精神的な柱となっていたと言われています。

月性自身は、志半ばにして30代の若さで病没してしまいますが、彼の言葉は吉田松陰らを通じて多くの志士たちに受け継がれました。
「どこで死んでも、それが大義のためであれば本望である」という覚悟が、日本の新しい時代を切り拓く原動力となったのです。

現代の私たちにとっても、この言葉は「失敗してもやり直せる場所はどこにでもある」という、一種の安心感を与えてくれる言葉と言えるかもしれません。

まとめ

住み慣れた場所を離れ、未知の世界へ飛び出すのは誰にとっても勇気がいることです。
しかし、「人間到る処青山有り」という言葉は、私たちの可能性は故郷という小さな枠に収まるものではないと教えてくれます。

どこへ行っても、そこには新しい出会いがあり、活躍できる場所があります。
もしあなたが今、新しい環境へ飛び込むことを躊躇しているのなら、この言葉を思い出してみてください。
広い世界へと一歩踏み出す覚悟が、あなたの人生に新しい視点をもたらしてくれることでしょう。

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