初夏に美しい紫色の花を咲かせる、菖蒲(あやめ)と杜若(かきつばた)。
どちらも優雅で、非常によく似ているため、見分けるのが難しいと感じる人も多いのではないでしょうか。
「いずれ菖蒲か杜若」という言葉は、まさにこの二つの花になぞらえて、ある状況や選択の難しさを表現する言葉です。
今回は、この風流で美しい響きを持つ言葉の意味や由来、使い方について見ていきましょう。
「いずれ菖蒲か杜若」の意味・教訓
「いずれ菖蒲か杜若」とは、どちらも優れていて、区別がつかなかったり、優劣がつけにくかったりすることのたとえです。
また、どちらを選んでよいか選択に迷う状況も表します。
特に、甲乙つけがたいほど美しい二人の女性を評する際に、古くからよく用いられてきました。
「どちらの女性も素晴らしくて、一人を選ぶなんてできない」といったニュアンスです。
美人を評する場合以外にも、二つの選択肢がどちらも魅力的で一つに決めかねる時や、非常によく似ていて区別が難しい物事を比較する際などにも使われます。
基本的に、対象となるものがどちらも素晴らしい、という肯定的な意味合いで使われる言葉です。
「いずれ菖蒲か杜若」の語源

この言葉の語源は、文字通り、アヤメ科の植物である「菖蒲(あやめ)」と「杜若(かきつばた)」の花が、どちらも美しく、形や色が非常によく似ていて見分けがつきにくいことに由来します。
- 菖蒲(あやめ):主に乾いた土地に生え、花びらの根元に網目模様がある。
- 杜若(かきつばた):主に水辺や湿地に生え、花びらの根元に白い筋が入っている。
(※ちなみに、同じアヤメ科で似ている花に「花菖蒲(はなしょうぶ)」がありますが、これは湿地を好み、花びらの根元に黄色い筋があるのが特徴です。)
これらはいずれも優劣つけがたい美しさを持つことから、同様にどちらも素晴らしくて選ぶのに迷うような人や物事を、これらの花の名を借りて表現するようになったのです。
「いずれ菖蒲か杜若」が使われる場面と例文
この慣用句は、主に二つのものがどちらも優れていて、優劣や選択に迷う場面で使われます。
- 複数の美人の中から一人を選ぶのが難しい時(伝統的な用法)
- 二つの提案や選択肢がどちらも魅力的で、一つに決められない時
- 見た目や内容が非常によく似ていて、区別が難しいものを指す時
例文
- 今年のミスコンテストの最終候補者は二人とも素晴らしく、審査員も「いずれ菖蒲か杜若」と頭を悩ませている。
- どちらの旅行プランも魅力的で、いずれ菖蒲か杜若、なかなか決められない。
- あの二人の新人作家は作風がよく似ていて才能もあり、いずれ菖蒲か杜若と評されている。
文学作品での使用例
古くは『源氏物語』などの古典文学においても、美しい女性たちを花に例えて評する場面などで、この言葉のニュアンスに近い表現が見られます。
「いずれ菖蒲か杜若」の類義語・関連語
優劣がつけがたいこと、選択に迷うことを示す、似た意味を持つ言葉や関連する表現です。
- 甲乙つけがたい(こうおつつけがたい):どちらが優れているか、等級をつけるのが難しいこと。
- 伯仲(はくちゅう):二者の力量や能力が非常に接近していて、優劣がつけにくいこと。
- 優劣つけがたい:「甲乙つけがたい」と同義。
- いずれ劣らぬ(いずれおとらぬ):どちらも他方に劣らず、同様に優れていること。
- 美人(びじん) / 美女(びじょ):美しい女性。この言葉が使われる典型的な対象。
- 選択(せんたく) / 比較(ひかく):複数のものから選んだり、比べたりすること。
「いずれ菖蒲か杜若」の対義語
二つのものの間に、はっきりとした差があることを示す言葉です。
- 月とすっぽん:二つのものが比較にならないほど、かけ離れて違っていることのたとえ。
- 雲泥の差:天の雲と地の泥ほども大きな違いがあること。比べ物にならない差。
- 比ぶべくもない:比較することができないほど、程度や価値に大きな差があること。
- 明白 / 歴然:違いや優劣がはっきりしていて、疑う余地がないさま。
これらの言葉は、「いずれ菖蒲か杜若」が示す「似ている」「優劣つけがたい」とは対照的に、二者の間に明確な差があることを表します。
「いずれ菖蒲か杜若」の英語での類似表現
英語で「いずれ菖蒲か杜若」のニュアンスに近い表現を探してみましょう。優劣つけがたい状況や選択の難しさを示す言い回しがあります。
- It’s hard to choose between them.
- 意味:「それらの間で選ぶのは難しい」。どちらも魅力的で選べない、という状況を直接的に表現します。
- They are both equally beautiful / excellent.
- 意味:「両方とも同じくらい美しい/素晴らしい」。優劣がつけがたいことを示します。
- Six of one and half a dozen of the other.
- 意味:「一方が6つで、他方が半ダース(=6つ)」。どちらも同じである、大差ない、という意味。甲乙つけがたい、というより「どっちもどっち」というニュアンスで使われることもあります。
- It’s a toss-up (between A and B).
- 意味:「(AとBの間で)コイントスだ」。どちらに転ぶか分からない、五分五分で選ぶのが難しい状況を表す口語表現です。
まとめ – 優劣つけがたい美しさへの賛辞
「いずれ菖蒲か杜若」は、菖蒲と杜若という、よく似ていて共に美しい花になぞらえ、どちらも素晴らしくて優劣がつけがたい、あるいは選択に迷ってしまう状況を表す、風流な慣用句です。
特に美しい女性を評する際に伝統的に使われてきましたが、現代では様々な魅力的な選択肢について語る際にも用いられます。
この言葉は、対象となるものの価値や魅力を称賛すると同時に、選ぶことの難しさをも表現しています。
ただし、特に人物、とりわけ女性の容姿について使う際には、現代的な感覚に照らし合わせ、相手や状況に配慮することも大切かもしれません。
言葉の持つ美しい響きとその背景を理解し、適切に使いたいものですね。
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